日本レーザー医学会誌
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総説
小児を対象とした毛細血管奇形(単純性血管腫)に対する色素レーザー治療
野村 正 大﨑 健夫大澤 沙由理武田 玲伊子長谷川 泰子榊原 俊介橋川 和信寺師 浩人
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2021 年 42 巻 1 号 p. 18-22

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Abstract

毛細血管奇形(単純性血管腫)に対する色素レーザー治療が普及し約30年が経過した.現在,本邦ではパルス幅可変式ロングパルス色素レーザーによる治療が第一選択であり,近年では紫斑形成が少ない機器も販売されている.小児では治療早期の照射が推奨される傾向があるが,長期には依然再発の問題がある.色素レーザーの治療効果を高める薬剤や治療法の開発が待たれるところである.

Translated Abstract

About 3 decades have passed since the pulsed-dye laser for the treatment of capillary malformation (port-wine stain) has spread. At present, the long-pulsed pulse dye laser has become the first-choice treatment in Japan. Devices with less purpura formation have been available in recent years. Early irradiation for infants tends to be recommended, but redarkening is still a serious problem. The development of the adjunctive drug or therapy which raise the effect of the dye laser is expected

1.  はじめに

毛細血管奇形(capillary malformation: CM)は先天性の脈管形成異常の一つに分類され,その本態は皮膚や粘膜の毛細血管のネットワークにおける低流速性で活動性のない血管拡張性の病変である.小児の0.3%程度で発生し1),臨床的には体表の平坦な「赤いあざ」として現れ,主に整容面で治療対象となる.出生時より存在し,小児期には鮮紅色やピンク色を呈することが多い.前額部や眉間(サーモンパッチ),眼瞼病変や項部(ウンナ母斑)などの一部の病変を除いて自然消退することは無く,経年的に身体の成長に比例して面積が拡大する.成人期には暗赤色となって組織が肥大したり,結節状に腫瘤を形成したりすることもある.本論文では小児を対象としたCMに対するレーザー治療について主に文献的な考察を含めて報告する.なお,本邦では「単純性血管腫」や「ポートワイン血管腫」,英文では「port-wine stain」との表現が使用されているが,本稿では脈管性病変の代表的な分類であるISSVA(International Society for the Study of Vascular Anomaly)分類2)に準じて,毛細血管奇形(CM)と表現する.

2.  CMに対するレーザー治療の変遷

CMに対するレーザー治療として1968年にSolomonとGoldmanらがアルゴンレーザー(488, 514 nm)の有用性を初めて報告した3).一方,アルゴンレーザーの周辺組織への熱損傷による肥厚性瘢痕,色素沈着や脱色素斑の合併症が指摘された4,5).1980年代に入り,ローダミン色素を用いた577 nmが採用されたが,真皮内のより深い病変を標的として組織進達性の高い585 nm前後の波長と0.45 msec前後の短いパルス幅のパルス色素レーザー(以下PDL)が開発され,本邦では保険適用となり広く普及することとなった.PDLによる治療の原理は,血管内赤血球の酸素化ヘモグロビンにレーザーの光エネルギーが吸収されて熱エネルギーに変換され,これが隣接する血管壁に伝導され,血管内皮細胞が破壊されることで血管が破壊されることにある6).585 nmのPDL開発後,より深達度の高い波長や照射出力さらに血管径の大きな病変血管を破壊するためにより長いパルス幅の必要性が唱えられ,波長595 nm,パルス幅可変式色素レーザー装置が開発されるに至った.レーザー機器としてはVbeam®(シネロン・キャンデラ社)などがこれに該当する.Vbeam®で採用されているのは工業的な真のロングパルスでなく疑似ロングパルスである6).これはサブパルスという短いパルス光を繰り返し照射することで標的への熱の蓄積をおこして,見かけ上でパルス幅を長くしたものと同様の効果を与えようとするものとされ,Vbeam®の場合,最大サブパルス数は4である.これと並行するように表皮損傷を軽減する目的で皮膚冷却装置の開発も進み,Vbeam®には冷却ガスを用いるdynamic cooling deviceが採用されている.その後継機であるVbeam II®(シネロン・キャンデラ社)は最大サブパルス数が8となった.Vbeam®は照射時に紫斑形成が一つの指標とされていた7)が,Vbeam II®では紫斑形成が少ないことや最大照射出力が従来機器より高いことが特長とされる.本邦で利用可能なPDLとしてVbeam II®以外に,Cynergy J®(サイノシュアー社)があり,これには冷風による皮膚冷却装置が採用されている.

