日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
第10回日本ロービジョン学会学術総会
セッションID: E1
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研修プログラムⅠ
ロービジョン者と歩行
*小林 章
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抄録


 全盲の視覚障害者が歩くときには主に聴覚と触覚の情報を活用する。ロービジョン者はそれにプラスして、視覚情報を活用することができるので、全盲者よりも効率よく、安全に、低ストレスで歩けると、多くの人が考えるかもしれない。しかし、白杖を使用しないロービジョン者は、歩行時に触覚は活用しておらず、多くの場合解像力やコントラスト感度の低下した、あるいは、視野が著しく制限された視覚情報のみに依存して歩いている。見ることに集中する余り、視覚以外の情報がマスキングされてしまうことが多い。その結果、訓練を受けた全盲者は交差点の横断のタイミングを聴覚情報によって判断できるが、多くのロービジョン者はそのことに気付かない。それでも、視覚情報は白杖で確認する触覚情報よりも遠方の情報を常に確認できるので、全盲者より効率良い移動が可能であるはずだが、多くのロービジョン者は白杖で探る距離と同程度の位置を確認しながら歩いている。
 MarronとBailey(1982)によれば、視力、ピークコントラスト感度、視野と歩行パフォーマンスの相関は、視力は著しく低く、ピークコントラスト感度、視野との相関が高いとされている。視野が著しく狭いと、近方に視線を向けるほど情報量が少なくなり、路面の様子を確実にとらえることが難しい。ピークコントラストが低下している場合も、下り段差、急な路面の傾斜、窪み、亀裂などの発見が難しい。また、求心性視野狭窄の場合は遠方に視線を向けても、周辺や背後から突然現れる歩行者や車両などを発見することが難しい。これらの人々は常に転倒、転落、衝突などに少なからず恐怖心を持っている。さらに、夜間になると視覚情報は一層減少し、高度近視による視力低下の人にとっても、外出は苦手なものとなる。これらのロービジョン者にとっては、個々の特性に応じた、視覚を活用するための歩行技術の指導が不可欠である。

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© 2009 日本ロービジョン学会
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