日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
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特別講演
特別講演Ⅰ
  • 田淵 昭雄
    p. 38
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     1998年1月13日、京都大学の本田孔士教授(当時)から「2000年4月に会長を担当する第104回日本眼科学会総会の専門別研究会の形で、“ロービジョン(LV)・ケアの学会”を開催してはどうか」というFAX が届いた。まさに千載一隅のチャンス。LVケアに取組んでいる眼科医が学会レベルで集うからである。
     8名の眼科医、2名の視能訓練士、3名の教育・福祉関係者、そして2名の看護師、計15名による第1回学会設立準備委員会を1999年4月22日に開いた。その後、数回の委員会を開き、学会名を、LVを盲も含む視覚障害と定義し、障害の語句を取るなどの理由から「日本ロービジョン学会」とした。会員は眼科医以外に広く学際的な研究者が基本的である。
     遂に2000年4月9日、第1回日本ロービジョン学会学術総会(田淵会長)が京都会館で開催された。第2回(高橋会長)に漫画家赤塚不二夫氏から学会ロゴが贈呈された。第3回(山縣浩会長)、第4回(新井会長)までは単独開催、第5回(簗島会長)は日本臨床視覚電気生理学会と、第6回(山縣祥隆会長)、第7回(小田会長)、第8回(白木会長)は視覚障害リハ協会の研究発表大会と、第9回(大音会長)は日本眼科看護研究会と、共同開催された。第10回(永井会長)は再び単独学会として開催される。LVケアに関する医学的、福祉社会的、看護的、教育心理的および医療工学的な研究がこれほど多くあるのかといつも驚かされる。
     会員数は当初365名から622名、賛助会員も24社から29社に、眼科施設でのLVクリニックも増えているが、今後の本会の発展には、やはり眼科臨床最前線での眼科医のLV者への初期の関わりが最も重要であることを強調したい。「LV指導料」などの保険収載が実現すると、眼科医や視能訓練士の関わりは急速に拡大し本会もより充実すると信じている。
特別講演Ⅱ
  • 菅野 浩
    p. 39
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     旭山動物園は1967年に開園した日本で一番北の動物園である。今は動物たちの生き生きとした生態をユニークに観せる『行動展示』で有名になり、多くの観客で賑わっているが、このような楽しい観せ方があるとき突然にできたわけではない。その蔭には、どうすれば自分たちが理想とする「お客さんに感動してもらえる動物園」を創ることができるか、真剣に議論しあい、そのために頑張った二十数年にわたる飼育係員たちの努力の積み重ねがあるのである。
     1980年代、施設の老朽化、レジャーの多様化などによる入園者減を、大型遊具導入により集客を図る方策がとられた。さらにマスコミを中心に動物園罪悪論・無用論の盛り上がり、市会議員の「動物園金食いお荷物施設」発言など、動物園の遊園地化・民営化への危機感がつのり、飼育勉強会などでの徹底した粘り強い話し合いがもたれた。動物園の役割・存在意義、動物園の在り方、どんな動物園にしたいと思うのか、さらに、市民にとってはどうなのか、など議論は多岐にわたった。そのなかで、市民が動物園に関心をも持たず足を運んでくれないのは「自分たちが動物たちの素晴らしさ、楽しさを伝えていないからではないのか」と気づき、お金がなく施設がボロでも出来ることはあると、担当する動物それぞれの能力の高さ、凄さ、素晴らしさを伝える教育活動に取り組み始めたのである。
     伝える工夫は展示施設へも進み、動物たちの能力を引き出し命の輝きを伝える『行動展示』へと発展していったのである。
     それは同時に、入園者が楽しく面白いと感じる展示であり、動物たちのゆったりと満ち足りた幸せな姿を観て、お客さんも幸せを感じる、命の輝きをつたえる観せ方なのである。
シンポジウム
シンポジウムⅠ
  • ユニバーサルデザインからユニバーサルサービスへ
    原 利明, 鈴木 克典
    p. 42-43
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    ◇オーガナイザーのことば◇

    1.ユニバーサルデザインとは
     ユニバーサルデザインとは何か?その代表的な事例は、業界がひとつになって視覚障害者にも洗髪中の晴眼者でもシャンプーとリンスを識別できる方法をデザインした取り組みである。このような考え方は、米国ノースカロライナー州立大学のロナルド・メイス氏が提唱したものである。

    2. ユニバーサルデザインの現状
     わが国は世界にも類がない速さで超高齢化社会を迎え、様々な分野で社会基盤の見直しが迫られてきている。生活の基盤の『まちづくり』では、安全に安心して円滑に移動できることが求められ、それを促進させる法律や各種条令が整備され、一定の成果を挙げてきている。このような状況の中、2004年にユニバーサルデザイン政策大綱が制定され、これまでのハード整備に加えソフトの重要性が唱われ、社会環境をデザインすることが示唆されている。

    3. ユニバーサルデザインの実現に向けて
     一方で、Visit Japan等の政策から各地で空港を始めとする交通施設の整備が進められている。そして、それらの整備においてはユニバーサルデザインの考え方に基づいて行われるようになってきた。その先駆けの中部国際空港では、障害当事者が中心となり、多様な利用者が使いやすい空港を追求した。その結果、ハードとソフトの連携が不可欠とされ、建物本体はもちろん事前情報提供、人的サービス、人材教育まで幅広く検討が行なわれ、提案された。その後、他の空港や駅などで同様の取り組みが行なわれるようになってきた。このように法律の整備や事業者の取り組みにより円滑な移動が確保されるようになってきた。
     また、最近では「行きよいまちは、住みよいまち」をテーマにまちづくりに取り組んでいる地域も増えてきた。
     そこで本シンポジウムでは、このような社会状況から移動を楽しむ『たび』をキーワードに今後のユニバーサルデザインのあり方を議論する。
  • 長橋 正巳
    セッションID: S101
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     国交省・観光白書の「平成19年度観光の現状・国民の旅行等に関する意識の動向と実態」によれば今後の生活で重点を置きたい分野は「レジャー・余暇生活」が35.1%と最も多い。旅行は余暇生活において大きな要素のひつとだが加齢や障害を理由に旅をあきらめる方が多い。受け入れる旅行会社としても、対応が困難を理由に申し込みを拒絶している現状である。また、制度面として「バリアフリー新法」「補助犬法」など障害者の移動に関し法的整備が推進されているものの旅行業界自体の障害者理解が進まず旅のユニバーサルデザイン化にはまだ遠い。
     旅の効能は行くまでの期待感、旅行中の感動、旅行後の充足感であり、旅により元気になることである。旅で人と出会い、仲間をつくることで生きがいを感じQOLの向上に効果がある。特に障害を持っている方にとって旅に出ることは大きな自信となり生きる希望に繋がる。「行きたい」という思いを「行ける」にし、障害者が安心して、気兼ねなく旅ができるためにはソフト面における障害者理解教育の推進、旅行介助人材の養成、旅行介助ノウハウの確立が課題となる。また、ハード面においては施設のバリアフリー化はもちろん、旅行に特化した介助具・福祉用具の開発やレンタルシステムの構築が必要となる。
     バリアフリー旅行センターでは「誰もが一生涯、旅を続けられる環境づくり」を目指し課題解決に取り組んできた。今では90歳代の高齢者や障害を持っている方でも参加できる国内外のパッケージツアーを企画。視覚障害の方はもちろん脳血管障害や関節リウマチ、脊損・頚損、筋ジスによる肢体不自由な方が、日帰り旅行から遠くは南アフリカやペルー、ブラジルまでの年間約120本のツアーを楽しんでいる。旅のユニバーサルデザインを目指し「旅をあきらめない、夢をあきらめない」そんな旅づくりをしたい。
  • 切通 堅太郎
    セッションID: S102
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     新千歳空港では、近年特に国際線旅客が急増し、施設の狭隘化により旅客が長時間滞留するなどの問題が発生していた。そこで、現在のビルの西側に国際線旅客ターミナルビル(以下、新国際線ビル)を建設することとなり、現在の新千歳空港旅客ターミナルビルを運営している北海道空港(株)が、公募を経て営業予定者となることが平成18年に決定した。北海道空港(株)はその後新国際線ビルの設計を進め、平成20年5月に着工し、22年3月の供用開始を目指している。
     新国際線ビルは、バリアフリー新法等国の法制度等の動向や、高齢化の進展などの社会的背景を踏まえ、ユニバーサルデザイン(以下、UD)の考えに基づいた整備を行うこととされ、基本設計時点より、UDに関する委員会を設置して各種検討を進めてきている。なお、平成16年に開業した中部国際空港は、障害当事者らが設計段階から積極的に検討に参加して整備され高い評価を得ていることから、本プロジェクトについても中部国際空港の実績を十分に踏まえた整備を行うことが前提となっている。
     UDを踏まえた施設整備を目指していく過程において、当事者の意見は、施主や工事関係者にとって新たな視点を提供することとなり有益なものとなる一方、例えばロービジョン者の中でもその視覚特性は多岐にわたり、時によっては相反する意見もあるため、その整理には十分な検討が必要である。
    つまり、一つの物事を決定していく際には、様々な意見を収集するだけでなく、その物事が決められた背景、経緯、コスト、メンテナンス性等様々な要素を総合的に踏まえなければならず、そのためには、十分な議論のプロセスが必要となる。また、短いスケジュールの中で、そのプロセスをいかに効率的に行っていくかが、UDの推進プロジェクトには求められていると言える。
  • ~新しい文化モデルとしての創成~
    島 信一朗
    セッションID: S103
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     UDをコンセプトとした「北海道ユニバーサル上映映画祭」では、関連企画として誰もが安心して参加できる「ユニバーサルツアー」を実施している。
     映画祭では、全ての上映に音声ガイド・日本語字幕・ミュージックサイン(手話音楽)を付加し、さらに点字や拡大文字パンフ、選択制車いす席、通訳、託児、送迎バス運行、パーソナルサポート等、柔軟にアクセシブルな環境が複数準備され、障害者のみならず誰もが同じ時間と空間を共有する中で、共に映画の感動を不利なく享受することは元より、UDの価値観を共有することによる他者理解や垣根を越えた交流の促進等、映画上映の枠に留まることのない新たな文化モデルとしての発展をも目指し、様々な関連企画と共に開催されている。ここには正に、我々障害当事者が願うUDの木目細かさと柔軟な包容力が共存する社会創成の姿がある。
     また、ツアーに関しても同様に、障害の有無や種別にかかわらず「映画を観たい」という個々のニーズを最大限満たし得るプランにすることは元より、食事や観光地めぐりにおいても、障害を理由に制限するのではなく、モニタリングを充分に重ね、受け入れ側の理解を広げながら、満足と安心が共存するツアーが目指されている。さらに、個別サポートとして、専門ボランティア体制やヘルパーステーション等との連携を強化することで、個のニーズに応じたオプショナル的な柔軟な対応をも可能としている。
     このように、様々なニーズを包容し、さらには障害種別は元より、あらゆる文化の壁をも超えたUDスタイルは、誰もが共に生きる社会づくりにおいて、多元的な価値を有する文化モデルとしての発展が大いに期待される。つまり、単にユーザビリティを広げることだけに留まるのではなく、共有感の広がりが生み出す人の繋がりや心の形成等、総合的価値観を社会全体が共有することが最も重要なのである。
シンポジウムⅡ
  • 田宮 宗久
    p. 47
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    ◇オーガナイザーのことば◇

