2020 年 41 巻 1 号 p. 44-46
現在の皮膚科形成外科領域のレーザー治療における未承認機器の占める割合は少なくない.デバイスラグが問題の一つであるが,中にはFDAでの許認可のみならず,CEマークさえ取得していない機器が臨床研究を経ることなく使用されている現状がある.医学的に正しい機器が早期に承認されることは望ましいことであるが,本邦のように,科学的根拠の乏しい機器でも医師の裁量権で使用可能となっている現状に問題がないとは言い切れない.医師の倫理観のみでなく,美容領域のガイドラインの作成,合併症や事故情報の集積等学会ができることを粛々と進める必要がある.
There is a significant proportion of unapproved laser and energy-based devices being used by dermatologists and plastic surgeons in Japan. The government’s approval process in very slow, which is problematic. Also, lasers and energy-based devices are used without clinical research. More research on these devices in needed as well as more academic conferences to help establish treatment guidelines monitor the incidence of complications.
わが国における美容医療は,1世紀を超える歴史があり,数多くの先進的医療が行われてきたが,重大な有害事象も発生している.美容医療に関する課題として,①未承認医薬品,医療機器が使用されていることや,②有効性や合併症等の実態把握に関する信頼性の高い調査が行われていない,③美容医療の質を保ちつつ合併症を回避するガイドラインがないことがあげられる.皮膚科・形成外科領域のレーザー治療は,承認品のみならず,未承認機器が多く含まれる.国公立病院では,主に保険治療であり,医療承認がとれていない未承認機器を使用することはほとんどなく,保険収載された機器を保険で使用する場合が大多数である.一方,クリニックでは,承認,未承認にかかわらず使用されている.本稿では,未承認機器を使用する臨床医の立場として,現場の状況及び問題点を中心に述べる.
臨床研究法については,平成29年4月14日に公布され1),厚生労働省は,平成30年2月28日付けで,医政局長から各都道府県衛生主管部(局)長等宛に「臨床研究法の施行に伴う政省令の制定について」を通知した.また,平成30年3月2日付けで,研究開発振興課長名で,「臨床研究に用いる医薬品等の品質の確保のために必要な措置について」及び「臨床研究法における臨床研究の利益相反管理について」を通知した.今般,臨床研究法施行にあたって,関係の政令,臨床研究法施行規則等が公布され,臨床研究法と併せて,平成30年4月1日から施行されている.
臨床研究の基本理念として実施しなければならないこととして,①社会的及び学術的意義を有する臨床研究を実施すること,②臨床研究の分野の特性に応じた科学的合理性を確保すること,③臨床研究により得られる利益及び臨床研究の対象者への負担その他の不利益を比較考量すること,④独立した公正な立場における審査意見業務を行う認定臨床研究審査委員会の審査を受けていること,⑤臨床研究の対象者への事前の十分な説明を行うとともに,自由な意思に基づく同意を得ること,⑥社会的に特別な配慮を必要とする者について,必要かつ適切な措置を講ずること,⑦臨床研究に利用する個人情報を適正に管理すること,⑧臨床研究の質及び透明性を確保することとある.つまり,臨床研究を行うにあたり,臨床研究に直接関わる研究者から独立した第三者による審査委員会の審査が必要となる(Fig.1).認定臨床研究審査委員会は,大学病院を中心として全国に存在しているため,審査申請は可能である.しかし,未承認機器においてはその臨床研究は,特定臨床研究対応となり,特定臨床研究審査委員会を有する施設での審査となり,現時点では,審査対応外の大学も多い.未承認機器の臨床研究は,以前に比べて審査が厳しくなっている状況であるので,承認機器が増えていくことは,研究がより進めやすくなっている.
Flow chart of clinical research
本邦における皮膚科・形成外科領域の未承認機器を大きく3つに分類できる.①機器そのものは承認を受けていないが,仕様が見かけ上,承認を受けている機器と同様のもの,②仕様が本邦で承認を受けていないが,アメリカ食品医薬品局の承認を受けているもの,③仕様が本邦で承認を受けておらず,アメリカ食品医薬品局の承認も受けていないもの.保険外使用であれば,①~③何れの使用も本邦においては可能である.医薬品医療機器等法は,保健衛生の向上を図ることを目的とする法律であり,この目的を達成するため,医療機器は,その製造販売あるいは製造を行うためには承認を受けなければならないが,医薬品医療機器等法第23条の2の5第1項による製造販売の承認がされていなくても,臨床上,有効性と安全性が確認されているものもあり,未承認だからといって,医療行為が不適切とされるものではない.最も問題となるのは,③の中で臨床においては安全性と有効性が確認されていないものである.安全性と有効性がほとんどわかっていない医療機器の初期段階で,南米や東欧からの臨床報告が散見されるが,本邦においても,過去の美容医療関連の学会抄録集に掲載があり,倫理的にも問題点がある.安全性と有効性がわかっていない医療機器は,有効性と安全性において実臨床の前にまずは,実験や研究レベルの確認を優先すべきである.
承認申請に必要な経費の面から,業者が承認申請を最初から考えていないケースも少なくない.通知発出の前には,承認申請をまったく考えていなかった業者が,通知発出後に必要経費が許容範囲となったことから承認の申請をすすめたところもあり,通知発出の効果はあったと判断できる.しかし,必要経費が許容範囲内でない場合や,業者内に申請を担当する部署すらない場合は,通知発出後でもやはり承認申請には積極的でないのが現状である.
現在,日本形成外科学会,日本皮膚科学会,日本美容外科学会(JSAPS及びJSAS),日本皮膚科学会,日本美容医療協会が合同で,美容医療関連の合併症の実態調査を検討中である.その中で,未承認機器の実態調査も喫緊の課題であるが,全ての機器を対象とするのは,現状の法整備では極めて困難である.令和元年度功労科研特別研究として,ガイドライン作成をする予定であるが,国内未承認であってもFDAで承認された機器であれば,文献検索が容易であるが,国内未承認でFDAでも承認されていない機器では,データが全くない場合も少なくない.新しい医療機器を導入するにあたって,適応や合併症,導入に当たっての留意事項,実施施設基準等は検討されてはいるが,実施する医師の基準の検討が十分であるかが問題である(Table 1).最近の承認においては,レーザー医療安全に対する講習が推奨されているが,組織的かつ系統的な医療機器別の実践的な講習は,十分とはいえない.保健適応外の美容領域も含め,医療機器の開発と承認には,産官学の連携が必要不可欠である(Table 2).
1.適応 |
2.即時的合併症の予防と対応 |
3.中長期の合併症の予防 |
4.医師・看護師の質管理(知識・技術) |
5.レーザー機器の質管理(未承認薬剤,機器も含む) |
1.質確保のための学会横断的統一基準の確立 |
2.消費者のリテラシー向上 |
3.合併症に関する全国管理体制の確立 |
4.医療安全と技術習得 |
医学的に正しい機器が早期に承認されることは望ましいことであるが,本邦のように,科学的根拠の乏しい機器でも医師の裁量権で使用可能となっている現状に問題がないとは言い切れない.承認を推し進めるための整備だけでなく,未承認機器のあり方(承認申請されない機器も含め)についてもさらなる議論が必要である.
有効かつ安全なレーザー機器を早期に本邦の医療施設に届けるために,産官学の協力のもと様々な取り組みがなされているが,経済的な面から業者が承認申請を出さないという問題や臨床研究が不十分で承認申請されないレーザー機器に対する実態調査等,今後も対応を検討していかなくてはならない.
利益相反なし.