日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
第6回日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集/第14回視覚障害リハビリテーション研究発表大会
セッションID: S2-1
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シンポジウム II 理想のロービジョンケア体制を求めて Part 2
専門分化した社会の弱点を乗り越えるために
*阿部 直子
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抄録

ロービジョンケアを含め、医療・福祉・教育等の社会サービスに携わる者の役割は第1に個別事例において本人や家族が抱える問題の解決や生活の質の向上、自信や生活力の回復(小児の場合は育成)に対して適切な援助を提供することにあり、第2に個別援助を通して顧在化した課題を踏まえて誰もが生活しやすい社会づくりのために新たな社会資源の開発を模索していくことにあると言えよう。仙台市では2001年度よりこの両者の視点で中途視覚障害者への地域支援システムのあり方を検討し、試行的に事業を実施してきた。事業の実務を担当する市役所職員は現在3代目。毎年度の取り組みを報告書にまとめながら現在に至っている。事業への参画を通して、対話の積み重ねと情報や課題の共有が新たなアイディアを生む原動力になりうることを学んだ。
視覚障害がもたらす生活ニーズは障害の程度や年齢・職業等によって多様であり、その解決には所得保障制度の活用、有期限の訓練プログラムや日常的な生活援助サービスの利用といった様々な方法がある。1事例が抱えるニーズは1つとは限らず、複数の方法を導入しながら問題解決を図っていくことが通例である。その際、ニーズに気づいた援助者が自ら(が所属する組織内で)解決できればよいが、専門分化することで成り立っている現代社会ではそれが難しい場合のほうがむしろ多いだろう。そこで必要になってくるのが複数の援助者による協働である。ニーズを抱えた人を放置しないためにも援助者が個々に持つ得意分野を持ち寄り、建設的な意見交換を重ね、「お互いさま」の発想で補い合いながら解決方法を見出していく。
専門家がいわば「求心性視野狭窄状態」に陥ってはならない。そのためには異なる意見や異なる視点を受け入れる寛容さと、援助者どうしが時には社会的地位(とされるもの)の上下を越えて素直にわからないことを「教えて」と聞くことができ、できないことを「助けて」と頼める関係づくりはとくに重要である。
連携はあくまでも手法や過程であって目的ではない。だが援助に携わる者一人ひとりが社会の一員として働き、生活することに対して持つ哲学のありようを示しているのかもしれない。

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© 2005 日本ロービジョン学会・日本視覚障害リハビリテーション協会
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