抄録
【目的】ロービジョン者の読書の特性を明らかにするために,低視力シミュレーション下で文字の大きさを変化させ,音読潜時と読書速度を測定し,関係を確かめた.文字提示から音読に要する時間を音読潜時とした.
【方法】晴眼被験者3名.視力(通常条件、フィルタ条件)を要因とした,要因計画法を用いた.通常条件は透明ガラスを装用,フィルタ条件は眼鏡箔を貼付したガラスを用い0.1から0.2程度に統制された.被験者は30cm先の17inch TFTディスプレイ中央に表示される平仮名5文字の非単語刺激中,2,4文字目を表示直後に音読した.文字サイズは70point(視角:1.40logMAR)から0.05log UNITで縮小した.同等の条件で読書速度も測定した.刺激提示の前1.5秒で注視点が1秒間先行刺激が提示され,前0.5秒で440kHzのサイン波が0.3秒鳴った.音読潜時はデジタル録音された音を波形処理ソフトに取り込み,1msecオーダーで計測された.
【結果】全被験者で臨界文字サイズ以上の文字サイズにおける読書速度と音読潜時を比較したが,要因の効果は無かった.グラフ化すると,ある文字サイズ以下で音読潜時の延長が確認できた.これを読書速度のグラフと重ねると,読書速度の低下と音読潜時の延長がほぼ同時期に起こっていた.そこで音読潜時と読書速度の相関係数を求めるとr=_-_0.85(説明率75%)であった(F(1, 39)=103.43, p < .01).
【考察】低視力シミュレーションは臨界文字サイズ以上の文字サイズにおいては,音読潜時や最大読書速度に有意差を持った影響を及ぼさないことが確認できた.音読潜時は臨界文字サイズ近辺から延長し,読書速度との間に強い相関を示したことから,読書速度と音読潜時には強い関連があることが示唆された.音読潜時の測定により,読書速度をある程度予測できる可能性が示された.