日本レーザー医学会誌
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原著
小児の皮膚レーザー治療におけるディスポーザブル貼付型眼球保護具の使用経験
安武 いずみ 渡辺 あずさ山住 彩織竹中 由衣余川 陽子沢辺 優木子玉城 善史郎渡邊 彰二
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2023 年 43 巻 4 号 p. 209-212

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Abstract

皮膚レーザー治療において眼球保護具の装着は必須だが,小児の治療では安静が得られずその固定は困難である.貼付型眼球保護具(METRASアイパッチ,メトラス社)は,眼球周囲に密着するため,小児患者の眼球保護に有用と思われるが,過去同製品の小児における使用報告はなく,検討を行った.有効な回答が得られた貼付群109例,非貼付群59例のうち,貼付群の4例で発赤や発疹の訴えがあった.発生率に両群間で有意差はなく,いずれも軽症であった.貼付型眼球保護具は皮膚が脆弱な小児にも安全に使用でき,またディスポーザブルで消毒作業の負担が軽減され,診療効率の向上にも寄与すると思われる.

Translated Abstract

When performing procedures that employ lasers, eye protection must be adequate to prevent accident. Maintaining protective equipment can be particularly difficult for active pediatric patients. Adhesive eye shields (METRAS Eye Patch/METRAS Inc.) may be useful in this population as they offer more stability while adhering to the periorbital area. However, there have been no reports about their safety in pediatric patients. We conducted a written survey to 186 patients who received laser treatment, 168 of whom responded. Adhesive eye shields were used in 109 patients (intervention group), but not in the remaining 59 patients (control group). Four patients in the intervention group reported symptoms, such as redness and rash on the application site, which spontaneously resolved. The incidence of adverse effects was not significantly different between the two groups (p = 0.299, Fisher’s exact test). Therefore, adhesive eyes shields cause little skin irritation in pediatric patients.

1.  はじめに

レーザーは特殊波長の光線を用いており,眼球に照射された場合,角膜・網膜損傷の危険がある.医療用レーザーは,ほとんどがレーザー製品の安全基準(JIS C6802)上,クラス3Bまたはクラス4の製品である.これらの高出力レーザー機器において,目へのビーム内露光は短時間であっても危険である.そのため,患者及び同室にいる医療者全員が専用のゴーグルやプロテクターなどの保護具を着用し,眼球保護を行う必要がある1)

患者用保護具は,ゴーグルやアイプロテクタなどが広く使用される.小児,特に年少児は治療中の安静指示に従うことができないため,保護具の固定に際し医療者の介助を要する.近年自由診療クリニックなどにおいて使用実績がある貼付型眼球保護具(Fig.1)は,粘着性のジェル面で眼球周囲に密着するため,固定が困難な小児患者の眼球保護に適していると思われる.また,ディスポーザブルのため感染予防に効果的で,通常使用の都度実施される滅菌作業を省略でき,医療者の負担軽減にも寄与することが期待される.しかし,現在までに小児への使用経験を報告したデータは存在しない.そのため我々は小児患者における貼付型眼球保護具の安全性について検討を行った.

Fig.1 

Disposable adhesive eye shield (METRAS eyepatch).

Left: External surface does not reflect laser beams.

Right: Internal gel surface tightly adhere to the patient’s orbital area.

2.  目的

小児患者への外来皮膚レーザー治療において,貼付型眼球保護具の貼付部皮膚に対する影響を評価し,安全性を検討することを目的とした.

3.  対象と方法

2020年10月から2021年6月までの期間に,当院形成外科及び皮膚科の外来で貼付型眼球保護具を使用してレーザー治療を行った患者を対象とした.レーザー機器はQスイッチルビーレーザー(IB101,エムエムアンドニーク社)あるいは色素レーザー(Vbeam®,シネロン・キャンデラ社)を,貼付型眼球保護具はメトラス社メトラスアイパッチ(一般医療機器アイパッド,医療機器届出番号:13B1X10327000002)を使用した.

