抄録
視覚障害者のための社会基盤整備として,視覚障害者用誘導ブロック,音響信号機などの国際規格,国内規格化が進められている.さらに近年の技術進展により,歩行者ITSなどのIT技術やエレクトロニクスの技術を用いた歩行支援・誘導システムの開発が進められている.
しかし,これらの環境整備がどの程度有効であったかという評価に関しては不明瞭な部分が多い.これらは視覚障害者の視覚・感覚および歩行特性が多様であることが関係していると考えられる.視覚障害者のための社会基盤を有効的かつ効果的に整備するためには,多様な視覚障害者の視覚特性,歩行特性および詳細な援助ニーズを把握する必要がある.
本研究はロービジョン者の歩きやすい歩行環境を実現するために,ロービジョン者の視覚特性と歩行特性を把握するためにアンケート調査を実施した.これによりロービジョン者のための歩行環境整備の計画や評価に応用できる基礎的データを得ることを目的としている.
本調査はロービジョン者,晴眼者を対象とし,個人属性,視覚特性,歩行特性,歩行時の問題等をアンケートにより調査した.また,晴眼者にはロービジョン者特有の項目を除いてアンケートを実施した.
その結果をまとめると,ロービジョン者の夜間での外出頻度は減少する.また,ロービジョン者においても音響信号に対する必要性は高く,歩行中には白線や誘導ブロックなどを目で見て確認して,歩行の補助としていることなどがわかった.歩行中の発生する問題としては,「障害物との接触」,「歩道と車道の境界」,「階段段差」があり,視覚特性との関係では,「視野」,「コントラスト感度」が大きく影響していた.
ロービジョン者は「視覚」・「音」・「触知」情報を組み合わせて歩行しているため,これまでの全盲者を中心とした「音」・「触知」の環境整備に加え,色差や照明による視環境整備が重要であると考えられる.