3.  小児におけるCMに対するレーザー治療

3.1  治療開始時期

CMに対するPDLの有効性についてはこれまで国内外問わず数多くの報告があり,現在では治療のスタンダードとなっている8).乳幼児であるほど皮膚が薄く,レーザーの深達が良いことやレーザー照射後の治癒が早いこと,色素沈着が少ないことなどから後述の通り近年は早期治療を支持する意見が比較的多い.Chapasらは,月齢6カ月未満のCM症例に対してPDL治療を行い,平均88.6%のクリアランスが得られたとし,早期治療を推奨した9).Jeonらは平均月齢3.38ヶ月のCM197症例に対して,無麻酔でPDL照射を行い,25.9%の症例で100%クリアランス,41.1%の症例で76~99%の改善が得られたとの高い治療効果を報告している10).本邦では小栗らがCMに対するPDL開始時期を0歳代群,1歳代群,2歳代群に分けて有効率を検討し,それぞれ85,74%,68%で,年齢とともに有意に有効率が低下すると報告し11),さらに0歳代群の検討においても治療開始月年齢が早いほど有効率が高い傾向にあったと報告している.当科でも乳幼児は照射面積が小さく治療効率が良いことも考慮し,積極的に0歳代からの照射を行い,良好な改善が得られている(Fig.1).

Fig.1 

A three-month-old boy with capillary malformation on his left face (a). Twice PDL treatment under general anesthesia were performed by 1.5 years. The improvement can be seen at the age of 2 (b).

3.2  麻酔方法について

無麻酔,局所麻酔下や全身麻酔下での照射が選択肢となる12)が,年齢,部位や照射面積さらには施設によって提供可能な医療やリスクベネフィットを総合的に判断して個別に判断することになる.局所麻酔はリドカイン・プロピトカイン配合のエムラクリーム®(佐藤製薬)やリドカインテープ剤のペンレス®(マルホ株式会社)が本邦の保険医療下で使用可能である.エムラクリーム®は塗布後に赤色斑が薄くなり,塗布前に境界部をマーキングするなどの対応が必要である13).塗布後の色調低下によるPDLの治療効果の低下はないとの報告8)がある.

一方,年齢を重ねるに従い体動や啼泣は激しくなり,標的部位以外への誤照射のリスクが高まるだけでなく患児の精神的な負担も懸念されるため,小範囲の照射以外は全身麻酔下のレーザー照射を検討することになる.CMに対する全身麻酔については麻酔導入後の血圧低下とともに赤色斑が薄くなるため,治療効果が低くなるとの指摘もある14).われわれもそのような印象を持っていたが,王丸らは小児顔面のCM対して,皮膚三次元的多角解析装置によるヘモグロビン濃度の定量的測定で,色調改善率は全身麻酔群の方が無麻酔群よりも有意に高かったという興味深い結果を報告した15).その理由の一つとして,全身麻酔による血圧低下と血流低下に伴うヘモグロビン移動量の低下によって,より効果的に血管壁を熱損傷できる可能性について言及している.今後更なる検討が待たれる.

全身麻酔について,近年米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)は3歳未満の乳幼児の全身麻酔や鎮静薬の複数回または長時間の使用では,小児の脳の発達に影響する可能性があると警告している16).計画性のない頻回の全身麻酔は厳に慎むべきであるが,広範囲のCMなど一部の症例において全身麻酔はレーザー照射に伴う痛みやストレス回避のために必要不欠なものであり,必要であれば全身麻酔下のレーザー照射を遅らせるべきではないと考えている.

