The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Laser Surgery for Early Stage of Tongue Cancer
Atsushi Abe Kenji YoshidaMotonobu AchihaYu ItoTomo YokoiAtsushi NakayamaHatsuhiko MaedaKenichi Kurita
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2018 Volume 39 Issue 2 Pages 111-116

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Abstract

歯科用レーザーは優れた切開・止血能を有している.この性質は口腔外科領域の軟組織疾患手術に適している.レーザー手術の適応としては,表在性悪性腫瘍や前がん病変の切除・蒸散があげられる.今回,われわれは早期舌がんにレーザーを使用しその適応および問題点について検討した.電気メスでの切除症例と比較するとレーザーメスでは,血管の切断面は十分に熱凝固された.また切断面の組織内に赤血球の組織浸潤がみられず,切除時の出血が少なかった.舌がんでは舌筋層に切除が及ぶため,切開時に筋収縮の生じないレーザーは正確なマージン設定が可能となる.

1.  はじめに

口腔外科疾患における歯科用レーザーの用途は,①軟組織病変などの切除,凝固,蒸散1,2) ②末梢性神経損傷による知覚・運動障害に対する神経賦活3,4) ③創傷治癒促進5,6)が主なものである.

現在,多くのレーザー装置が開発され普及しているが,これらは波長特性や蒸散様式により,凝固変性層の大小が異なる.したがってこれらの特性を理解し,手術部位と治療目的に応じてレーザーの種類を使い分けることが必要である.今回,われわれは早期舌がん症例を供覧し,使用における注意点と適応および問題点について報告する.

2.  口腔軟組織疾患におけるレーザー治療

口腔内は脈管に富む組織が多く存在し,外科処置に際しては,出血のコントロールが必要とされる.そのため熱凝固作用有するレーザーを使用することは,切開・凝固止血が同時に行われるため口腔外科手術において汎用性が高い1-7).レーザーによる組織の切開・蒸散および凝固止血は,主として白板症の非可動粘膜の病変に対し直接焼灼し蒸散するLaser vaporizationと腫瘍や可動粘膜病変に安全域を設定し切除するLaser excisionの2種類の方法がある7)(Fig.1).いずれの手法も優れた止血・凝固能は大きな利点であるが,病変に応じた使い分けが必要とされる.

Fig.1 

(a) A schema of ND:YAG laser excision and vaporization. (b) denature of Nd:YAG laser excision and vaporization (chicken liver).

病変の切除には,鋼刃メス,電気メスおよびLaser excisionが用いられるため,これらの特性について検討したところ,口腔粘膜切除におけるレーザーと鋼刃メスの比較検討した報告では,レーザーでは術中の出血がメスより少なく8),熱凝固による組織変性も許容できるものであったとの報告があるが9),われわれがレーザーおよび電気メスにて切除した舌がん症例の切除標本の切除断端を病理組織学的に比較検討すると,Nd:YAGレーザーを用いて切除した症例では,切除断端は,深部筋層までタンパク質の熱変性・熱凝固がみられ,比較的太い血管の切断端も十分に熱凝固されていた.また断端組織内の赤血球の組織浸潤は乏しく,健常組織への熱変性の影響は500 μm程度であった.また電気メスを用いた症例では,切除断端はレーザーと比較して鋭利で組織の挫滅は少なかった.比較的太い血管では熱凝固による止血効果が見られるが,熱変性・熱凝固変化が弱いためか,組織内での赤血球の組織浸潤が著明であった(Fig.2a, b).またラットに対し,舌にNd:YAGレーザーを照射し,照射直後の血管鋳型走査電子顕微鏡標本においても,照射創からの樹脂の流出は認められず,血管の溶着現象が認められた10)(Fig.2c, d).

Fig.2 

(a) Pathological findings (H&E ×40) Nd:YAG incision. (b) Pathological findings (H&E ×40) Electric knife incision. (c) Scanning Electron Microscopy findings (Quoted from reference 10). (d) Scanning Electron Microscopy findings. Adhesion of vessel (arrow) (Quoted from reference 10).