     政府厚生労働省の社会保障費抑制政策で医療費が削減される中、現場では様々な工夫を凝らしながら、患者さんの要望に応えるため日々努力されていることと思われる。医師不足が叫ばれている昨今、勤務医不足は眼科でも大きな問題である。外来に患者さんがあふれているなか、特に診療報酬上の手当のないロービジョン分野に力を注ぐことは困難な状況である。ロービジョンケアを必要としている患者さんが気軽にかかれるような眼科の現状ではない。さらに、ロービジョンケアを診療報酬上で位置づけたとしても急速にロービジョンケア外来が普及していくという程単純なものではない。
     ロービジョンケアは眼科だけではなく種々の施設、機関で取り組まれているが、社会保障費削減のため、医療現場での困難と同様の困難がそれらの分野にも広がっていると想像される。一方、医療崩壊が進行している状況についての理解が、様々な現場でロービジョンケアに携わっている職員のなかで必ずしも深まっているわけではないと思われる。
     そこで医療崩壊が進行するなかでロービジョンケアはどうなるのか、どうあるべきなのかについて各分野で造詣の深い各位から講演を頂き、ロービジョンケアの近未来をみんなで考えていきたいと思う。
  • 長谷川 公範
    セッションID: S201
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     「医療崩壊」の用語が様々な場面で登場している。免疫学研究者として7年半の米国生活を終え、久しぶりに日本の臨床現場へ戻った医療者の視点から、医療の質と量、コストに焦点を絞り、日米二国間を対比させる形で話題を提供したい。そしてより良い医療の構築には何が必要かを皆さんと一緒に考えてみたい。
     アメリカの医学医療を考えた場合、人材や情報の豊富さ、そして移植を例にした高度医療(質)の部分での高評価には異論は少ない。その一方で、実際の医療に焦点を絞った場合、家庭医専門医を問わずに受診までのアクセス(量)の悪さ、あるいは入院費用等を指標とする経済的負担(コスト)は極めて高い。アメリカのゆとりある診療風景や優れた入院環境、あるいは新薬へのアクセス等の描写に兎角目を奪われるが、そこまでのハードルの高さ、あるいは保険の種類(保険すらない国民も相当数にのぼる)によっては受診不可能という真実は余り知られていない。
     日本の医療現場はいまや大きな変貌に見舞われ、「医療崩壊」と呼ばれるに至っている。帰国後に膠原病内科医として働き、そして免疫学研究者の視点から、「医療崩壊」に至った原因を考え続けてきた。原因は複雑である。あたかも、膠原病が、感染をはじめとする環境因子や多様な遺伝因子などの多因子の複雑な相互作用に起因する病態であり、その発症原因を単一因子に求めることは不可能である状況に類似している。高齢化、医学医療の進歩、患者要求の多様化、情報社会や科学技術の進歩に伴って表出していることも多くある。
     そのような中、様々な医療制度改革や卒前卒後の研修制度改革等が進められてきた。それらの改革の功罪は歴史の評価にゆだねるとしても、医療という風土、歴史や文化が強く関連する社会活動を、メイドインアメリカの「制度」の形式的無批判な輸入で改革していないであろうか。医療の質、量(アクセス)、そしてコストの3要素について、日本の風土、歴史や文化を視野に入れたマクロの視点から論理的に理解し直すという根本作業が、人間が人間らしく「生き」そして「逝ける」社会をつくるために今こそ必要なものと考えている。
  • 長谷川 一郎
    セッションID: S202
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

     現在、ロービジョンケア診療における診療報酬請求は、それぞれ個々の検査により近い内容と思われる矯正視力検査や調節検査などの眼科検査項目を当てはめて請求しているのが実情であるが、ケアの中核となるカウンセリングや訓練など、最も時間も手間もかかる部分が点数として全く評価されていない。その理由は今の医療保険制度ははっきり形となってあらわれにくいものに対しては評価を避ける傾向が強いことに起因している。
     しかし、例えば内科における指導管理料、整形外科や脳神経外科におけるリハビリテーション料、精神科における心身医学療法などのように、一定の点数を設定して評価されているものもある。
    眼科においてもロービジョン指導管理料や訓練としてロービジョンケアに対する適正な点数設定を外保連に対して要求しているが、80年代から続いている医療費削減政策の中、来年度の点数改定でも、その実現は全く不透明な状態である。
     今後の保険医療制度におけるロービジョンケアの位置づけについて、過去の保険医療制度の変遷も踏まえて私見を述べたい。
  • 仲泊 聡
    セッションID: S203
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

     障害者医療・福祉の現状において、厚生労働省の視線は、第一に当事者に向いている。ただし、行政と当事者の途中に介在する各種事業者に関しては、冷静な目で見ている。医療、福祉そして教育は、 当事者ではなく介在者である。つまり、これらをコントロールすることでいかに当事者の福祉を向上させるかが省の役割である。そして、第二にその視線は国外に向く。国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」の批准を直前にして、その根底に流れている思想を十分に意識している。平成21年3月に「国立更生援護機関の今後のあり方に関する検討会」の報告書が提出された。
     そこでは、現在、身体障害者の特性が大きく変化してきており、これに対応すべく『リハビリテーション技術の研究開発や人材育成等の施策の具現化』を果たし、『先導的かつ総合的取組を行い、そのノウハウを民間施設等へ還元すること』が国立更生援護機関の向かうべき方向であると結論づけている。そして、『障害関係機関等との情報ネットワークを構築』し、国内外の情報を収集し、「障害者リハビリテーション総合情報センター」として『障害当事者や関係者が必要とする情報が迅速かつ効果的に提供できるようにすべき』 であると述べている。障害者自立支援法の下に身体障害、精神障害、知的障害が一元化されて扱われるようになり、ややもすると視覚障害に対する関心が希薄になりかねない今、声を大にして視覚障害支援の必要性を提言しなくてはならない。そして、その具体策としての「視覚障害者リハビリテーション総合情報センター」プロジェクトを立ち上げ、全国的なネットワークの実現を果たさなければならない。ここにおける情報と人材の有効活用により近未来の視覚障害者に対するよりよい医療と福祉が実現するであろう。
  • 永井 春彦
    セッションID: S204
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

     眼科医療の主たる役割が、視機能に関わる細胞・組織・器官レベルでの障害の治癒を目指す治療医学的介入であるのに対し、ロービジョンケアは治療医学的要素に乏しく、福祉・教育・行政などの他分野との連携のうえに完成されるリハビリテーション医学的介入である。したがって、医療制度を含むさまざまな社会制度の内容により、ケアのあり方は大きく影響を受ける。我が国におけるロービジョンケアが、眼科医療の中で認知されはじめてから日が浅いこともあり、その普及の裏づけとなる制度上の整備がきわめて不十分な段階で、「医療崩壊」と称される危機的状況が進行しつつある現在、多くの眼科医療従事者にとってロービジョンケアに対するインセンティブは萎縮せざるをえない状況にある。
     そのような環境下にあっても日々ロービジョンケアを実践している我々は、ケアを求める人々に寄り添う視線から、さまざまな社会制度の問題点や矛盾を実感すべき最前線にいると言える。ロービジョン者が直面する社会的困難について、これを敏感に察知してその原因・背景に思いをめぐらせることが重要である。同時に、ケアを提供する側が経験する社会制度上の困難についても、問題の根本を科学的に考察する姿勢が求められる。これらのことを感じ、考えることが、単に医療・福祉分野にとどまらず、日本という国の現在の姿を見つめ、いまこの国が進みつつある方向や近未来の姿を想像する手がかりとなる。
     ロービジョンケアの基本は、ケアを求める人々に、ものを見ることを「あきらめない」、また、見えなくなったために出来なくなったことを「あきらめない」ということを伝えることである。さまざまな困難のなかでロービジョンケアをあきらめずに続けることは、同時にこの国の近未来を「あきらめない」ことであり、そのために考え、行動することが重要である。
ワークショップ
ワークショップⅠ
  • 石子 智士
    p. 54
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    ◇オーガナイザーのことば◇

