抄録
1.目的
本研究は、床デザインでよく見られる石材の表面仕上げの違いの磨き(摩擦小)とバーナー(摩擦大)という床材の摩擦の違いに着目し、歩行中の摩擦の異なる床材間の識別容易性を客観的・定量的に評価することを目的とした。これらを明らかにすることで摩擦の異なる床材による視覚障害者への歩行空間の提示の可能性が期待される。
2.方法
実験は、足底以外の情報を遮断した10名の被験者に摩擦の異なる2種類の床仕上げ材を組み合わせた歩行路を歩き、前後の素材の違いを回答してもらった。被験者が境界を予見できないようにスタート地点を3種用意し、歩行距離は一定とした。そのスタート位置と前後の素材の組み合わせは毎試行ランダムに提示した。また、前後の素材が異なる試行と同じ素材の試行の割合が同数となるよう調整し、各々54試行ずつ計108試行とした。
3.結果
全体的には摩擦差の識別性は先行研究で誘導ブロックと同等の識別性が確認された弾性差よりも有意に低いことが確認されたが、正答率が高い群と低い被験者群の2群が確認され、正答率が高い群の被験者らは、遊脚後期に踵を地面に擦ることで、弾性差と統計的にその差が認められない範囲で識別できることがわかった。
4.結論
これらのことから、白杖や足音等の情報も歩行時に利用している視覚障害者は、より正確に床材の違いを識別できると考えられることから、摩擦の異なる床材による歩行空間の提示の可能性が示唆された。この方法は、突起を用いないため、従来の誘導ブロックを補完する形で以下の適用が考えられる。
* これまで敷設できなかった箇所での歩行空間の提示
* これまでの『線』から『面』での歩行空間の提示
これは視覚障害者の歩行空間を拡大し、彼らのQOLの向上に寄与できると考える。しかしこの適用には、誘導ブロック同様の社会的なコンセンサスやルール化が必要である。