非可動粘膜に生ずる粘膜疾患に対するLaser vaporizationは,広範囲の病変や切除困難な場所において適応となる.一方で白板症にLaser vaporizationを施行した場合,術後の再発や悪性転化が問題となり,これらについては多くの報告がなされている11-18)(Table 1).白板症の切除での再発についての報告では7.0–17.5%12-14),蒸散における再発率は9–33.8%15-18)であったが,蒸散の報告の方がやや再発率が高い傾向にあった.また扁平上皮がんへの悪性転化の報告については0–25%と報告者間で差異が大きいが11-18),その理由は観察期間の差と,再発の定義が異なることに起因していると思われる.加えて,ラット舌の実験的前がん病変モデルを用いCO2レーザー蒸散を行い,未蒸散の残遺細胞が発がんに至る危険性も報告されている19,20).これらの報告から上皮異形成が認められる症例に施行することは,未蒸散の細胞の残遺と深部組織の活性化による発がんリスクがあると考えられ,長期にわたる厳重な経過観察とともに,蒸散手技の検討が待たれる.

Table 1  The recurrence rate and malignant transformation of leukoplakia
報告者 レーザー種類 使用方法 再発率(%) 悪性転化(%)
Giacomo et al. (2016)12) CO2 切除 13.3 0
Yang et al. (2011)13) CO2 切除 17.5 11.4
Vivek et al. (2008)14) Nd:YAG 切除 7 3.5
Mogedas-Vegara et al. (2015)15) CO2 蒸散 33.8 15.4
Pedrosa et al. (2014)16) CO2 蒸散 12 25
van der Hem et al. (2005)17) CO2 蒸散 9 1.1
Deppe et al. (2012)18) CO2 蒸散 30.7 0

3.  舌がん症例

舌や頬粘膜がんの切除には,臨床型や組織型によって安全域,深部マージンの設定や組織温存などの考慮すべき点が多くある.隆起型や潰瘍型で周囲の硬結がある症例や,周囲に白斑等の粘膜異形成が少ないものは術中の切除マージンの決定がしやすいが,白斑型やびらん型では周囲に広範な粘膜異形成を伴っているため,ヨード・トルイジンブルーによる生体染色を用いて切除範囲を設定することが一般的である.多くの場合,生体染色を用いた切除範囲設定により確実な切除がなされることが多い.しかし深部のマージンは,腫瘍の厚みが4 mm以上になると,頸部へのリンパ節転移のリスクが増大するため,設定において注意が必要である21,22).2017年にUICCのTNM分類改定が行われ,T分類にdepth of invasion(DOI)の概念が導入された23).これは腫瘍の厚みが,後発頸部リンパ節転移や予後と相関することが改定に反映されたものといえる.T1-2の症例はDOIが10 mm以下の症例となり,病変の切除において十分な深部マージンを確保しても,多くの症例では外舌筋に切除が収まり,細い血管しか存在しない.レーザーの止血能は,CO2レーザーで直径0.5 mm以下の動脈と直径1 mm以下の静脈24),Nd:YAGレーザーでは直径1 mm以下の動脈と直径2 mm以下の静脈に有効25)とされていることから,表在性病変では出血の少ない手術を行うことができる.しかし内向性腫瘍では,深部マージンを10 mmに設定した場合,深部筋層に切除が及ぶため,舌動脈の分枝などから出血をきたす.このような場合レーザーのみで十分な止血が得られないため,血管結紮による止血処置が必要である.同様な手術を行う際は電気メスが用いられることが多いが,電気メスによる切開では,筋組織の収縮が生じる.この現象は筋組織内の小血管の損傷につながる.微小な血管であれば,熱凝固により止血されるため問題ないが,一定以上の径をもつ動脈では凝固による止血ができない上に,血管断端が筋層内へ入り込んでしまうため,止血に難渋することがある.一方レーザーメス使用症例では電気メスでの切除症例と比較した場合,血管の切断端も十分に熱凝固され,切断端の組織内に赤血球の組織浸潤がみられず,切除時の筋収縮も認めないことから,確実な止血操作を併用すれば深部マージンの確保が正確になるできるという利点がある.器具の優劣のつけることは重要ではなく,その特性を理解し使用していくことが肝要である.レーザーにて舌扁平上皮がん(T1,2N0M0症例)に対する切除の予後については観察期間にばらつきはあるものの,85–95%程度の生存率であり,筋層浸潤の少ない症例においては適応になるものと考えられている26,27)

4.  症例提示

現在使用されているレーザーは,組織表面吸収型と組織透過型がある.CO2レーザーに代表される表面吸収型は,熱作用は表層のみで深部に到達することなく安全性が高いが,凝固能はやや劣るとされている.Nd:YAGレーザーに代表される組織透過型は熱作用が深部におよぶため,凝固能は高いが深部組織の損傷には注意が必要である28).今回の症例は早期舌癌で,切除が外舌筋または内舌筋の一部に切除がとどまるような症例であり,凝固能が優れることと深部損傷の危険性が少ないと判断しNd:YAGレーザーを使用した.

