日本レーザー医学会誌
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総説
皮膚科・形成外科領域におけるレーザー安全について―当院の取り組み―
大城 貴史 大城 俊夫佐々木 克己崎尾 怜子安藤 紗希菅沼 友子高塚 友紀絵竹ノ内 清文影山 雄一高妻 光昭鈴木 康弘須藤 貴行森下 光幸
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2019 年 40 巻 2 号 p. 119-124

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Abstract

皮膚科・形成外科領域においては,1990年代以降レーザー機器が多様化・小型化してきており,多くの種類の医療用レーザー機器を使用できるようになってきた.加えて,レーザー機器の製造販売業者も多くなり,多くの施設にて広く医療用レーザー機器が使用されるようになってきた.一方,医療用レーザー機器の保守管理やレーザー安全をあまり問題にしてこなかったため,レーザー安全に関しての事故報告がなされるようになってきている.本稿では,我々のレーザー安全に対しての44年間の取り組みについて紹介し,皮膚科・形成外科領域におけるレーザー安全に対しての提言を行う.

Translated Abstract

In the field of dermatology and plastic surgery, laser equipment have been more sophisticated and compact since the 1990s, and many types of medical laser equipment have become to be available. In addition, the number of manufacturers dealing with medical laser equipment has increased, making it easy to use medical laser equipment in many facilities. On the other hand, since the maintenance of medical laser equipment and the laser safety measures have not been so problematic, various accident reports concerning about the medical laser safety have been reported. In this manuscript, we introduce our 44-years’ efforts toward laser safety, and make a practical proposal on laser safety in our fields.

1.  はじめに

当院は1975年に現理事長の大城俊夫が開設した.開設当初は医療用レーザー機器などがなかったため,工業用レーザー(KORAD社ルビーレーザーシステム)を個人輸入し,医療用に改良し,動物実験の後に臨床応用したのが始まりである.初期の医療用レーザー機器は機器が大きく,非常にメンテナンスが難しい精密機器であり,機器を設置する部屋の温度や湿度などの環境によりレーザー発振の精度が左右されたり,振動などで簡単に導光路がずれレンズが損傷したりするといった様々な問題があったが,機器のメンテナンスや保守点検ができる業者もおらず,またレーザー安全に関する基準も明確化されていなかった.そのため,レーザー機器開発,メンテナンスおよび保守点検を行うための研究所(現日本医用レーザー研究所)を併設し,自社にて医療用レーザー機器を開発・メンテナンスを行う体制を敷き保有するレーザー機器すべてについて点検などを行い,また院内のレーザー安全についても自社で基準を設けてきた.その後,公官庁からの各種通達や国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission: IEC)や日本工業規格(JIS規格)などでレーザー機器に関する安全基準が明文化されてきたため1-3),時代に応じた安全基準に適応できるように対応してきた.

皮膚科・形成外科領域では,1990年代以降にレーザー機器の高性能化・小型化が進み,扱うレーザー機器の種類も多くなった.また医療用レーザー機器を扱う製造販売業者も増え,多くの施設で安易に医療用レーザー機器を使用できるようになってきた.一方で医療用レーザー機器のメンテナンスや保守点検,またレーザー安全対策などがあまり問題にされてこなかったため,医療用レーザー機器の様々な事故報告が上がるようになってきている.

本稿では,そのような社会背景を鑑み,我々の行ってきているレーザー安全に対する取り組みについて紹介し,レーザー安全の重要性について,臨床面からの啓発を行う.

2.  皮膚科・形成外科領域のレーザー治療の特殊性

皮膚科・形成外科領域は,医療用レーザー機器を用いた治療が多種多様化している.対象疾患としては母斑や血管腫・血管奇形から加齢性皮膚病変(いわゆるシミ・シワ・タルミなど),医療レーザー脱毛,痩身治療などが挙げられ,それぞれの疾患で使用できるレーザー機器も国内メーカー,海外メーカーなど選択肢が多い.また,一つのレーザー機器だけではすべての治療を網羅できないため,少なくとも2~3種類のレーザー機器を保有しながら治療することが多い.

他の診療科においては,レーザー治療の疾患特異性があるため,多くても1~2機種を使用するのみと考えられ,皮膚科・形成外科領域の治療機器の多種多様性が際立っている.

当院では,いままで30種106台のレーザー機器を導入(2018年12月現在)してきており,それらの機器に対してのレーザー安全に取り組んできた.