     中心固視が障害されると物を見るために中心外領域を使うようになる。ハーバード大学スケペンス眼研究所(SERI)のTimberlake博士らは、この研究所で開発された走査レーザー検眼鏡(SLO)を用いて新たに使いはじめた網膜領域を評価しPreferred Retinal Locus(PRL)と呼ぶことを提唱した。その後、現在使っているPRLは必ずしも最も機能が良い領域ではないこと、もっと視機能的に有利な領域を使うよう訓練することができることなど、固視に関する研究がなされてきたがこれらを混同している人も少なくない。一昨年、日本ロービジョン学会では用語委員会によるロービジョン関連用語の整理に取り組み、「PRL」は「偏心視領域」という用語に邦訳することを提唱した。しかし、この用語もその内容も正確に広まってはいないというのが現状である。このワークショップでは、PRLの概念を理解して頂き明日からの臨床に役立つ知識を広めたいという目的で企画された。はじめに、ロービジョン学会用語委員会委員長としてPRLの用語作成に尽力されている岡山大学守本典子医師にPRLの概念のまとめをお願いした。次に、第1回ロービジョン学会招待講演者Catalino博士所属のSERIに留学していた日大駿河台病院藤田京子医師にPRLの評価方法についての解説をお願いした。最後に、偏心視訓練の経験を豊富にお持ちの国立障害者リハビリテーションセンター病院三輪まり枝視能訓練士長に実際に行っている偏心視訓練の紹介をお願いした。このワークショップで、あなたもPRLのスペシャリスト!
  • 守本 典子
    セッションID: W101
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     PRL:preferred retinal locusは、網膜中心窩の感度が低下したために、その代わりとして視対象を捉えるようになった他の網膜領域を指すが、現在、PRLに対応する日本語はない。このような見方は斜視眼の「偏心固視」と区別して「偏心視」と呼ばれることから、一昨年、当学会用語委員会は、PRLの邦訳として「偏心視領域」を提案したが、この機にPRLの概念を整理するとともに、用語についても再検討する。
     PRLは患者が選択した網膜領域であるが、黄斑疾患など網膜疾患で中心暗点を生じた場合のみならず、視神経疾患などで中心視野が障害された場合にもできる。しかし、PRLがすべての作業に最適とは限らず、複数存在したり、視対象や環境によって変わったりする。また、PRLができていない場合や、すでにあるPRLより良い領域(NRL:novel retinal locus)の存在が推察される場合は、その部での偏心視を訓練することが有用とされている。そして、訓練時、この網膜領域はTRL:trained retinal locusと呼ばれ、同部での偏心視獲得後もPRLと区別されることがある。したがって、「偏心視領域」という言葉をPRLのみに適用するのは不都合と考える。
     さらに、SLO、MP-1などの眼底微小視野検査機器で検出する網膜領域に対し、ゴールドマン視野計など通常の視野検査、アムスラーチャート、時計の文字盤などで偏心視の評価や訓練をする視野側の領域を示す言葉もない。実際には、むしろ後者のような方法で偏心視を促すことが多いため、「偏心視(網膜)領域」に対して「偏心視視野領域」と呼んで区別するのも一案であろう。
     本題のPRLについては、preferred(好んで選ぶ)の意を反映させてNRLやTRLとの混同を避け、また視野の側ではなく網膜側の領域を指すことを明確にした「選好網膜領域」あるいは「選択網膜領域」を、PRLの邦訳として新たに提唱する。
  • 藤田 京子
    セッションID: W102
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     「何かの拍子にすごくよく見えたのでもっとよく見ようと目を凝らしてみたが、やっぱり見えなかった。どうして見えるのに見えないのか?」。これは加齢黄斑変性などの黄斑疾患患者からよく聞かれる質問である。「何かの拍子によく見えた」その場所がまさにpreferred retinal locus (PRL)であり、「目を凝らしてみた」場所が機能しなくなった中心窩である。患者が言う「よく見えた」と実感できる部位、すなわちPRLを有効に活用できるように導くことがロービジョンケアの第一歩と考える。PRLはTimberlakeらがScanning laser ophthalmoscope (SLO) microperimetryを用いて報告して以来、多数の報告がある。現在SLO microperimetryは製造中止であるため、PRLの評価にはmicroperimeter-1(MP-1)が用いられている。MP-1はSLOmicroperimetry同様、視野測定機能と眼底撮影機能を併せ持ち、眼底におけるPRLの場所を特定できる。固視の安定性も評価でき、固視目標として単語や短文を用いることも可能である。PRLは視対象の大きさ、明るさなどの条件によって部位が異なることが知られており、MP-1は限られた条件下での評価であるが、眼底と対比させることで多くの情報が得られると考える。
     本ワークショップではMP-1を用いたPRLの評価法について実際の症例を提示しながら述べてみたい。
  • 三輪 まり枝
    セッションID: W103
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     「ものを見ようとして視線を向けた時に、その中心付近が見えにくい」
     これは黄斑変性や視神経萎縮等の何らかの疾患により、視野の中心部に見えにくい部分(中心暗点など)が出現した場合に患者が訴える事柄である。このような症状が治療をしてもなお改善されず、日々の生活に影響を与える場合はどうしたら良いのだろうか。
     「中心部が見えにくい」という症状が出現して間もない患者の視力を測定する際、呈示しているランドルト環が「どこにあるか見えない」と答える場合がある。その時の患者の視線を確認すると、視線の中心で捉えようとしていることが多い。その場合、「視線を動かして見ましょう。何時の方向に目を動かすと環の切れ目がわかりやすくなるか、一緒に確認しましょう。」と促すか、それが困難な場合は患者に目を動かさないように指示し、検査者がランドルト環の位置を動かして見やすい呈示場所を探す。そこで初めて、患者自身が「目を動かすと見やすい、もしくは中心以外の位置にあるものの方が見やすい」と気がつくことがある。
     このように「視線をずらして見やすい位置で見る偏心視がまだ身についていない(つまりPRLを獲得していない)」患者は日常生活において不自由を強く感じていることが多く、特に文字の読みの際に使用する拡大鏡も必要以上に高倍率のものを使用せざるを得ない状態となっている。その場合、なるべく早い段階で「どの方向に、どの程度視線をずらせば良いかという評価と共に、偏心視が安定して継続的にできるように手助けをする必要がある。
     今回、その方法の1つとして、拡大読書器(以下CCTV)を用いて行うPRLを獲得するための訓練を紹介したい。CCTVは、その患者の視機能に合わせて訓練視標の大きさを容易に変えることができるという利点がある。
     訓練法は様々あるが、それらに共通することは、患者自身に「気づかせ、意識してそこを使うようにさせる」ことである。
ワークショップⅡ
  • 発達障害、LD、視覚認知、眼科
    川端 秀仁
    セッションID: W201
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     発達障害は、医学的には脳性まひや知的障害を含むが、発達障害者支援法では「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害(0.8%)、学習障害(4.5%)、注意欠陥多動性障害(2.5%)、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されている。( )内の数値は、2002年に行われた文科省の調査での頻度である。その頻度の高さから、障害のある幼児・児童・生徒の自立や社会参加を支援するという視点に立つ「特別支援教育」が平成19年4月から行われている。しかし眼科領域では未だ発達障害に対する理解は低く、適切な対応がなされていない。広義の視覚認知は、外界の情報を取り入れる入力系(視力、屈折、調節機能、眼球運動、両眼視機能など)、入力された情報を処理する視覚情報処理系(=狭義の視覚認知:形態、空間位置関係、動きなどを認識する機能)、視覚情報を運動機能(読み、書き、目手の協応など)へ伝える出力系から成る。これらの機能は運動機能との相互作用で発達する。発達障害児は、軽度であるがさまざまな知覚、運動面での不調を抱えているが、その特性(集中力が続かない、検査への過度の恐れ、知覚過敏など)や保護者の様々な事情から、視機能の不調に対して適切な対処がされていない場合が多い。発達障害は小児科で診断されるが、児への支援は、関係する保護者・教育・療育・医療機関が連携して取り組む課題である。眼科医としても、発達障害児のもつ特性をよく理解し視機能改善にあたる必要があるが、その際盲学校や弱視教育ですでに実践されている支援方法は発達障害児に対しても有用であると思われる。本ワークショップでは、川端が概論を延べ、大阪医大LDセンターの奥村が「LD児にみられる視覚認知障害」について解説し、旭川盲学校の菅原が「LD児への視覚認知支援の具体例」を紹介する予定である。

    発達障害者支援法(平成16年12月10日法律第167号)
    文科省の調査(全国370の小中学校の生徒41,579人対象)

    LD(Learning Disorder): 学習障害は、文科省による1999年の定義では「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を示すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、 情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接的な原因となるものではない。」とされている。
  • 奥村 智人
    セッションID: W202
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

     視覚情報を効率よく取り込むためには、正確ですばやいサッケードやパスートなどの眼球運動能力が不可欠である。定型発達児に比べ、LD児を含む発達障害児では、正常域知能発達であっても眼科的疾患に起因しない眼球運動の問題の出現率が高く、それが認知能力や学習達成度の低下の原因となることが指摘されている (Scheinman,1994; 三浦,2009)。発達障害における視覚関連の他の問題として、漢字、図形、地図学習の困難、絵を描くのが苦手などを症状とする形態・空間認知(視覚認知)の問題が見られることも多い。それに加え、運筆が苦手、キャッチボールがうまくできないなどを症状とする目と手の協応の問題も存在する。これらの視覚関連の問題の背景には、眼疾患、屈折異常、斜視、弱視などの基本的な視機能に何らかの問題があり、眼科的な対応が求められる場合がある。一方で、基本的な視機能に問題がなく、高次脳機能が関わる視覚認知の問題が原因となる場合もある。LD児を含む様々な発達障害児では、このように「基本的視機能」と「視覚認知」の問題を鑑別し、適正な治療やリハビリテーションを行う必要がある。本発表では、症例を紹介し、LD児への視覚認知障害への対応について考察する。
  • 菅原 素子
    セッションID: W203
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     事例【視覚認知(空間認知と記憶)に課題をもつ児童の漢字の指導について】
     漢字の学習につまづきのある小学3年生の児童は、小学1年生の漢字も読み・書くことができないという主訴で本校教育相談に来校した。知的な遅れはなく、ADHDでLD傾向があるとの診断を受け、情緒障害学級に通級していた児童である。WISC-Ⅲの結果やフロスティッグ視知覚発達検査の結果から、短期記憶と空間関係に課題があり、書き写す学習の困難さが予想された。また、継次処理よりも同時処理が優位な可能性が考えられた。以上の結果を踏まえていくつかの学習方法を実施し比較した結果、「漢字九九カード」と「漢字欠損カード」を組み合わせた学習方法がもっとも高い正答率だった。これは、『空間認知の弱さから全体をとらえることは難しくても、パーツに分け視覚刺激を減らすことで覚えることができるようになったこと。加えて短期記憶は苦手だがストーリー性をもたせ意味づけをすることで記憶を助けることができたこと。』による結果であると思われた。この方法で漢字を学習し、合わせてフロスティッグ視知覚学習ブックに準じたトレーニングドリルを行うことにした。その結果、漢字の学習がスムーズに進み、情緒障害学級の担任に指導の様子を参観してもらった上で、指導方法と教材を引き継ぎ、教育相談を終了した。
研修プログラム
研修プログラムⅠ
  • 小林 章
    セッションID: E1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

     全盲の視覚障害者が歩くときには主に聴覚と触覚の情報を活用する。ロービジョン者はそれにプラスして、視覚情報を活用することができるので、全盲者よりも効率よく、安全に、低ストレスで歩けると、多くの人が考えるかもしれない。しかし、白杖を使用しないロービジョン者は、歩行時に触覚は活用しておらず、多くの場合解像力やコントラスト感度の低下した、あるいは、視野が著しく制限された視覚情報のみに依存して歩いている。見ることに集中する余り、視覚以外の情報がマスキングされてしまうことが多い。その結果、訓練を受けた全盲者は交差点の横断のタイミングを聴覚情報によって判断できるが、多くのロービジョン者はそのことに気付かない。それでも、視覚情報は白杖で確認する触覚情報よりも遠方の情報を常に確認できるので、全盲者より効率良い移動が可能であるはずだが、多くのロービジョン者は白杖で探る距離と同程度の位置を確認しながら歩いている。
     MarronとBailey(1982)によれば、視力、ピークコントラスト感度、視野と歩行パフォーマンスの相関は、視力は著しく低く、ピークコントラスト感度、視野との相関が高いとされている。視野が著しく狭いと、近方に視線を向けるほど情報量が少なくなり、路面の様子を確実にとらえることが難しい。ピークコントラストが低下している場合も、下り段差、急な路面の傾斜、窪み、亀裂などの発見が難しい。また、求心性視野狭窄の場合は遠方に視線を向けても、周辺や背後から突然現れる歩行者や車両などを発見することが難しい。これらの人々は常に転倒、転落、衝突などに少なからず恐怖心を持っている。さらに、夜間になると視覚情報は一層減少し、高度近視による視力低下の人にとっても、外出は苦手なものとなる。これらのロービジョン者にとっては、個々の特性に応じた、視覚を活用するための歩行技術の指導が不可欠である。
研修プログラムⅡ
  • 小田 浩一
    セッションID: E2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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     先進国に生活する日本人の場合には、日常生活のほとんどすべての場面で、文字を読んで情報を得て文字でそれに応える行為ができるかどうかが決定的な意味を持つ。一方、人がロービジョンになってもっとも支障を感じるのが読み書きである。ロービジョンになった場合にその困難を克服できるかどうかは、良いロービジョン・ケアに巡り会えるかどうかにかかっている。良いロービジョン・ケアとはどのような方向性を持ったものなのか?について、これまでに分かっていることから簡潔に概観する。具体的には、読みの測定方法、視覚正常とロービジョンにおける読みの違い、読み成績にみる眼疾患ごとの特徴、読みの測定結果を読み困難の克服にどう活かすか、読み評価の数値の意味と必要な拡大率や光学エイドのディオプタ(倍率)との関係などを例に、ロービジョン・ケアの実践において、丁寧な測定とその結果に基づいた適切な対応が重要であることを述べる。
一般口演
口演Ⅰ
  • 柳澤 美衣子, 加藤 聡, 国松 志保, 田村 めぐみ, 北澤 万里子, 落合 眞紀子, 庄司 信行
    セッションID: H101
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】ロービジョン(LV)患者の残存視野の形状とQuality Of Life (QOL)との関連を検討した。

    【対象と方法】2005年4月から2009年1月に東大病院LV外来を受診した159例中、3か月以内にゴールドマン視野検査(GP)が施行され、以下に示す3形態の視野形状に分類でき、かつ視力良好眼の小数視力が0.3以下の60例を対象とした(平均年齢61.7±14.2歳)。原因疾患の内訳は、緑内障21例、黄斑変性症13例、網膜色素変性症、糖尿病網膜症それぞれ8例、その他10例であった。視野の評価にはGPのV/4とI/4イソプターの結果を左右合成し、両眼視野とし3群に分類した。中心+周辺群:V/4が30°以上かつI/4が30°以内残存(21例)、中心のみ群:V/4が20°以内の中心のみ残存(16例)、中心視野欠損群:中心視野欠損(暗点)が5°以上かつ周辺はV/4が30°以上残存(23例)。3群間に年齢、視力に有意差はなかった。対象患者に対し、VFQ-25を施行し、3群間の総合および項目別スコアを比較検討した。

