抄録
近年,神経や筋・皮膚組織への低出力レーザー照射が臨床的にも実験的にも試みられ,神経再生や筋および皮膚細胞の活性化などが報告されている.われわれはカエル坐骨神経標本へのアルゴンレーザー照射が陽極開放興奮の発生を選択的に抑制すること,また,その効果が過分極性電位依存性陽イオン非選択性(Ih)チャネルの阻害剤を滴下した時の効果と類似することを報告した.そこで,もう一つの興奮性細胞である筋へのレーザー照射効果をイオンチャネルレベルで明らかにするべく,今回まず筋収縮への効果を検討した.実験にはオスのアフリカツメガエルの坐骨神経-腓腹筋標本を用いた.坐骨神経を極大刺激強度で1Hz刺激し,腓腹筋の収縮を張力トランスデューサーを通して記録した.12分間の連続刺激において,筋収縮の振幅が70%になった時点から3分間レーザー照射(Nd:YVO4, 532nm, 180mW)を行ったところ,筋疲労が遅延する傾向が有意に見出された(p<0.01).また,2分間ずつの連続刺激と休止期間を3回繰り返し,休止期間に同条件のレーザー照射を行った場合,統計学的には有意ではないものの,筋収縮が一過性に増大し,収縮の減衰が遅延する傾向を示した.以上の結果から,レーザー照射が神経筋接合部の神経化学伝達や筋の活動電位発生や興奮収縮連関へ影響を与えることが示唆された.