3.  当院のレーザー安全への取り組み

当院の主な取り組みとしては,①レーザー機器の設置環境の整備,②レーザー機器の整備点検,③スタッフ教育の3点がある.それぞれを順に概説する.

①レーザー機器の設置環境の整備

皮膚科・形成外科で用いるレーザー機器の多くはJIS規格におけるクラス4になるため,クラスに応じた安全予防対策を講じる必要がある.

レーザー治療室におけるレーザー機器の設置に関しては,高圧電源を必要とする機器も多いことから,200 V電源および100 V電源を1治療室あたりに複数整備するようにしており,各レーザー機器が稼働した際に十分な放熱が可能になるように室内で配置について配慮している.

レーザー治療室はレーザー管理区域を室内外でわかるように掲示し,その上でスタッフおよび患者がレーザー管理区域内で守っていただきたいことを平易な文章で掲示し,患者を含めた入室者全員にレーザー安全につき注意喚起できるよう工夫している(Fig.1).

Fig.1 

Display of “Controlled Laser Area” and “Note to Patients”.

またレーザー治療室内から施錠可能な構造を採用しており,患者が入室した際には治療が開始される前に室内から施錠し,レーザー治療中に外部からの不用意な侵入者を防ぐようなシステムにしている.

各治療室内には波長の異なるレーザー機器を4~6台配備してあるため,各部屋において必要な保護めがねを治療者,治療介助者,患者および患者付き添い者用に3~4個準備している(Fig.2).治療時に使用する医療器具としては,遮光コンタクト(成人用および小児用,すべて滅菌処理),反射防止コーティングした手術器具を常備し,いつでも使用できる体制を取っている(Fig.3).

Fig.2 

Preparation of appropriate protective eyewear.

In the laser treatment room, some kinds of laser equipment are set up, and the appropriate protective eyewear should be provided for the doctor, assistant staff, patient and patient attendant.

Fig.3 

Various type of eyeball protection instruments and surgical instruments with antireflective coatings should be prepared in the case of irradiation surrounding of eye.

②レーザー機器の整備点検

開設以来レーザー機器を整備してきた経験から,レーザー機器は高度な電子工学技術の結晶であるが,エネルギー効率の良い機器ではなく,また設置環境などによって機器の性能(出力やビームパターンなど)が大きく変化することが判っていたため,当院ではレーザー機器の整備点検に注力してきている.

当院の取り組みとして,以下の4点を特に重要視している.設置環境のモニタリングおよびコントロール,レーザー機器のビームパターンやプロファイルのチェック,パワーチェック,パワーメーターのキャリブレーション(年1回)である.

以前は室内温度や湿度により電子回路の動作不良やレーザー機器筐体内の結露などを認め,レーザー発振ができなくなったり,十分な出力が出ないレーザー機器があった.そのため,設置環境のモニタリングとして,治療室内の温度,湿度をモニタリングすると共に,空調環境などを整備し温度,湿度を一定に保つような設置環境を整えている.このように設置環境を整えることで,平時に通常稼働することはもちろんのこと,長時間連続照射するような場合でも機器が安定稼働する体制を敷くようにしている.

レーザー機器は不具合が生じることにより,機器性能(ビームの質や出力など)が変化する.臨床上重要なのは,安全で再現性のある治療である.そのために重要になるのが,レーザー機器の日々のチェックである.当院ではレーザー技師(レーザー機器の保守点検などを専門に行う者)がその業務を担当し,毎日感熱紙やアクリル板を用いてビームパターンやプロファイルをチェックし,機器の安定性に応じてパワーメーターによる照射出力のチェックを定期的に行い,機器性能を一定に保つようにしている(Fig.4).新機種を導入時は毎日,機器が安定してきたと判断した場合には週2回,週1回と徐々にチェックの間隔を空けるようにしている.また,使用するパワーメーターもレーザーの波長や発振形式(パルス発振/連続発振),最大出力によって異なるため,対応するパワーメーターを用いて計測することが重要であり,また使用するパワーメーターに関しても年1回計測メーカーによるキャリブレーションを受けている.

Fig.4 

Scheduled check of the laser beam burned pattern, beam profile and radiant exposure of medical laser equipment.