    【結果】中心+周辺群、中心のみ群、中心視野欠損群の総合スコアは、それぞれ35.0±15.0、36.0±8.6、26.0±11.3で有意差があり、中心+周辺群と中心視野欠損群、中心のみ群と中心視野欠損群間で有意差があった(P=.02、Tukey-Kramer)。項目別の検討では「心の健康」「役割機能」においても中心視野欠損群とその他の2群間で有意差があった(P=.02)。しかし「周辺視」では中心+周辺群、中心のみ群、中心視野欠損群の項目スコアは38.1±27.0、17.2±15.1、55.4±27.1であり、総合スコアとは逆に中心視野欠損群が有意に高かった(P<.0001)。

    【結論】視力が同程度であっても残存視野の形状によってLV患者のQOLが異なることが明らかになった。
  • 久保 若奈, 原口 瞳, 氷室 真琴, 本多 聖子, 石井 裕子, 井上 賢治, 若倉 雅登
    セッションID: H102
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】THE 25-Item National Eye Institute Visual Functioning Questionnaire(NEI VFQ-25)日本語版および自作の眼瞼痙攣自己診断表を用いて、眼瞼痙攣患者のquality of life(QOL)を評価する。

    【対象と方法】対象は2009年2月から3月に井上眼科病院およびお茶の水・井上眼科クリニックを通院した眼瞼痙攣患者94名。方法は、NEI VFQ-25日本語版を用いてQOLを評価し、また眼瞼痙攣自己診断表を用いて、眼瞼痙攣による心理的影響および身体的症状について評価した。

    【結果】患者の内訳は、男性16名、女性78名、平均年齢59.5±13.0、21~81歳。視力は良好であった。眼疾患による身体障害者手帳を持っている人はいなかった。VFQ-25の「目の痛み」、「見え方による心の健康」が低い傾向がみられた。年齢別解析では、若い人の方がVFQ-25の「総合得点」や「一般的健康感」や「見え方による役割機能」などの得点が低く、自己診断表では「気力がない」、「落ち込みやすい」などの得点が高かった。ボツリヌス毒素治療(BTX)の回数や治療からの経過期間を指標に検討したところ、未治療群でVFQ-25の「一般的見え方」の得点が低く、自己診断表の「目を開いていられない」、「目が乾く、しょぼしょぼする、痛いなどいつも目のことが気になる」、「片目をつぶってしまう」の得点が高かった。VFQ-25の「見え方による心の健康」は、自己診断表により心理的・身体的な側面を評価した時に最も強い相関がみられた。

    【結論】眼瞼痙攣患者は、視力が良いにも関わらず視機能関連のQOLは低いことが示唆された。眼瞼痙攣は、視力や視野で評価される身体障害者手帳には結びつかないが、身体的・精神的・社会的な側面で生活に支障をきたすことが明らかとなった。
  • 川口 佳菜, 阿曽沼 早苗, 瓶井 資弘, 不二門 尚
    セッションID: H103
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】糖尿病網膜症例では、羞明やコントラスト感度の低下を訴える症例が多く、遮光眼鏡が有効といわれている。今回我々は、糖尿病網膜症例におけるグレア条件下での遮光眼鏡の有効性について文字コントラスト視力による検討を行ったので報告する。

    【対象と方法】対象は、大阪大学眼科を受診した糖尿病性黄斑浮腫症例7名10眼(眼内レンズ(無着色)挿入眼7眼、汎網膜光凝固施行例8眼)とした。年齢は51~79(平均66.5±7.4)歳、視力は0.15~0.5(中央値0.4)であった。対象者にCCPレンズ(東海光学)7色(LY、YL、OY、BR、UG、YG、RO)とNDフィルター(Fuji Film:以下ND)の6色(No.0.1、0.2、0.3、0.4、0.6、0.7)を装用させ、CSV-1000HGTにて24万cd/m2のグレア下における文字コントラスト視力を測定した。また、CCPレンズと同程度の輝度低下率をもつNDフィルターとの比較、年齢を合わせた正常群(n=7)との比較検討を行った。

    【結果】CCP RO装用下でコントラスト視力の有意な低下が(p<0.01)、ND 0.2では有意な改善(p<0.05)が、それ以外のフィルターでは有意な変化はみられなかった。また、CCPレンズとNDフィルターの輝度低下率を揃えて比較したところ、装用前後での文字コントラスト視力の変化量はCCP BRとCCP ROでND 0.4とND 0.7に比べて有意な低下がみられた(p<0.05)。正常群との比較では、ND 0.1、0.2、0.4、0.6装用下で有意にコントラスト視力が改善した(p<0.05)が、CCPでは改善したものはなかった。

    【結論】今回の条件下では、NDフィルターに文字コントラスト視力の改善効果がみられた。今回CCPの有用性が見出されずむしろ低下傾向にあったことに関しては、測定条件を変えての再検討が必要であると考えられた。
  • 御園 政光, 坂井 忠裕, 半田 拓也, 小田 浩一
    セッションID: H104
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】筆者らは、視覚障害者向けの提示技術として、タッチパネル搭載型触覚ディスプレイを試作した。試作機は光学式のタッチパネル(Xiroku社製)を搭載し、提示ブラウザとの組み合わせでインタラクティブに操作できる方式を考案した。

    【目的】試作機の有効性の検証や課題を抽出することを目的にモニタ評価を実施した。

    【対象と方法】弱視4名、全盲4名、盲ろう2名を対象に、提示装置の操作性、情報へのナビゲーションや図表などのコンテンツの理解や使いやすさを、逐次記録とモニタリング後の聞き取りによって分析した。2人を1グループとするグループモニタリング方式で、手続きは、①モニター実施内容の説明、②デジタル放送およびデータ放送の概要の説明、③ブラウザやコンテンツの説明、④提示装置の説明およびコンテンツの提示を兼ね操作とナビゲーションの練習、⑤各装置によるコンテンツごとのナビゲーション評価、⑥ユーザからの聞き取り調査で行った。評価は操作時の自由発話と、試作機の操作性に関して質問項目を設けた。各質問で内容を分類し、その傾向を分析した。

    【結果】カテゴリで分類した分析結果を以下に示す。
    ○タッチ操作:直接GUIを触れて操作できるのは便利な一方、コツが必要であり、触覚ナビやリモコンの方が使いやすい。
    ○表の操作性:階層メニューや株価の表を自由に選択できることは便利。
    ○グラフの理解:グラフの全体像の理解ができるのに対して、軸のメモリが明確ではないため内容はわかりにくい。
    ○図や画像:天気図で都道府県が触れてわかる。絵や触図は難しい。

    【考察】コンテンツに対しては、単純なグラフでは内容把握できるが、図や画像が複雑になるほどわかりにくくなることが考えられた。また、指で触れた位置でタッチする操作は、コンテンツの把握と同時に動作が混在する。操作に対する習熟と、試作機の性能面の課題が残っている。
口演Ⅱ
  • 鈴鴨 よしみ, 山村 麻里子, 外園 千恵, 横山 貴子, 陳 進志, 高津 育美, 小野 峰子, 山縣 祥隆, 吉村 尚子, 浅野 紀美江 ...
    セッションID: H201
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】拡大ロービジョンリハビリテーション(Enhanced Low Vision Rehabilitation: ELVR)スタディは、生活場面での視覚補助具使用を評価・支援するプログラムを作成し、このプログラムの有用性を、視機能特異的QOL、疾患への心理的適応、作業効率を指標として検証することを目的とした。その中間報告を行う。

    【対象と方法】まず、拡大読書器既保有者を対象に、入手経路やケア受診の有無、機器使用状況に関する調査を行った(別演題にて報告)。並行してプログラム作成委員会を組織し、ELVRプログラムを作成した(別演題にて報告)。次に、拡大読書器使用の処方を受けたロービジョンケア者を対象に多施設非ランダム化割付比較試験を実施した。対象者は、本人の希望や居住地条件等により訪問リハ群と外来リハ群に分けられ、ELVRプログラムに基づくケアを受けた。また、ケア前、ケア後、3ヵ月後に質問紙(視機能関連QOL、機器使用状況、背景因子)に回答した。指導にあたるORTは、ELVRマニュアルに基づく指導を行う前、直後、3ヶ月後に、使用状況等に関する評価を行った。

    【結果】2009年4月現在までに登録された18名のうち、ケア後のデータが回収された10名(男性4名、女性6名、平均年齢66.7歳、訪問群8名、外来群2名)のデータ解析結果を示す。訪問群と外来群のケア前後の視機能関連QOLの各下位尺度得点の推移を、一般線形モデル(反復測定)を用いて比較したところ、「近見視力による行動」下位尺度において、外来群に比較して訪問群で改善が大きい傾向が見られた(外来群20.9→20.9、訪問群18.8→37.5、p=0.075)。「社会生活機能」「心の健康」も、統計的に有意ではなかったが同様の傾向が見られた。

    【結論】訪問による拡大ロービジョンリハビリテーションは外来ケアよりも対象者の視機能関連QOLを高める可能性がある。さらに例数を増やした解析結果を報告する予定である。
  • 小野 峰子, 陳 進志, 高津 育美, 山村 麻里子, 外園 千恵, 横山 貴子, 山縣 祥隆, 吉村 尚子, 浅野 紀美江, 阿曽沼 早苗 ...
    セッションID: H202
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】据え置き型拡大読書器(以下、拡大読書器)を、その保有者が日常生活場面でどの程度使用しているのかを調べ、「拡大読書器の使用頻度が多いロービジョン者ほど、視機能関連QOLが高い」という仮説の検証と、拡大読書器の使用頻度に影響する要因を明らかにする。

    【対象と方法】研究協力が得られた拡大読書器販売会社が過去5年間に据え置き型拡大読書器を販売したロービジョン者へ、アンケート調査を実施した。分析対象は89名(回収率43.7%)であった。拡大読書器の使用頻度は、「ここ1ヶ月未使用」「月1,2回使用」「週数回使用」「ほぼ毎日使用」の4段階で評価した。視機能関連QOLは、NEI VFQ-25を使用し、拡大読書器の使用により変化が予想される下位尺度として「全体的見え方」、「近見視力による行動」、「社会生活機能」、「心の健康」、「役割制限」、「自立」によって評価した。背景因子は性、年齢、疾患、視力、同居家族、就業状況とした。

    【結果】読書以外の用途(書字、爪切り等)も含めた拡大読書器の使用頻度の多い群において視機能関連QOLが良いことが示された。「全体的見え方」は、未使用群(14.3点)に比べ、月1,2回使用群(37.0点)とほぼ毎日使用群(39.4点)が有意に高かった。「社会生活機能」は、未使用群(15.2点)と比べ月1,2回使用群(42.2点)、週数回使用群(44.8点)、ほぼ毎日使用群(32.6点)が、「心の健康」と「自立」については未使用群に比べ、週数回使用群が有意に高かった。多変量解析の結果、使用頻度には視力の低さと、使用目的の多さが影響していた。

