日本レーザー医学会誌
Online ISSN : 1881-1639
Print ISSN : 0288-6200
ISSN-L : 0288-6200
原著
歯科用OCTの機能と構造
鹿熊 秀雄
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 39 巻 1 号 p. 59-65

詳細
Abstract

OCTという装置が実現してから30年近く経過した.この間,特に眼科領域での研究が精力的に行われ多くの成功を収めてきた.これは,眼球などの眼組織が光学部品に似たものであり比較的チャレンジしやすかったこともその理由の一つであると思われる.ところが歯科分野で対象となる歯は眼科分野のものとは明らかに異なっており複雑な形をしている.近年歯科の分野でもOCTを使った研究が徐々に進み研究発表がなされてきたが,未だ製造認可を得て市販されている歯科用OCT装置は世界に存在しない.この状況を打破したいとの思いから,歯科用OCT装置の研究開発を始めた.このほど臨床に適した装置を開発したのでその機能と構造を紹介する.

1.  はじめに

ニュートンの光の粒子説に加え光の波動的解釈をもたらした有名な実験にヤングの2重スリットの実験(Young’s double-slit experiment)がある.光は反射,屈折,散乱,偏光,回折,干渉などさまざまな性質を持っているが,これらの性質のうち干渉は光が波動であるという証拠になるもので,その利用価値は非常に高く古くからその応用研究がなされてきた.1987年NTTの高田和正らは光ファイバの欠陥を見つけるため,光ファイバ干渉計と高輝度発光ダイオード(SLD)を用いて空間分解能が数十マイクロメートル,最少反射率検出限界が−110 dB以下という当時としては画期的なリフレクトメータを開発した1).1990年に山形大学の丹野直弘らが特許を2),翌年の1991年にはMITのJ. G. Fujimotoら3)により論文が発表された.その後,眼科分野での光断層撮影法の研究は活発に行われ発展してきた.それに伴って装置の発展も著しく世界の光断層撮影装置は眼科分野で発展してきたと言っても過言ではない.OCTの歯科分野での応用は1998年にB. W. Colston等による発表4,5)があるが,装置としては未発達なものであった.

筆者らが論文発表6)を行った 2008年当時,少なくとも日本においてOCTを歯科に応用する者はほとんどいないという現状であったが,2014年になると角らがPanasonic Healthcare製のOCT装置を使用して論文発表7)を行った.この装置は本論文のOCT装置と比較すると中心波長は同等であるが,スキャンレンジが110 nmと狭く分解能が劣る.またスキャンレートが30 KHzと遅いため撮影に時間がかかる.更に,この装置は3次元画像のリアルタイム的描画ができず,撮影を終えた後に3次元画像を構築する必要がある.近年臨床家の立場から田上順次,島田康史らのグループがOCTを使用して精力的な研究を行っている8,9).このように歯科分野でもOCTを使用した研究が進んでいることはまことに喜ばしいことである.ただ,認可された歯科用OCT装置は日本はもちろんのこと世界でも存在しないというのが現状である.

2.  OCTの原理

OCTの原理については多数の研究者によって繰り返し説明されてきたのでご存じの方も多いことと思う.今回は臨床家の方々を対象としているのでOCTの機能と構造という視点から説明してゆきたいと思う.

Fig.1は開発したOCTの原理的な図である.光源から発射された光はカップラ1で2つに分割される.一方はサンプルアームに供給されサーキュレータ1,コリメータレンズ1,ガルバノミラー,対物レンズ1を経てサンプルに照射される.サンプルで反射された光は同じ経路を逆走し,偏波コントローラ1を通過してカップラ2に到達する.他方,レファレンスアームに供給された光はサーキュレータ2,コリメータレンズ2,対物レンズ2を経てミラーで反射され同経路を逆走し,偏波コントローラ2を通過してカップラ2に到達する.この2つの光はカップラ2で干渉し,ホトレシーバに入力される.ホトレシーバでは干渉信号が電気信号に変換され,コンピューターに送られ画像化される.

Fig.1 

Principle of OCT System.

3.  構造

Fig.2は吉田製作所が独自に開発した歯科用OCTシステムである.画像表示部,光学ユニット部,コンピュータ制御部の3つの部分からなる.装置の操作は,マウスを使う方法とフットコントローラを使う方法の両方できるようにした.