レーザー機器はJIS規格における製造上の照射出力は表示±20%が許容範囲とされているが,現在の治療機器は各社にて±10%前後の許容範囲でキャリブレーションが行なわれるように設定されており,この範囲の出力が得られない場合にはエラーが表示され,レーザー発振ができなくなるようになっている.しかし,臨床上は表示出力よりも高い出力での照射は危険であるため4,5),当院では0~−10%を臨床的安全域と定義して,日々のチェックにてこの範囲に入っているかを確認している(Fig.5).

Fig.5 

Clinical tolerance of radiant exposure emitted by medical laser devices.

設置環境の整備およびレーザー機器のビームチェックやパワーチェックを確実に行うために日常点検簿を整備してきた(Fig.6).

Fig.6 

Daily check list of medical laser equipment (Q-switched ruby laser).

③スタッフ教育

レーザー安全という観点からは,レーザー治療に従事するスタッフがレーザーに関する知識と技術,また安全対策を修得していれば良いと思われるが,当院はレーザー治療を主として行っているクリニックであり,組織全体として安全対策を考えていく上では,事務系職員,診療系職員であってもレーザー安全について理解する必要があるという理念のもと,全職員に対してレーザー安全教育を行ってきている.

新入職者の場合,入職3ヶ月時までにレーザー治療の概要およびレーザー安全の講義を行っている.また医師,看護師,レーザー技師は,日本レーザー医学会に入会し,安全講習会を受講の上,資格取得することを奨励している.

実臨床では,治療室内でのレーザー安全の実際に関する講習会を定期的に行っている.特に当院では小児のレーザー治療が多いため,迅速,正確かつ安全な治療が要求される.そのため医師,看護師,レーザー技師がチームとして機能できるよう,各々の役割を明確化した上で,治療台とレーザー機器との位置関係,患者固定,遮光手技(保護めがねの使用や遮光コンタクトの使用など),レーザー機器設定,治療時の粉塵処理,ガーゼ保護方法など患者入室時から退室時までの詳細なシュミレーション講習を行っている.

4.  皮膚科・形成外科におけるレーザー安全に対しての提言

今回紹介した当院におけるレーザー安全の取り組みは,当院が開設以来行ってきているものである.1975年にレーザー治療専門クリニックとして開設したため,病院設計の段階から考えられる安全対策を講じることができ,設置環境に対する整備を行うことが可能であった.また当初は1台のレーザー機器から始まったが,レーザー機器の種類が増える毎に機器ごとの整備点検の指針を作成し,日常点検を徹底してきている.長年の整備点検経験や診療経験から各レーザー機器の特性を知ることができ,その中でスタッフ教育の重要性を認識してきたことで,正確かつ安全な診療を行う体制を継続して行うことができている.幸いにも当院では開設後44年間においてレーザーによる医療事故は起こっていない.

一方,現在の皮膚科・形成外科領域では,レーザー機器は高性能化してきており,1台のレーザー機器でも多機能かつ複雑な治療機器になっている.皮膚科・形成外科の日常診療の中で,レーザー治療を取り入れようとした場合,多機能化かつ多用途化するレーザー機器に対して使用者側の十分な理解と治療技術の修得が必要となってくるため,機器導入に注力するあまり,重要でかつ基本であるレーザー安全がないがしろになってしまうことが少なくないと思われる.昨今,レーザー施術者(特に看護師)の眼障害や引火事故などが報告されるようになってきており,レーザー安全の重要性が改めてクローズアップされてきている.

製造販売業者側も使用者側(機器の購入者側)への安全予防対策の告知や指導も十分ではなく,レーザー安全に対しての意識低下の問題を助長している.製造販売業者からの安全予防対策の通達に頼ることなく,レーザー機器を実際に使用する我々が患者の安全,スタッフの安全を守るために何をすべきかを改めて再考すると共に,各種法令や通達で定められているレーザー機器の使用に対して使用者側がやらなくてはならない安全予防対策を再確認の上,対策を講じていくことが重要であろう.

おわりに

当院のレーザー安全に対する取り組みを紹介した.皮膚科・形成外科領域ではレーザー治療はなくてはならない治療手段になっている.多機能化かつ多用途化する高性能なレーザー機器使用の際には,レーザー機器の導入段階からのレーザー安全に対する配慮を行うと共に,レーザー機器の使用者が行うべき安全予防対策を励行するように学会などを通じて啓蒙していくことが重要であろう.

利益相反の開示

利益相反なし.

参考文献
 
© 2019 特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
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