    【結論】拡大読書器の使用頻度が多いほど、視機能関連QOL が高いことが明らかになった。ロービジョンケアにおいては、拡大読書器を様々な目的で使用できることを伝え、使用者の生活の目標にあわせ頻繁に使えるよう指導することの重要性が示唆された。
  • 阿曽沼 早苗, 山村 麻里子, 小野 峰子, 吉村 尚子, 浅野 紀美江, 高津 育美, 外園 千恵, 横山 貴子, 陳 進志, 山縣 祥隆 ...
    セッションID: H203
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】今回のELVRスタディでは拡大読書器の指導を行ったが、各施設における指導内容を統一するために拡大読書器の指導マニュアルを作成した。この報告では、今回作成した指導マニュアルについて紹介をする。

    【方法】ELVRスタディ研究チームのメンバーのうち拡大読書器の指導経験を有する視能訓練士によるプログラム作成委員会を組織し、既存の資料と実際の指導経験に基づいて、マニュアルに盛り込むべき指導ポイントを決定して原案を作成した。その後、チーム全員が同じレベルの指導ができるように、協議を繰り返してマニュアルをより有用なものに改訂していった。

    【結果】マニュアル原案について、作成後、チーム全体(視能訓練士、眼科医、リハ医、研究者)で疑問点や問題点の検討を行い、さらに実際に訪問して実践した経験から得た知見を加えて、チーム全体で討議を重ねた。討議では、訪問指導も視野にいれて操作方法の指導に加え環境設定の指導についての検討が重点的に行われ、その結果、周辺環境の整備に関する指導事項が多く盛り込まれることとなり、それは、本マニュアルの特徴にもなっている。
    マニュアルは、1.拡大読書器の紹介、2.使い方の指導、3.使用上の注意事項、4.周辺環境についての指導事項、の4部で構成され、2.については、①スイッチ・つまみ等の操作について、②テーブル操作について、③読み方のコツについて、④書き方について、⑤読み書き以外の用途について、に分けて指導内容が説明されている。4.では、①設置場所、②配線と接続の確認、③机や椅子、画面の高さの調整、④画面の確認、 ⑤ 室内の明るさの調整、についての指導事項が記されている。

    【まとめ】今回作成した指導マニュアルの製作過程、内容についての紹介をおこなった。
  • 高津 育美, 陳 進志, 小野 峰子, 山村 麻里子, 吉村 尚子, 阿曽沼 早苗, 浅野 紀美江, 外園 千恵, 横山 貴子, 山縣 祥隆 ...
    セッションID: H204
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】ELVR研究で試作した拡大読書器使用の指導マニュアルを用い、指導前後の習熟度、偏心視、眼の疲労を評価して指導ポイントを明らかにし、拡大読書器の使用指導を実践した。その評価と指導の実際について報告する。

    【対象と方法】東北大学病院眼科でELVRスタディに参加し、訪問リハビリテーションを希望した4名(男性2例女性2例、平均年齢71.3歳)に拡大読書器の指導マニュアルに基づいて訪問指導をおこなった。

    【結果】指導の前後で、拡大読書器習熟度、偏心視、使用時の眼の疲れについて評価した。習熟度は、以下の8点を“1.よくできている”、“2.まあまあ”、“3.あまりできていない”、“4.ほとんどできていない”の4段階で評価した:1)拡大ツマミ操作、2)表示モードの選択、3)コントラスト(明るさ)調整、4)可動テーブルの操作(ネジの使用と縦・横方向の操作)、5)可動テーブル操作のスピード、6)視線の固定、7)読みたい部分の映し出し、8)書くこと。また、偏心視は“1.できている”、“2.まあまあ”、“3.できていない”の3段階評価とし、眼の疲れは“0=全く疲れない”~“10=疲れてとても使えない”として10段階で評価した。この評価に基づき指導の重要ポイントを見つけ指導を行った。実際行った指導は拡大読書器指導マニュアルに基づき行ったが、特に、習熟度4)、5)、6)が重要ポイントであることが多く、可動テーブルの動かし方や視線の固定をどの位置に持っていくと読みやすいかを提案した。8)の書くことについては影が気にならないよう利き手側のライトを消すよう指摘した。また、患者の視機能、環境に応じて指導を行い、指導後に同じ指標を再評価した。

    【結論】今回用いた評価項目は拡大読書器使用の指導するにあたり有用であった。指導ポイントは各人で異なるが、特に共通するポイントがあることがわかった。
  • 山村 麻里子, 横山 貴子, 外園 千恵, 高津 育美, 小野 峰子, 陳 進志, 吉村 尚子, 山縣 祥隆, 浅野 紀美江, 阿曽沼 早苗 ...
    セッションID: H205
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】訪問リハビリテーションを行った患者について拡大読書器周辺環境の指導による改善の状況を報告し、症例を供覧する。

    【対象と方法】対象は本研究参加施設において訪問リハビリテーションを希望した患者8名である。方法は、それぞれの自宅を訪問し、拡大読書器指導マニュアル(別演題で報告)を用いて使い方について指導を行った。周辺環境についてはマニュアル中の以下の項目についてチェックシートを用いて評価し、改善するように指導した。1.障害になるものを周りに置いていないか2.配線や接続に問題はないか3.机や椅子の高さ、眼との位置関係は視機能の状態に応じて調整できているか4.拡大読書器の画面に反射が映りこんでいないか5.部屋の明るさは適当か

    【結果】それぞれの項目の該当者数は以下の通りであった1.(2名)、2.(2名)、3.(7名)、4.(0名)、5.(6名)。該当者が多かったもののうち3.の問題点に対しては座布団をひいたり、椅子を変更したりして椅子の高さを適正にするよう改善を行った。5.の問題点に対してはカーテンやブラインドで遮光するよう指導を行い、訪問時に持参した遮光眼鏡が有効であった場合は貸し出しを行った。症例1:70歳 女性、角膜変性症、高度近視、視力RV=光覚(-)LV=(0.08)画面上の目線の位置が適切な位置より14cm低かったため座椅子に変更し平行になるようした。また、遮光眼鏡の貸し出しを行った。この例では固定ネジに故障があり業者へ修理の依頼をした。症例2:74歳 、女性、黄斑変性症、角膜混濁、視力 RV=(0.07)LV=(0.06)画面上の目線の位置が適切な位置より10cm高かったので、高さ調整が可能な椅子に変更した。また、遮光眼鏡が有効であったので装用を勧めた。

    【結論】拡大読書器を有効に使用するために、操作法の指導に加えて、環境面での適切な指導が望ましいと考えられた。外来においても環境面でのアドバイスが必要であると思われた。
口演Ⅲ
  • 鈴木 英二, 小崎 哲生, 小山 哲矢, 加藤 裕史, 池田 康博, 江内田 寛, 石橋 達郎
    セッションID: H301
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】視覚障害者の自立支援を目的とした補助視覚装置であるシースルーヘッドマウントディスプレイ(HMD)を開発し、網膜色素変性患者の夜間歩行を支援する機器としての有効性について検討したので報告する。

    【方法】対象は、九州大学病院眼科を受診した夜盲のある網膜色素変性患者6名。高感度暗視カメラを装着したHMDを用いて、暗室での装用テストと歩行テストを実施した。それぞれのテストについてアンケートによる主観評価を行い、被験者の不自由度を把握するためにVFQ-25もあわせて実施した。歩行テストでは、障害物を設置したルートを設定し、歩行時間や障害物の回避能力を記録した。

    【結果】装用テストのアンケート調査は全6例に実施した。暗所におけるHMDの視覚補助としての有効性に関する質問に対して、「非常に感じる」が1例、「感じる」が2例、「少し感じる」が2例、「あまり感じない」が1例であった。歩行テストは、6例中4例に実施した。装置の使用により、2例で被験者の歩行速度が増加した。また、すべての被検者において、裸眼で確認できなかった障害物を避けて歩行できることが観察された。

    【結論】網膜色素変性患者の夜間歩行を支援する機器として、本装置が有効である可能性が示唆された。今後は症例数を増やしながら問題点を整理し、商品化へ向けた開発を進めていく予定である。
  • 原 利明, 小林 吉之, 藤本 浩志
    セッションID: H302
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    1.目的
     本研究は、床デザインでよく見られる石材の表面仕上げの違いの磨き(摩擦小)とバーナー(摩擦大)という床材の摩擦の違いに着目し、歩行中の摩擦の異なる床材間の識別容易性を客観的・定量的に評価することを目的とした。これらを明らかにすることで摩擦の異なる床材による視覚障害者への歩行空間の提示の可能性が期待される。

    2.方法
     実験は、足底以外の情報を遮断した10名の被験者に摩擦の異なる2種類の床仕上げ材を組み合わせた歩行路を歩き、前後の素材の違いを回答してもらった。被験者が境界を予見できないようにスタート地点を3種用意し、歩行距離は一定とした。そのスタート位置と前後の素材の組み合わせは毎試行ランダムに提示した。また、前後の素材が異なる試行と同じ素材の試行の割合が同数となるよう調整し、各々54試行ずつ計108試行とした。

    3.結果
     全体的には摩擦差の識別性は先行研究で誘導ブロックと同等の識別性が確認された弾性差よりも有意に低いことが確認されたが、正答率が高い群と低い被験者群の2群が確認され、正答率が高い群の被験者らは、遊脚後期に踵を地面に擦ることで、弾性差と統計的にその差が認められない範囲で識別できることがわかった。

    4.結論
     これらのことから、白杖や足音等の情報も歩行時に利用している視覚障害者は、より正確に床材の違いを識別できると考えられることから、摩擦の異なる床材による歩行空間の提示の可能性が示唆された。この方法は、突起を用いないため、従来の誘導ブロックを補完する形で以下の適用が考えられる。
    * これまで敷設できなかった箇所での歩行空間の提示
    * これまでの『線』から『面』での歩行空間の提示
     これは視覚障害者の歩行空間を拡大し、彼らのQOLの向上に寄与できると考える。しかしこの適用には、誘導ブロック同様の社会的なコンセンサスやルール化が必要である。
  • 熊谷 知子, 國松 志保, 保沢 こずえ, 近藤 玲子, 伊藤 華江, 平林 里恵, 関口 美佳, 牧野 伸二
    セッションID: H303
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】高齢者の転倒の危険因子として視覚障害が報告されているが、ロービジョン患者の転倒の頻度や危険因子についての報告はない。今回われわれは、ロービジョン外来受診者の転倒の頻度、回数および程度について検討した。

    【対象と方法】2007年1月~2009年1月に当科ロービジョン外来を受診した患者72例のうち、転倒について聴取できた43例を対象とした。男性21例、女性22例、年齢は24歳~89歳(57.7±16.9歳)であった。
     転倒歴については最近12カ月で転倒したことがあったか、またあった場合にはその程度を聴取し、眼疾患以外の転倒の原因となりえる全身疾患についても確認を行った。

    【結果】43例中、12例に転倒歴があり、脳梗塞、パーキンソン病など転倒の原因となりえる全身疾患を有する4例をのぞくと、視覚障害が原因と思われる転倒の頻度は8例(18.6%)であった。
     転倒歴のある8例の原因疾患は、黄斑変性・網膜剥離が各2例、糖尿病網膜症・緑内障・網膜色素変性症・ぶどう膜炎各1例であった。身体障害者手帳の等級は1級1例、2級1例、3級1例、4級4例、5級1例であった。
     転倒の回数は12カ月間で1回が2例、2~3回以内が3例、12回以上(月に1回程度)が3例であった。転倒の程度は、多くが擦過傷、打撲などの軽症であった。