Fig.2 

Yoshida Dental OCT System.

(主な仕様)

中心波長:1,310 nm

スキャンレンジ:140 nm

Aスキャンレート:50 KHz

深さ方向撮影可能距離:8 mm

深さ方向分解能:11 μm

縦,横方向分解能:40 μm

3.1  光源

OCT装置にとってこの光源は非常に重要な部品のひとつである.現在,装置に組み込み可能な実用的波長掃引光源は大きく分けて2系統存在する.それはレーザの掃引を電流で制御するものであり1993年にNTTのホトニクス研究所で開発された10).前述した筆者らのOCT論文はこの光源を使用したものであり,そのレーザ構造をFig.3に示す.2009年には撮影可能距離24 mmを達成した11).このレーザは長いコーヒーレント長を持つことより,深さ方向(A-line)の撮影可能距離が長く得られるなど長所が多数あるが,制御が難しいことから,一般的に市販されることはなかった.ところが近年このレーザに類似した市販品が登場したので期待される.

Fig.3 

Structure of SSG-DBR laser10).

一方,Fig.4で示したように,レーザの波長掃引を直接電流で行わず,レーザの後部ミラーをメムス(MEMS: Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれる超微細加工機械部品で置き換え発振させるレーザ光源がある.元々,レーザは固定した2枚のミラーでレーザ媒体を挟み発振させる.過去,長期にわたり,気体,液体,固体,半導体とあらゆる媒体が検討された.今回の主役は半導体である.この固定されたミラーによって限られた波長のレーザ発振が可能になる.ところが,我々はなるべく波長の異なった多数のレーザを必要とする.そこで考案されたのが後部ミラーを振動させレーザ発振させるものである.弊社のOCT装置はこの種類の光源を採用している.

Fig.4 

Laser oscillation.

3.2  プローブ

眼科用OCTと歯科用OCTの際だった違いはこのプローブにあると言ってよいだろう.眼科用OCTの被写体,即ち眼は,観察を行う部分から離れており,プローブに相当する部分はかなり大きくできる.ところが,口腔内を観察するプローブは小さくなくてはならない.また,観察する歯や歯肉等に直接接触するため洗浄,滅菌,が不可欠である.これだけではない,プローブ本体(ハンドグリップ部)も女性がつかめるようなサイズにする必要がある.まとめると,歯科用OCTのプローブの特徴は下記のようになる.

①小型

②洗浄可能

③滅菌可能

プローブはハンドグリップ部と先端ノズルから成り立っている.ハンドグリップの中に,コリメータ,ガルバノミラー,集光レンズが内蔵されている.それぞれの役割は下記の通りである.

コリメータレンズ:レーザ光を平行光線にする.

ガルバノミラー:サンプル(歯)にレーザ光を照射する.画像を立体表示するためにX方向に1個,Y方向に1個の合計2個のガルバノミラーを配置しスキャンを行う.

集光レンズ:ガルバノミラーからのレーザ光を集光する.

口腔外から口腔内への導光を必要とするため焦点距離は比較的長く取る必要がある.

Fig.5は前歯撮影用プローブである.先端にはストレートノズルがワンタッチジョイントを介して取り外し可能であり,先端部分を洗浄,滅菌,保管ができ何回でも再使用できる.Fig.6は臼歯撮影用プローブである.先端に45度の角度をつけたミラーが固定されている.ワンタッチジョイント部分で360度回転できるようになっており,上部歯列の撮影にはミラーを回転させることによって簡単に撮影が可能である.このノズルも洗浄,滅菌,保管が可能で何回でも再使用可能である.

Fig.5 

Probe for front teeth.

Fig.6 

Probe for molars.