3.3  再発ならびに長期経過について

PDL照射後に一定の効果がみられても,再発の可能性がある.再発率については,治療後5年で50%17),7年で19%18),9.5年で35%19)の報告があり,ばらつきがみられる.このことから,Huikeshovenらは経過観察期間と再発には関連を見出すことはできず,再発の原因は患者の個人的な特徴が主な理由と推察している19).再発の原因については,レーザー照射後の血管新生を指摘する報告20)があるが,今なお不明な点も多い.CMに対するPDL治療では病的血管を根絶させる真のクリアランスは得られず,他の血管奇形と同様,残存病変が経時的に増殖することは容易に想像できる.また,CM症例の20%に肥大もしくは結節があるとされ21),その多くは幼少期に平坦であるものの,青年期や中年期に肥大することからも自然経過として病的血管の増殖は避けられない.われわれも肥大CMに対する拡大切除後の赤色斑再発症例を複数経験している(Fig.2).再発しやすい症例の特徴については今後の検討課題である.いずれにせよ長期経過での再発の可能性については治療前に説明すべきである.

Fig.2 

Fifty two-old-year man with hypertrophic capillary malformation on his left scalp and external ear (a). Ablative resection and skin grafting was performed (b). The recurrence can be seen 2 years after the operation (c).

3.4  小児CMに対するPDL治療の実際

われわれが普段の診療で使用しているVbeam II®はパルス幅可変式であり,0.45,1.5,3,6,10,20,30,40 msecの8種類が選択可能である.パルス幅を短くすればピークパワーが上昇し,治療効果が高まるが,表皮損傷の可能性も高まる.一方,パルス幅を長くするとより口径の太い血管に有効であるが,ピークパワーに限界が生じる.パルス幅に関して,10 msec以上の長パルスはCMに対して治療効果が乏しい印象があるため,0.45,1.5,3 msecのパルス幅を用いることが多い.小児では成人に比べて皮膚が菲薄であり治療効果を高めること以外に表皮損傷と引き続いて生じる瘢痕形成をできる限り回避することが重要である.以前用いていたVbeam®との相違点として,必ずしも紫斑を照射時のエンドポイントとしなくても一定の治療効果が得られる印象がある.スポットサイズについて,われわれの施設では照射効率も考慮して,原則10 mmを用いている.パラメーターとして,パルス幅は3 msec,照射出力は8 J/cm2程度から始めている.治療効果を確認しながら照射出力上げる,もしくはパルス幅短くして段階的に設定を変更している.照射後は5分程度患部の冷却を行い,照射部位は1週間程度ステロイド軟膏を塗布している.小児では照射後に掻痒に対して自己掻破することでより表皮損傷が悪化することもあるため,患部を掻かないよう両親に管理を依頼している.

3.5  CMに対するPDL治療の位置づけと今後の展望

CMに対するPDL治療は一部の症例では治療抵抗性であることからあくまで症状緩和の治療法の一つであるが,長期経過においても治療に対する患者の満足度は高く19),合併症が少ないことからも現状では治療の第一選択であることは明白である.一方で,過去30年間のCMに対するPDL治療に関する過去65論文の検討では,症例の21%が75~100%のクリアランスを達成したものの平均クリアランスについては年代を経るごとに上昇傾向はみられなかったとの報告22)もあり,PDL以降目立った革新的治療が出現していないことも事実である.先述の再発について,これまでの報告の多くは585 nmの機器であり,現在本邦で普及している波長595 nm PDLの長期経過さらにPDLの病変肥大予防効果についても今後の検討が待たれる.

また,PDLの治療効果を高める試みとして血管新生抑制を目的としたrapamycinなどの薬物併用療法23-25)さらには人工赤血球を併用する治療の研究26)もなされている.また,他の血管奇形ではすでに遺伝子変異に注目した薬物療法の有効性が注目されているが,Sturge-Weber症候群の原因遺伝子として知られるGNAQ遺伝子変異がCMでもみられるとの報告27)もある.この分野での進歩が今後のブレイクスルーになり得る可能性がある.

4.  結語

小児のCMに対するレーザー治療のうちPDLは本邦において既に定着している.短期的には乳幼児期早期での照射で良い結果が得られる傾向にあるため,早期照射を行うことが望ましい.一方で,再発を含む長期経過については依然不明確な点もある.今後のさらなる研究が期待される.

利益相反の開示

開示すべき利益相反なし.

引用文献
 
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