    【結論】ロービジョン外来受診者において、視覚障害が原因と考えられる転倒歴は比較的低いが、ロービジョンケアを行う際には十分な注意喚起は必要と思われた。
  • 山田 幸男, 大石 正夫, 清水 美知子, 小島 紀代子, 岩原 由美子, 石川 充英, 渡辺 栄吉
    セッションID: H304
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】視覚障害者は転倒しやすく、骨折の危険も大きいため、転倒・骨折予防は視覚障害者には極めて重要である。そのため外出を控える人も多いものと思われる。そこで、視覚障害者の転倒の頻度、運動量などについて検討した。

    【対象と方法】当院視覚障害リハビリ外来受診者81名に、転倒の不安、運動量、骨粗鬆症予防の有無などについてアンケート調査した。また、一部の人には骨密度、片足立ち時間などの測定も行った。

    【結果】視覚障害発症後、バランス感覚の低下(61.3%)、転倒回数(20.0%)や転倒の不安(66.7%)が増し、運動量は減少し(81.0%)、80.2%の人が運動不足と感じていた。片足立ちでは、ほとんどの人が11秒未満であった。
     運動としては、外を歩く(58.0%)、自己流の体操(29.6%)、家の中を歩く(27.2%)、ストレッチ体操(24.7%)、階段の昇降(22.2%)などが上位を占めた。骨密度の減少を認める人が少なくないが、Vit.DやCaの摂取に気をつけている人はそれぞれ34.2%、51.9%に過ぎない。

    【考按】視覚障害者の転倒の不安は大きく、運動不足の解消、カルシウム摂取など食事に対する意識の向上、陽にあたること、などが必要と思われる。そこで我々のパソコン教室では棒を用いた体操や片足立ちなどを行ったところ、日常生活動作の向上を認めることが多くなった。
  • 岩原 由美子, 山田 幸男, 大石 正夫, 小島 紀代子, 清水 美知子, 石川 充英
    セッションID: H305
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】視覚障害者が一人で調理が出来るようにするために、2007年から調理講習会を月2回、定期的に行っている。2年が経過したので調理講習会(加熱器具、庖丁、盛り付け、計量など)の現状や問題点などを検討した。

    【対象と方法】信楽園病院視覚障害リハ外来受診者で調理講習会に参加した女性10名(盲8名+弱視2名)、男性3名(盲1名+弱視2名)の計13人を対象とした。講習会に参加前と後の加熱器具、包丁、盛り付け、計量などの難易度の変化、指導法やサポーターの対応満足度、今後の要望などを面接してアンケート調査を行った。

    【結果・考案】講習会参加前食事作りをしていない人は3人で、参加後1人が作るようになった。参加後やり易くなった人が7人、自信がついた人が6人であった。参加前ガスコンロを使っていない人は3人で、参加後1人が使うようになり(使用率84.6%)、多くの人が怖さが軽減した。電子レンジは参加前使わない人は7人で、参加後3人が使用するようになった。庖丁は、使わない1人も参加後使用し全員が使うようになった。盛り付けをしない人は参加前6人で、参加後も具材を均等に盛り分けることが難しい、皿からこぼれ落ちるなどのため家族にやってもらう人は5人であった。計量スプーン・カップは参加後4人が使うようになり、参加後使用者7人であった。最初から最後まで自分で料理する講習会は大いに好評であったが、1番難しいと感じているのは盛り付けで、次いで計量、電子レンジ、ガスコンロの順であり、盛り付けと計量は実習時の工夫が必要と思われた。今後指導に含めて欲しいことは、食事のマナー、冷蔵庫の整理、便利な食材や冷凍食品を用いた料理などであった。
口演Ⅳ
  • 高橋 広, 山田 信也, 工藤 正一
    セッションID: H401
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】視覚障害者の労働環境は非常に厳しく、雇用の継続に力を注ぐべきだとされている。このため、職業リハビリテーションが重要であると言われているが、休職を経て職場復帰できた事例の検証からみえてきたことを報告する。

    【方法】1996年よりロービジョンケア(以下LVCとす)を産業医科大学病院で開始し、その後も柳川リハビリテーション病院や北九州市立総合療育センターなどにてLVCを積極的に行っている。その間、就労問題をもつ視覚障害者を数多く経験してきたが、休職を経て職場復帰できた11事例を後方視的に検討した。

    【結果】休職後職場復帰できた11事例の中には、LVC開始後最短3か月で職場復帰した例もあったが3年かかった事例もあった。これは障害の程度以外に、職場環境、特に必要なコンピュータ技術の差にも左右された。したがって、自己のコンピュータ能力向上を図るとともに会社との連絡を密にとり、必要な高度の職業訓練を受けた事例もあった。無論、彼らは必要なら白杖歩行など生活訓練を受けており、全員安全に職場への単独通勤が可能であった。

    【考察】視覚障害者がLVCにたどり着いた時には,すでに退職や休職していることが多く、就労意欲も乏しくなっている。このためLVCをも十分にできないことも多いが、職場復帰できた11事例には働きたいという強い意思があった。それゆえ、早期に労働関係機関や支援団体につなぎ、苦しい職業リハビリテーションを乗り越えられた。また、会社の上司や同僚など周囲への調整能力も持っていたが、視覚障害者として全てが初めのことで、どのように対応すればよいか戸惑いが多く、彼らを支える者の力も大である。

    【結論】眼科におけるLVCは、視覚障害者が就労や雇用維持する上での大きな窓口の一つで、積極的に他職種や支援者と連携し、職業リハビリテーションを行えるよう支援していくべきである。
  • 工藤 正一, 新井 愛一郎, 下堂薗 保, 篠島 永一, 松坂 治男, 吉泉 豊晴
    セッションID: H402
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】2007年4月、国は視覚障害者に対する的確な雇用支援に関する通知を出した。我々は、2008年11月、都内にて、中途視覚障害者の雇用継続支援に関するセミナーを開催した。それらを踏まえ、支援体制の現状と問題点、課題を明らかにする。

    【対象と方法】中途失明で職場復帰した1事例に関して、①本人の体験発表、②医療・職業リハビリテーション・経営者協会・労働組合・就労支援機関それぞれの立場から現状・課題発表、③当該企業トップの特別講演、④全体討論--を行い、そこでの発表内容を分析した。

    【結果】ハローワークを中心とする支援体制はできたが、実績はまだ少ない。視覚障害者に対応できるジョブコーチなど人材も少ない。
     本事例の復職実現に決定的な役割を果たしたのは、受障初期段階からのロービジョンケアの実施であった。その際に、当事者の支援団体と密接な連携を図りつつ、医療→労働(障害者職業センター)→福祉(生活訓練)・職業訓練へと繋いだことが効果的だった。

    【結論】中途視覚障害者の復職・雇用継続のための効果的な連携とは、ロービジョンケアの中で本人の障害受容を図りながら、就労支援機関に繋ぐことである。「医療→福祉→労働」という従来型の段階的なリハビリテーションの流れでは、休職期間満了で復職できない場合もあるので、「医療→労働→福祉」という流れが効果的である。それは、切れ目のない一貫したものでなければならない。その際、当事者を含む支援団体と連携を図ることが重要である。対企業ということを考えると、ハローワークを中心としたチーム支援が効果的であることが明らかとなった。さらに啓発を強め、ノウハウを交換し合うことが必要である。
  • 下堂薗 保, 松坂 治男, 篠島 永一, 安達 文洋, 石山 朋史, 工藤 正一, 杉田 ひとみ, 吉泉 豊晴, 星野 史充
    セッションID: H403
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】今後の視覚障害者の雇用継続支援に役立てるために、視覚障害者雇用事例15例について、いかにして雇用を確保し、継続しているかを明らかにする。

    【対象と方法】平成19年9月から10月、事前に郵便とメールにより配布した調査表に基づき、全国6地域の職場を訪問し、視覚障害者と所属する企業の人事部長等から個別に聞き取りを行った。就労の経緯から、復職5人、継続3人、新規3人、再就職4人に分類し、雇用継続の実態を分析した。なお、復職:休職した後同じ企業に職場復帰、継続:休職せず同じ企業に継続就労、新規:学校卒業後初就労、再就職:一旦退職後別企業に就職。

    【結果】「復職」と「継続」では、会社側と本人はお互いに受障前から知っている関係にあるため、戸惑うことは少ないが、「新規」と「再就職」では、当初は会社側に不安感があり、一緒に働く中で、それらが払拭されているという特徴がある。共通する点は、以下の通りである。・本人の前向きな姿勢と自助努力によって現在の安定した地位を築いている。・職業訓練等のつながりで、業務効率向上が図られている。・会社側は貴重な戦力として捉えており、一層のキャリアアップを望んでいる。・責任ある職位に就かせている。各種助成金については、大部分の企業が活用していたが、休職中は対象外とされ、断念した例があった。申請手続きの簡素化、支給を早めて欲しいなどの希望があった。パソコン訓練を地元でできるように改善してほしいとの希望もあった。

    【結論】本調査の対象者は、正社員として民間企業に雇用される重度視覚障害者であったが、雇用継続には本人の自助努力によるところが大きいことや、各種助成金制度も企業側にとって利用しづらいなどの実態が明らかとなったため、雇用継続支援策の充実が望まれる。
  • ---在職視覚障害者の事例調査から
    沖山 稚子, 佐渡 賢一, 平川 政利, 指田 忠司, 河村 恵子, 佐久間 直人
    セッションID: H404
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】視覚障害者が在職する事業所を訪問し、視覚障害者本人とその方を雇用する事業所の担当者から、就労状況等を聴き取り、視覚障害者の就労の実態を把握する。

    【対象と方法】10事例の在職者視覚障害者及び事業主に対して聴き取り調査を行った。

    【結果】聴き取りをした視覚障害者が勤務する事業所の形態、規模、業種は多様であった。
     就業中の視覚障害者の障害状況は一例を除き出生時からの障害であった。視覚障害の状況は、全盲から弱視と様々であり、そのほとんどが徐々に障害程度が重度化していた。
     従事している職種は視力に頼る作業が3例で、他は視力に依らない作業であった。一例を除き他の全ての事例がほぼ終日パソコンを使用して業務を進めていた。就職経路は様々であるが、最終的にはハローワーク紹介による就職という形態がとられ、ほとんどが正社員であった。
     弱視で視力に頼る移動ができる3例は、通勤の際に白杖は使用していなかった。他の事例は白杖を使用して単独歩行しているが、職場内では白杖無しで移動する者がほとんどであった。交通機関のラッシュ時間帯や日没時間をふまえてフレックスタイムを適用する配慮がなされていた。

    【結論】視覚障害者の就業事例に関する聴き取り調査の実施は、聴き取りに応じてくれる協力者を得ることと聴き取り内容の公開について了解を得ることの2点で困難が多く、報告できるのはごく限られた事例となったが、大事な点として次のことが確認された。 ○通勤や業務中の事故への不安 ○就職までの道のりの厳しさ ○事業所の決断 ○周囲の支援と自助努力 ○パソコンの操作能力
     聴き取りを実施したが報告書に掲載できない事例や、聴き取りを実施できなかった事例の中にも、上記の問題を解決して教師や福祉専門職、研究職、各種の事務職(総務、人事、研修担当など)としての業務に従事している例などがある。これらの就職事例が広く周知され、就職を希望する者の追い風になることを願う。
口演Ⅴ
  • 小島 紀代子, 山田 幸男, 大石 正夫, 岩原 由美子, 清水 美知子, 石川 充英, 西山 悦子, 関井 愛紀子, 神埼 由紀
    セッションID: H501
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】外来受診時や入院の際に看護者の理解不足のために苦しむ視覚障害者は少なくない。当施設では、平成19年度から新潟大学看護学科3年生90名の実習を受け入れ、指導にあたってきたのでその効果について報告する。