3.3  画面構成

(プレビュー画面)

Fig.7はプレビュー画面の構成を示したものである.プレビューは写したい部分を画面を見ながら決定するのに必要な機能である.ほぼリアルタイムに画像が表示されるためプローブを動かしながら望みの部位を撮影できる.このリアルタイム機能を使用するとコンポジットレジンなど歯科用材料の硬化の過程が観察できる.Fig.8プレビュー画面は3画面に分割されている.この3枚のプレビュー画像の内3D画像は,マウス操作で回転でき,あらゆる角度から観察が可能である.また,断層画面には番号が表示されるため,撮影したい歯の内部に疾患などがあるかどうかこの時点で予測できる.正面画像は学会ではen-faceと呼ばれているものである.この画像は深さ方向のデータを加え合わせたものになっているが,おおむね浅い深度のものほど信号強度が強いため表面の形状が見た通りの形状で現れる.このため,口腔内カメラなどで撮影部位を確認するといった手間を省くことができ,大変便利な機能である.撮影領域はS,M,Lの3種類を用意した(Fig.9).各々のサイズはFig.9の通りであるがスキャン領域を狭くすると相対的に単位長さあたりのスキャン数が増えたことになるため分解能が上昇する.また,測定可能距離は4 mmと8 mmの2種類を設けた.これによって,画像データ容量を減少させることができる.

Fig.7 

Image display (preview).

Fig.8 

Preview screen.

Fig.9 

Setting of imaging range.

(コントラスト調整)

Fig.10はコントラスト調整を行う画面であり,Fig.11はコントラスト調整後の画像を比較したものである.撮影された画像のデータから得られる各画素値は最低値から最高値まで幅広く分布しているため,そのまま256階調の輝度値に変換して描画すると,コントラストが弱い画像となる.そこで分布する一部を強調して描画することでコントラストを上げる.こうすることによって着目する部分(見たい部分)がより鮮明な画像になる.

Fig.10 

Contrast adjustment.

Fig.11 

Comparison of contrast.

(方法)

Fig.12はWindow LevelとWindow Widthの関係を示した図である.オリジナルの画素値の度数分布から,強調したい画素値を選ぶ.これをWindow Level(WL)とよぶ.WLを中心として,0(黒)から256(白)までの輝度値を割り振る範囲を決める.これをWindow Width(WW)とよぶ.WL − WW × 0.5より小さな画素値はすべて0(黒)として描画する.

Fig.12 

Window Level and Window Width.

(ガンマ補正)

Fig.13はガンマ補正を簡単な模式図で表したものである.CTの場合,観察したい臓器周辺のCT値にWLを合わせて表示するが,OCTでは参照すべき値がないのでWLの合わせ方やWWの取り方は任意であり,画像をいかにコントラストよく見せるかに注意が払われる.WWの間の画素値から輝度値への変換は,デフォルトで比例配分であるが,指数関数を用いて低い値を強調したり,高い値を強調したりする.

  
Vout=Vin(1/γ)
Fig.13 

Gamma correction.

(撮影した画像の表示)

Fig.14はFig.7と対比させて示した撮影済み画像の本体配置図である.撮影後の画像はFig.15のようなビューアで検証する.3D画面には赤(A断層),緑(L断層),青(S断層)の断層枠を設けた.この枠で切り取られる断層像が右側に同色の枠内に示されている.各断層像には番号が付けられており注目する画像を番号で特定できる.

Fig.14 

Image display (review).

Fig.15 

Main viewer.

(クリッピング機能)

3D画像の位置は6面体の正面をA,その右側をR,左側をLと定めた.Aの裏面はP,Sの裏側はIである.右と左は患者側から見たものである.わかり易いように3D画像の右下にサイコロ風のものを設けた.Fig.16とFig.17では400枚のスライドでクリッピングできる.また深さ方向のS断面(青色の枠)では2,048枚のスライドでクリッピングできる.その他,紹介したい機能があるが,紙面の都合で割愛した.今後本装置を使用していただきその機能を確認していただきたいと思っている.

Fig.16 

Clipping by cross section A.

Fig.17 

Clipping by cross section A and L.

4.  おわりに

日本発,世界初の歯科用OCT装置をつくりたい.この強い思いは開発当初から全く衰えていない.基礎実験を終えて画像が出た時は一人喜びをかみしめたものである.その後,装置を製作し,臨床の先生方に使ってもらうことになったが,臨床経験からくる貴重なご意見には常に新鮮な刺激を受けた.OCTの技術は複合技術である.この意味は単なる技術の複合ではなく医療との複合体である.今改めて実感している.

謝辞

OCTの基礎研究から装置開発に至るまで,常日頃ご支援いただきました(株)吉田製作所の社長山中通三様に深くお礼を申し上げます.

利益相反の開示

開示すべき利益相反なし.

参考文献
 
© 2018 特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
feedback
Top