主催: 日本ロービジョン学会, 視覚障害リハビリテーション協会
目的
視覚障害者の歩行に関する客観的な評価については、生理指標、行動面での評価等いくつかの試みがなされている。しかし、主観的な視覚障害者の歩行に関する評価はほとんどなされてない。そこで、本研究では、歩行技能及び歩行時の不安の主観的評価について評価尺度を作成し、評価の信頼性・妥当性を検討した。
方法
それぞれの評価尺度は2件法(○又は×)。評価項目数は両評価とも50項目。被評価者は45名(視覚障害学科学生及び卒業生31名(約6ヶ月間(週2回)の歩行経験)、視覚障害者(全盲者)6名(歩行歴25年から43年、平均:32.2年±6.2年、週5日以上単独歩行)、歩行未経験の晴眼者8名)。晴眼者はアイマスクによる遮眼時設定で評価を行った。
結果
技能評価、不安評価ともに、主因子法、バリマックス回転による因子分析を行った。その結果、技能評価では5因子(抽出基準は寄与率5%以上)が抽出された。信頼性係数を見ると、クローンバックのα係数が0.924(n=45)、ガットマンの折半法信頼係数が0.884(n=45)とそれぞれ高い数値が出た。不安評価では、7因子(抽出基準は寄与率5%以上)が抽出された。信頼性係数を見ると、クローンバックのα係数が0.939(n=45)、ガットマンの折半法信頼係数が0.867(n=45)とそれぞれ高い数値が出た。
それぞれの尺度の相関関係では、相関係数は-0.82であり、有意であった(F(1,43)=88.42,p<0.0001)。説明率は、67.24%であり、両変数には強い負の相関があるといえる。
結論
これらの結果、作成された主観的歩行技能評価及び不安評価尺度は十分に信頼性が高い、内的一貫性が高い尺度であるといえる。また、両尺度の相関関係を考慮すると、技能が低ければ不安が高い或いは技能が高ければ不安が低くなるという経験的な要素を考慮すると、妥当性の高い尺度であるということができる。
今後はどの技能(因子)がどの不安(因子)と相関が強いのか分析し、ある特定の技能に着目し、その技能に特化したプログラムを歩行訓練の際に導入していくことが可能であると考えられる。また、LV者なども含めた当事者を被検者として、さらに項目数・項目内容の検討を行っていく予定である。
なお本研究は、厚生労働科学研究費補助金「3Dサウンドを利用した視覚障害者のための聴覚空間認知訓練システム(H15-感覚器-006)」の助成を受けた。