    【対象と方法】誘導歩行(基本姿勢・階段の昇降など)、伝い歩き、方向のとり方、防御の姿勢、食事マナー、トイレの使い方、こころのケアなどを指導した。
    視覚障害者21名、スタッフ12名、学生90名に、実習受け入れに対しての気持ち、実習内容の検討、学生の将来に役立つか、総合的にどうだったのかなどをアンケート調査をした。

    【結果・考按】学生は、障害者から学ぶ重要性に気づき、一度は死を考えている人たちにもかかわらず、視覚障害者の明るさに驚いていた。また、移動、食事マナー、トイレの使い方などの指導は、学生からは好評だった。実習の受け入れには、視覚障害者の81%、スタッフの83.3%が賛成であった。こころのケアでは、視覚障害者の66.7%、スタッフの100%が、大変意義があったと答えた。学生の将来には、視覚障害者の85.7%、ボランティアの91.6%が役立つと答えている。受け入れてよかった点は、学生の役に立てた66.7%、自分を見つめ直すのに役立った42.9%、自分の勉強になった33.3%、元気をもらった23.8%と視覚障害者は答えている。総合的には、「大変よかった」と「よかった」を合わせて視覚障害者の85.7%、スタッフの83.3%が回答した。今回の経験は、学生、障害者、スタッフの3者にとってそれぞれに意義があったと思われる。今後は、さらに積極的に他校の看護、視能訓練士などの学校に門戸を開いて、視覚障害者の理解と自立のための活動を継続したいと考えている。
  • 石井 雅子, 佐渡 一成
    セッションID: H502
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】網膜色素変性(RP)患者に対する告知は、後のケアを前提とし時間をかけて個々に応じた対応がされるべきである。RPの告知について視能訓練士が果たす役割を学生に考えさせる目的でアンケートを行なった。

    【対象と方法】3年課程の視能訓練士養成校に在籍する学生63名に対して、仮想のRP患者を想定し告知に関するアンケート(自由記述)を課した。1年次終了後および2年次終了後の2回に渡り、同一の学生を対象に追跡的に調査を行ない、記述された内容を分析した。

    【結果】告知は「心理面に十分配慮」し「工夫して伝える」べきであるとした回答がほとんどであったが、1年次終了後は「早期治療」のために2年次終了後は「告知後のリハビリテーション」を考えて告知が必要という意見が多かった。2年次終了後は1年次終了後に比べ、「できるだけ早期」に「明確に伝える」べきであると答えた割合が有意に向上した(p<0.01)。告知にあたって視能訓練士としてできる援助は1年次終了後は心のケアが52%でもっとも多く、次に医師と患者の仲介が11%、ロービジョン(LV)ケアが5%であった。2年次終了後はLVケアが87%でもっとも多く、次に心のケアが33%、医師と患者の仲介が10%であった。1年次終了後にはLVケアの具体的記述はなかったが、2年次終了後には視覚補助具選定・指導、福祉制度の情報提供、患者団体の紹介等の記述がみられた。

    【結論】告知について考える機会は、視能訓練士をめざす学生にとって職業意識を高めるために効果的であった。眼科医療の中でのロービジョンケアが全国的にその重要性を認識されている今日、視能訓練士の眼科リハビリテーションスタッフとして期待される役割は大きい。視覚障害に関する教育は質的にも量的にも充実が求められ、今後の視能訓練士教育に反映させる必要がある。
  • 武田 美知子, 石井 祐子, 坂田 千江子, 佐藤 裕美子, 藤永 邦子, 森 美紀, 若倉 雅登, 井上 賢治
    セッションID: H503
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】当院では、職員にロービジョンケアの考え方を浸透させるため、平成13年に医師、看護師、検査職員、事務職員の管理職を中心にシミュレーションゴーグル(Zimmerman社製)を用いたロービジョン体験を実施して以降、毎年新人研修にロービジョン体験を取り入れてきた。今回は中堅職員を対象に実際に働いている現場の患者の動線に沿ったロービジョン体験を実施したので報告する。

    【対象】医師、看護師、看護助手、視能訓練士、薬剤師、栄養士、検査職員、事務職員、受付、案内係、施設課等のスタッフ57名(平均年齢32.4歳±7.21歳、平均勤続年数5.3年±4.43年男性7名女性50名)

    【方法】平成20年11月~平成21年3月の間に20回にわけて体験を行った。体験では外来通院患者の動線のほか、栄養士はさまざまな食器を使って実際に食事をさせる、薬剤師は実際の処方箋を見て点眼薬を選ばせ自己点眼させるなど、我々が考えた職種ごとのメニューで体験を行った。体験後、参加者全員を対象に記名式でアンケート調査を行った。アンケートでは①体験した感想②ロービジョン者の気持ちの理解③ロービジョン者の見え方の理解④今後の業務への影響⑤具体的なアイデア・工夫について回答してもらった。

    【結果】①では全員が体験してよかったと回答した。②では、ある程度という者も含めて全員が理解できたと回答した。③では自動受付・精算機や検査室の椅子、予約時のカレンダーが見えにくいという回答が多かった。④では96%が役立つと回答した。⑤では検査室の椅子やカレンダーの工夫、メニューによって食器を変える等具体的で積極的な意見が提出された。

    【結論】体験学習を通して、ロービジョン者への誘導の重要性を再認識し、設備の工夫や改善方法を検討して実施に結びつけるなど、中堅職員の意識を向上させることができた。
  • 鶴岡 三恵子, 安藤 伸朗, 白木 邦彦, 川瀬 和秀, 西田 朋美, 仲泊 聡
    セッションID: H504
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】全国の眼科教育機関のロービジョン(以下LV)ケアの実態と、所属長(教授)のLVケアに対する認識について調査を行った。

    【対象と方法】全国の105の大学(および関連施設)を対象に、郵送にてアンケート調査を行った。平成20年10月15日から11月20日の間に、教授本人が回答するように依頼した。

    【結果】61施設(58%)から回答を得た。東日本と西日本で回答率をみると、東日本:49%、西日本:52%で差を認めなかった(p=0.76)。LV外来の開設は、開設:79%、未開設:21%、東日本と西日本で開設率を見ると、東日本:93%、西日本:65%、Fisher's testで有意差を認めた(p=0.02)。LV外来の担当職種は、視能訓練士:82%、眼科医師:51% 、看護師:7%、歩行訓練士:3%、その他:5%であった。拡大鏡(ルーペ)や拡大読書器の常備、紹介・機器選定:72%、遮光眼鏡の常備、紹介・機器選定:70%、生活便利グッズや音声で使用可能な日常生活用具の関連資料を常備:51%であった。LVへの関心は、ある:97%、ない:3%であった。眼科医が、LVケアに関心が低い理由としては、人手が足りないから:84%、時間がかかるから:80%、保険点数がつかないから:59%であった。大学病院で医局員に対し、LVケアの教育指導は必要:80%、ときどき必要:20%であった。自身はLVケアを学ぶ機会では、参加したい:43%、参加しない:12%、内容による:45%であった。自身の外来で、術後LVケアを必要としている患者に対しては、LV外来に回している:57%、自分でケアしている:18%、他の施設に紹介している:6%、特に何もしていない:2%、その他:5%であった。自身の病院以外で、紹介できるLV外来が近隣にある:38%、ない:62%であった。

    【結論】今回のアンケートで、全国の眼科教育機関の教授がLVケアに対し高い関心を持っていること、しかしLVケアの教育や普及に困難を伴っている現状が示された。今後、LVケアの普及と教育のためには、今回明らかとなった問題点に対して積極的なアプローチが求められる。
  • 上野 英子, 保野 孝弘, 小池 将文, 田淵 昭雄
    セッションID: H505
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】中途視覚障害者が、人生の途中で視機能の障害を知ることにより、自分自身の価値を喪失し、自分は役に立たないと感じてしまう。そこから障害と折り合いをつける過程において、周囲の人々との相互作用により過小評価から抜け出し、心理的な小康状態に至るプロセスを明らかにする。

    【方法】眼科クリニックに来院している患者11名(男性5名、女性6名、平均年齢64.2歳)を対象に半構成インタビューを行い、周囲の人との相互作用について聞き取った。分析には修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。

    【結果及び考察】分析の結果、最終的に31の概念を採用し、7のカテゴリー、5のサブカテゴリーが生成された。中途視覚障害者は≪ぐるぐる回る気持ち≫を出発点にして、大別して2つのプロセスを経験する。第1は、自分への≪過小評価から抜け出し心理的な小康状態に至る≫プロセスである。このプロセスには、他者からの≪関わりによる承認≫を継続して受けることが<心理的な小康状態>に至ることに大きく影響していた。第2は、自分への≪過小評価から抜け出せず、延々と回り続ける≫プロセスである。こちらは、他者からの<関わりによる否認>が主に働いたことにより、<仕方がない>に至る。また、このことは、≪関わりによる承認≫がないために、延々と回り続ける。これらの結果から、重要なのは≪過小評価から抜け出し心理的な小康状態に至る≫ことであり、≪関わりによる承認≫が促進剤となる。しかし、<関わりによる否認>が主に働いた場合、「過小評価」から抜け出せないことが明らかとなった。このことから、人生の途中で障害者になる、という自分自身の価値喪失の危機から抜け出すには、本人のことを理解する≪関わりによる承認≫を続けていくことで、「心理的な小康状態」につながる支援を行うことが必要であるといえる。
  • 岩田 文乃, 高林 雅子, 村上 昌
    セッションID: H506
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【緒言】ロービジョンケアで対応する遺伝性および先天性の眼疾患は多様で、近年遺伝医学的情報の増加が著しい。遺伝相談や遺伝子診断についての望ましい対応を探るため、遺伝相談目的で受診した1例について希望の理由、対応、および本人の認識の変化、眼科への要望などについて検討した。

    【症例】研究目的を明確に提示し、個人の推定が不可能な内容での発表について同意の得られた、先天性疾患のため低視力の男性。子供への影響を聞くため「思い切って」来院。相談を希望する動機などを確認する過程で焦燥感の軽減が認められ、さらに再来院時、遺伝は本来優先順位の高い課題でなかったととらえるなどこれまでの気持ちを振り返る契機になっており、認識の大きな変化が認められた。後日、眼科で患者が相談できる場の提供の意義や、初めから確率などの情報提供を行った場合の効果には懐疑的であるなどの感想を得た。

    【考察】ロービジョンの患者は視機能による日常の影響、それまでの過程や治療の現状以外にも、眼とは直接関係ない様々な課題を抱えて生活している。しかしそこに遺伝という課題が加わると、遺伝が問題意識の多くを占めるようになることがある。一般的に医師にとっても遺伝医学的課題のほうが心理社会的課題よりも医療行為としてなじみやすく、遺伝に関する質問に対しては医学的に答えようとしがちである。しかし、遺伝に関する情報や検査を求めて受診しても、遺伝医学的対応のみでは、本人の持つ根本的な問題の解決に結びつかないことを本症例は示唆している。正確な医学的診断に基づく遺伝学的情報提供は重要であるが、相談者の本来の問題解決のためには担当者が相談の背景の把握をし、本人が自らの課題や自らにとって遺伝が持つ意味合いを的確に判断したうえで行われることが重要であると考えられた。ロービジョンケアにおける遺伝相談の位置づけや望ましい対応について更なる検討が必要であると考える。
学術展示(ポスター)
ポスター第1会場
  • 田中 恵津子, 小田 浩一
    セッションID: P101
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】まぶしさに対する有用な補助具として遮光フィルタがある。効果の背景には、短波長成分をカットし眼球内の散乱光を低減させることがよく知られている。同時に遮光フィルタの波長透過特性は視対象の分光特性と相互作用して視対象の輝度や背景との輝度コントラストの変化を導き視認性に影響する。本研究では遮光フィルタなし/ありで色見本の輝度と輝度コントラストが実際にどう変化するかを観察した。

