抄録
【目的】視覚障害者に対する化学品の危険有害性情報の伝達において,携帯電話とICタグを利用する方法を評価した.視覚障害者の携帯電話保持率は相当高く,これを音声端末として利用したものである.
【方法】ここで用いた携帯電話とICタグを組み合わせた装置の原形は総務省北陸総合通信局において考案されたものである1).本研究では近い将来,市場に出回るすべての商品にICタグが添付され,ICタグリーダが携帯電話に標準装備されることを想定している.ここでは,洗剤などの化学品に,メーカや商品名,危険有害性情報などを書き込んだICタグ(MB89R118,富士通)を貼付し,その情報をリーダ(MFDU-M4PH)を介して携帯電話に読み取り,音声出力するという道具立てで評価した.ICタグへの情報の書き込みはライター(RWF-ML6,スマートIDテック)によった.44名の視覚障害者(男女22名ずつ,全盲21名/弱視23名,平均年齢44.7歳)にこの装置を使って日用化学品の危険有害性情報を読み取ってもらい,情報伝達装置としての可能性についてインタビューを行った.
【結果】すべての被験者が特段のトラブルもなく,化学品の危険有害性情報の読み取りを完了した.全盲,弱視でそれぞれ95,100%の者がこの情報伝達の仕組みを支持した.また,携帯電話の通信料が発生してもこの装置を使いたいとする者が全盲で52%,弱視で35%いた.一方,携帯電話への情報転送時間の長いことが多くの被験者から不満としてあげられた.
【考察】ICタグに情報を格納し,その内容を携帯電話により音声で聞く仕組みは,その支持率の高さから視覚障害者に広く受け入れられる情報伝達手段になりえると考えられた.
【文献】1)総務省北陸総合通信局:視覚障がい者のための公共トイレ音声案内システムの実用化と普及手法に関する調査研究会報告書,2005年3月.