日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
第10回日本ロービジョン学会学術総会
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特別講演Ⅱ
命の輝きをつたえる ~ 旭山動物園の試み
*菅野 浩
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p. 39

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抄録

 旭山動物園は1967年に開園した日本で一番北の動物園である。今は動物たちの生き生きとした生態をユニークに観せる『行動展示』で有名になり、多くの観客で賑わっているが、このような楽しい観せ方があるとき突然にできたわけではない。その蔭には、どうすれば自分たちが理想とする「お客さんに感動してもらえる動物園」を創ることができるか、真剣に議論しあい、そのために頑張った二十数年にわたる飼育係員たちの努力の積み重ねがあるのである。
 1980年代、施設の老朽化、レジャーの多様化などによる入園者減を、大型遊具導入により集客を図る方策がとられた。さらにマスコミを中心に動物園罪悪論・無用論の盛り上がり、市会議員の「動物園金食いお荷物施設」発言など、動物園の遊園地化・民営化への危機感がつのり、飼育勉強会などでの徹底した粘り強い話し合いがもたれた。動物園の役割・存在意義、動物園の在り方、どんな動物園にしたいと思うのか、さらに、市民にとってはどうなのか、など議論は多岐にわたった。そのなかで、市民が動物園に関心をも持たず足を運んでくれないのは「自分たちが動物たちの素晴らしさ、楽しさを伝えていないからではないのか」と気づき、お金がなく施設がボロでも出来ることはあると、担当する動物それぞれの能力の高さ、凄さ、素晴らしさを伝える教育活動に取り組み始めたのである。
 伝える工夫は展示施設へも進み、動物たちの能力を引き出し命の輝きを伝える『行動展示』へと発展していったのである。
 それは同時に、入園者が楽しく面白いと感じる展示であり、動物たちのゆったりと満ち足りた幸せな姿を観て、お客さんも幸せを感じる、命の輝きをつたえる観せ方なのである。
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© 2009 日本ロービジョン学会
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