症例1(Fig.3a–c)

Fig.3 

(a) Case 1. Ulcerating mass of the left lateral border of the tongue, diagnosed as Squamous cell carcinoma. (b) Laser incision. Making safety margin about 10 mm from tumor. (c) Postoperative findings.

患者:65歳 女性

診断名:左側舌縁部扁平上皮がん(T1N0M0)

現症:左側舌側縁部の接触痛を認め,一部に硬結を伴う15 × 15 mmの表面顆粒状の易出血性潰瘍が見られた.

処置及び経過:画像診断において深部への浸潤像はなく,全身的検索にて他の臓器への転移所見は見られなかったため,全身麻酔下でNd:YAGレーザー(14 W)を使用して,10 mmの安全域を設定し舌部分切除術を施行した.切除は,適切なカウンタートラクションをかけて切除を施行した.切除時は筋収縮も認められず,深部マージンも十分に確保することが可能であった.術後の異常出血も認められず,疼痛コントロールも良好であった.術後翌日より経口摂取を開始し,術後2週間で退院となった.

症例2(Fig.4a–c)

Fig.4 

(a) Case 2. Ulcerating mass of the left lateral border of the tongue, diagnosed as Squamous cell carcinoma. (b) Laser incision. Making safety margin about 10 mm from tumor. (c) Postoperative findings.

患者:77歳 女性

診断名:左側舌縁部扁平上皮がん(T2N0M0)

現症:左側舌縁部に23 × 17 mmの辺縁不整の潰瘍性病変を認めた.

処置及び経過:画像診断において深部への浸潤像はなく,表在性病変であったため,潰瘍性病変周囲に10 mmの安全域を設定し,約10 mmの厚みを確保しながら,Nd:YAGレーザー(14 W)にて左側舌部分切除術を施行した.創部は創被覆材を用いてタイオーバーとした.術後の血腫・浮腫の形成も軽度で,創部痛も軽く,翌日より経口摂取が開始された.創部治癒におけるレーザーと他機器との報告は散見され,レーザー照射や電気メスにより生じるタンパク変性層により治癒は遅延することが考えられるが,明らかな治癒遅延を認めた報告は少ない29,30).当科で経験した症例においても,治癒遅延なく良好な経過であった.

5.  最後に

レーザーは医療分野に浸透しており,歯科医療機関にも広く導入されている.それに伴い,レーザー機器によるインシデントも増加しつつある31).使用に際しては,神経,血管,歯周組織などへの熱損傷や,顎骨への過剰照射による熱損傷による骨壊死や,さらに冷却水,エアーブローによる気腫といった偶発症といった誤照射による健常周囲組織への損傷には注意を要する.顎顔面領域の手術の術後に致死的なトラブルの一つに組織浮腫や頸部出血に起因する上気道閉塞がある.上気道閉塞による出血は患者生命に直結する重大な合併症であり医療事故につながる.少しでもこのようなリスクを軽減できるのであれば,レーザー使用の優位性となりうるものであると筆者らは考えている.

6.  まとめ

1.口腔外科手術へ各種レーザーが臨床応用されており,頸部,口腔粘膜の軟組織に対する切開操作には出血を軽減できる可能性がある.

2.レーザーの臨床応用に際しては安全性,特に過剰,誤照射による健常周囲組織への損傷に注意し,照射出力や照射時間などの至適照射条件を熟知しておくべきであり,各種レーザーの特性を認識した上での装置の選択,臨床応用法,安全性などについて考慮する必用がある.

3.舌に発生したT1N0M0,扁平上皮がんの症例を高出力Nd:YAGレーザーメスにて切除した症例を供覧し,口腔がんに対するレーザー治療の適応と問題点について報告した.

利益相反の開示

利益相反なし.

参考文献
 
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