保険学雑誌
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被害者救済の観点からみた自動運転の展望と課題
—イギリスを比較対象として—
榎木 貴之
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2024 年 2024 巻 664 号 p. 664_205-664_234

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抄録

自動運転において,自動車損害賠償保障法の適用がない物損では,運転者等の過失立証が容易でないから被害者救済は後退する。製造物責任の欠陥立証が容易になる可能性もあるが,引渡し後の問題をカバーしづらいことや,被害者によるデータ利用方法が確立していないことから,実効性に欠ける。人損被害者の救済は概ね現状からの後退はないが,同時多発的に生じ得るハッキング事故等への手当は必要である。また自動車損害賠償保障法がファーストパーティの損害を担保しないことから,「他人」性判断がより曖昧化する点,人損でも製造物責任追及の必要性が残る点,被害者は自動運転車の挙動を根拠に過失相殺を受けてしまう点などの問題が生じてくる。このような課題を踏まえ,イギリスのように,物損も含め第一次的な支払責任を保険者に集約し,その後は保険者・製造業者等の間で,バランスを意識して構築された求償スキームを通じた解決を目指すべきである。

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