団体定期保険(Aグループ保険)に基づく保険金の最終的な帰属先(企業と従業員の遺族のいずれであるか)を巡る問題は,総合福祉団体定期保険の開発と最高裁2006年4月11日判決により,実務上はひとまずの解決を見たとされるものの,今後一切の問題を引き起こす余地がないとは言い切れない。本稿は,こうした問題意識の下,前記最高裁判決と近接した時期(2004年),団体保険に基づく保険金の帰属先を巡って判決が下されたシンガポールの訴訟事案(ただし,高度障害事案)を手掛かりとし,総合福祉団体定期保険に基づく保険金の帰属先を巡る問題について再考察することを目的とする。その結果は次のとおりであった。シンガポールの訴訟事案の最上級審判決は最終的に否定したものの,その原審判決は,場合によっては,受益者を従業員とする信託が成立し得ることを示唆している。この点,わが国においても,公共工事前払代金について信託契約が成立する旨を判示した2002年最高裁判決が存在している。この論理を応用すると,被保険者の同意が欠如した総合福祉団体定期保険の場合,従業員の遺族の生活保障が保険の目的である旨が約款に明記された当該保険の主契約においては,保険料が前払いされている場合の当該部分につき,払戻金がないとされる原則的取扱いにもかかわらず前払金の残額は払い戻される旨の約款規定を梃子に,信託契約が成立し,当該部分に対応する保険金額が受益者たる従業員の遺族に帰属することになると考えられる。一方,ヒューマン・ヴァリュー特約については,信託契約の成立に必要な目的要件の理解次第で,信託契約の成否両論があり得る。いずれにせよ,保険実務としては,被保険者同意の適正な取得等を確実に履践することが重要である。
抄録全体を表示