    【方法】財団法人日本色彩研究所製作JIS色名帳(高彩度編)の色見本25種類を、色評価用蛍光ランプ(FLR20SW/MA)を光源として照明し、遮光フィルタ(東海光学CCP YL)を通した条件と通さない条件で輝度測定した。測定には、Minolta製LS-1100を使用し、輝度値は5計測値の平均をとった。

    【結果と考察】遮光フィルタによる輝度変化(比率)は、青(5B, 10B)は0.56-0.63、紫(5P, 7.5P, 10P)は0.79-0.84、赤(2.5R, 7.5R, 10R)は0.78-0.80、黄色(5Y, 7.5Y, 10Y)は0.67-0.71、緑(5G, 10G)は0.53-0.57、白(背景色)は0.63であった。遮光フィルタの透過特性を反映して青や緑色系統の輝度低下が他の色より大きかった。白背景に対するコントラストの変化をMichelsonコントラストで比較すると、25色中青?緑の8刺激で最高6.0%の上昇がみられ、残りの17刺激では0.14(黄緑)-8.5%(赤)の低下がみられた。平均輝度はフィルタなしでは92.51±13.3、ありでは59.4±9.3cd/m2であった。

    【結論】遮光フィルタによる視対象の輝度変化として、(1)平均輝度の低下、(2)青、緑色の顕著な輝度低下、(3)青-白や緑-白のコントラストの上昇、赤-白のコントラスト低下が確認された。
  • 田邉 正明, 魚里 博
    セッションID: P102
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】単眼鏡は遠方を見るための補助具であるが、鏡筒を長くすることで近方を見ることができる。しかし、単眼鏡の表示倍率は遠方視をしたときの角倍率で表記されており、近見視の拡大の評価がされていない。そのために近見視の一般的な補助具である拡大鏡の倍率と比較することができない。そこで近見視をしたときの単眼鏡と拡大鏡を同じ基準で評価する方法を明らかにする。

    【対象と方法】作業距離が鏡筒に記されており、スケールが示す作業距離に合わせればピントが合うように工夫されているNEITZの単眼鏡PKシリーズを対象とした。拡大鏡の単レンズと比較するために、単眼鏡の接眼レンズと対物レンズの2枚レンズを1枚の薄いレンズと考えたときの等価屈折力、等価屈折力に対応した作業距離、鏡筒の長さの変化率を求める一般式を導出し、等価屈折力、作業距離を記載したスケールを作成した。

    【結果】近見視をするために単眼鏡の接眼レンズと対物レンズの焦点距離の合計より鏡筒を長くしたときの等価屈折力は負となり、主面は虚像を生じるように算出された。光路図では正立像が実像で結像されるが、単眼鏡ではプリズムの作用で倒立像として結像した。そこで、実像を生じさせる正の屈折力を持つ主面を定義し、正の等価屈折力(Fe)を求める一般式を導出した。a: 作業距離、F: 対物レンズの屈折力、Fe: 等価屈折力、m: 角倍率とするとFe=mF/(aF-1)となった。つまり作業距離はa=m/Fe+1/Fで求められ、鏡筒は等価屈折力が1D増加すれば1/mF2だけ長くすればよいことが導出されたので、最短の作業距離に対応した等価屈折力から0Dまでのスケールを作成し、単眼鏡に貼り付けた。

    【結論】単眼鏡に貼られた等価屈折力と作業距離が記載されたスケールで、必要とされる等価屈折力、作業距離に適した鏡筒の長さに調節可能となり、適切な単眼鏡、拡大鏡を選択できるようになった。
  • 小田 浩一, 李 嘉賢
    セッションID: P103
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】韓国語について視覚的な読み能力を評価する評価チャートを作成し、視覚正常の被験者に試用したので報告する。

    【対象と方法】27文字からなる韓国語の平易な文章を多数作り、読めるぎりぎりの文字サイズよりも小さいサイズから、50ポイント程度のサイズまで0.1logずつ変化させながら、韓国の明朝体を用い2400dpiで印刷したMNREAD形式の読書評価チャートを試作した。これを用い19名の韓国語を母国語とする視覚正常の被験者に読み評価を実施した。うち13人には、1~2週間の期間をおいて2回目の測定を行った。同時にランドルト環による視力検査も実施し読書視力との関係を見た。

    【結果】文字サイズが大きい間は安定した高い読み速度が得られ、一定の文字サイズを境に文字が小さくなると急激に速度が低下するという、英語や日本語など他の言語・文字について観察されているのと同様の読書速度の関数が得られた。読書視力文字サイズ、臨界文字サイズ、最大読書速度を他の言語と同じ方法で推定することができた。近見視力と読書視力、読書視力と臨界文字サイズの間に高い相関(それぞれr=0.71と0.79)が得られた。

    【結論】読み材料の言語的な統制を精緻化する必要が残されているが、韓国語についても読書関数や臨界文字サイズを測定することができ、読書評価チャートの試作としては十分な成果をあげることができた。結果は他の言語で知られている知見と基本的な性質として一致するものであった。
  • 氏間 和仁
    セッションID: P104
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】拡大鏡の妥当性の評価は困難な作業の1つである。本研究はMNREAD-Jkを拡大鏡の妥当性の判断に用いる可能性についての1例を報告する。

    【対象と方法】1999年10月生まれ、弱視、眼球振盪、RV=0.1(0.1)、LV=0.1(0.1)、NRV=0.1(0.1)、NLV=0.1(0.1)。通常学級に通う小学生。2007年8月より眼科と連携して拡大鏡の選定と訓練を開始。2008年5月にMNREAD-Jkを実施(第1回)し、拡大鏡の訓練を開始。2008年10月に拡大鏡を用いたMNREAD-Jk(第2回)、2008年11月に視距離を自由にしたMNREAD-Jk(第3回)をそれぞれ実施し、拡大鏡の妥当性を評価した。

    【結果】第1回の結果、CPS=0.9logMAR、MRS=121±26.2CPM(B/W)であった。M size=3.2であったため、手持ち式拡大鏡(ESB2655750、3.5×)を試用して訓練を開始した。第2回の結果、CPS=0.3logMAR、MRS=195±20CPM(B/W)、第3回の結果、CPS=0.6logMAR、MRS=175±24CPMであった。3回の実施条件を要因とした1要因の分散分析の結果、要因の効果は有意であった(F(2, 35) = 12.30, p < 0.01)。多重比較の結果、第1回<第2回、第1回<第2回であった(5%水準)。ここでのlogMAR値は視標に表記している値である。

    【結論】拡大鏡の訓練開始時の拡大鏡使用下のMNREAD-Jkを実施していないので拡大鏡の訓練効果を、議論できないが、訓練の結果、拡大鏡を利用したMNREAD-Jkを行うことで拡大鏡の形態やレンズの倍率、及び訓練の総合的な効果が妥当であるということを明らかにすることができた1例といえる。
  • -漢字を学習する段階の児童の文字サイズの選択-
    伊藤 雅貴, 水谷 みどり, 小田 浩一
    セッションID: P105
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
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    【目的】ロービジョンの学齢児にとって考慮すべき文字サイズには、漢字仮名交じり文が効率よく読むことができるサイズに加え、日常学習する新出漢字等を一画一画まで判別することができるサイズがある。ここでは、MNREAD-Jkを用いた読書行動の評価をもとに、漢字仮名交じり文を読むことができる文字サイズを選択し、さらに、字形を確実にとらえることができる文字サイズを検討し、実際の学習場面に活用する教材作成を試みた事例を報告する。

    【対象と方法】地域の小学校3年と5年にそれぞれ在籍し、盲学校教育相談を利用する女児2名、対象児AとB。両名とも未熟児網膜症、視力は両眼で0.15。近見で視力を測定した後、MNREAD-Jkで読書について評価し、臨界文字サイズを推定した。視距離の調節行動について、文字サイズと関係が見られるかを確認した後、臨界文字サイズをもとに読み教材を作成し、漢字仮名交じり文を効率よく読むための文字サイズを読速度や誤読数により比較した。また、視距離の調節によって漢字一画一画までを判別できる視角を、本人の感想を基に検討した。

    【結果】MNREAD-Jkの結果、Aの臨界文字サイズは0.8logMAR。漢字仮名交じり文を読むためには臨界文字サイズの約2倍の視角が、漢字の字形を捉えるためには約2.4倍の視角が必要であった。Bの臨界文字サイズは0.9logMAR。漢字仮名交じり文を読むためには臨界文字サイズの約1.8倍の視角が、漢字の字形を捉えるためには約2.7倍の視角が必要であった。

    【考察】MNREAD-Jkによる読書評価は文字サイズを選択する基準を作るために有効であると思われた。2事例の検討結果から、文字の字形を学習している時期の児童には、漢字仮名交じり文を読むためには臨界文字サイズの約2倍、漢字の字形を正しく捉えるためには、臨界文字サイズの約2.5倍程度の視角が必要なことが示唆された。
  • 釼持 藍子, 久保 寛之, 角田 亮子, 斉藤 千夏, 仲泊 聡
    セッションID: P106
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】視野狭窄患者が視覚探索を行う際の方法として、ロービジョン訓練では規則性をもって眼を動かすことで探索漏れを防ぐ理由と、眼球が水平運動で比較的スムーズに動きやすい特性を活かし、横スキャニングを行うよう指導している。しかし、関口らは、縦方向の位置情報が視野狭窄によって影響されるかもしれないということを正常被験者に視野狭窄シミュレーションゴーグル(以下SG)を用いて実験的に示した。そこで、今回は楕円視標を用いて、視野狭窄患者の横スキャニングが視覚的形態認知に影響を与えるかどうかを同様の方法を用いて検討した。

    【対象と方法】 対象は、矯正視力1.0以上で屈折異常以外に眼疾患を有しない正常被験者3名とした。SGを装用し、視野狭窄条件を「制限なし、10度、7.5度、5度、3度」の5条件で測定した。歪み率を『(縦径―横径)/(縦径+横径)×100(%)』で定義し、歪み率を-10~+10(%)の1%刻みで楕円視標を作成した。刺激サイズは、10度、20度、40度とし、各サイズそれぞれ22個(0%は2個)、全体で66個の楕円をランダムな順で提示した。提示時間は3秒、刺激間隔は2秒であった。SGを装用し、①「縦長」と判断した場合、または、②「横長」と判断した場合にボタンを押し、反応時間を測定した(各視野狭窄条件で1回ずつ)。そして、ランダム系列を3種用意し同様に測定した。歪み率による反応時間の変化を「縦長」判断と「横長」判断で比較し、正円と判断する歪み率を求め、これが視野狭窄により変化するかについて検討した。

    【結果】SG装用下で視野狭窄になるほど反応時間は遅くなったが、正円判断の歪み率には視野による系統的な変化はみられなかった。

    【結論】今回の実験では視野狭窄による円形性判断への影響は認められず、横スキャニング探索を行っても視覚的形態認知には影響がないという可能性が示された。
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