今回使用したメトラスアイパッチは,約6 × 4 cm大の薄いシート構造の製品で,ヒト安全性試験による安全性が確認されたシリコーンオイルジェルと精製水を混合したジェルシートによって眼瞼に接着する.眼瞼接着層以外の3層はクッション材層,アルミ箔層と反射を抑えたつや消し加工ポリプロピレン層の4層で構成され,これにより眼球を外光等から保護できる構造となっている.波長308 nmから1,100 nmまでの紫外領域,可視領域および波長2,500 nmから25,000 nmまでの赤外領域において全領域で完全な遮光が得られることが遮光性測定試験で確認された製品である.

施術中は,貼付型保護具が適切に貼付されていることを施術者以外の診療スタッフが常時確認した.保護具による皮膚刺激性の有無は,使用直後と1週間後の外来再診時に形成外科医もしくは皮膚科医が診察して確認し,記録を行った.また,レーザー終了後に患者家族に紙面によるアンケート調査を行った.アンケートはレーザー照射後から帰宅まで,帰宅後から1週後の再診日までの2つの期間にそれぞれ,患児の両眼周囲に「赤み(発赤)」「ぶつぶつ(発疹)」「水ぶくれ(水疱)」「皮むけ(びらん)」が出現したかどうかを保護者にチェックリスト形式で問う形式で実施した.症状が出現した場合はその発現時期および改善までの期間を所定の欄に記載してもらった.貼付に同意しなかった患者を対照群として設定し,従来通りシールドタイプの眼球保護具を使用し治療を行った.患者の年齢,性別,疾患,ならびに照射部位に関する情報は診療録より収集した.記録に不備があった症例は除外した.

研究は院内倫理委員会の承認を得た上で計画書に則り実施された.患者への治療介入前に保護者に対して研究内容についてインフォームドコンセントを行い,同意が得られた患者のみを研究対象とした.その中でアイパッチ使用に同意を得られた患者を介入群,その他の患者を対照群として設定した.

4.  結果

期間中にレーザー治療を受けた患者は186例(貼付型眼球保護具使用群127例,対照群59例)で,貼付型眼球保護具を使用した患者のうち18名がアンケートの不備により除外された.除外された患者において,診療録上皮膚症状の発生は認めなかった.最終的に,貼付型眼球保護具使用群(以下,使用群)109例112部位(男児29例/女児80例,年齢2か月~15歳9か月),対照群59例64部位(同15例/44例,3か月~16歳3か月)の計168例176部位を研究対象とした(Table 1).照射部位は,顔面や四肢の露出部が大半を占めた(Table 2).治療した疾患の内訳はTable 3に示す.両者の年齢,男女比,各疾患の割合について検討したところ,対照群において年齢が有意に高かった他には有意差を認めなかった.(Mann-Whitney U検定p < 0.01)

Table 1  Patient Characteristics.
使用群 対照群
総数(例) 109 59
性別 男(例) 29(27%) 15(25%)
女(例) 80(73%) 44(75%)
年齢* 平均2歳4か月
(2か月~15歳9か月)
平均3歳6か月
(3か月~16歳3か月)

* p < 0.01(Mann-Whitney U test)

Table 2  List of treatment site.
使用群(例) 対照群(例)
顔面 46(49部位) 23(25部位)
上肢 36(36部位) 18(18部位)
下肢 17(17部位) 11(12部位)
胸部 0(0部位) 4(4部位)
背部 5(5部位) 1(3部位)
腹部 5(5部位) 2(2部位)
Table 3  Number of patients and their diseases treated in this study.
使用群(例) 対照群(例)
毛細血管奇形 32 23
乳児血管腫 12 3
異所性蒙古斑 36 18
太田母斑 3 1
扁平母斑 22 10
血管拡張性肉芽種 2 2
その他 2 2

照射後の外来経過観察およびアンケートの結果を集計したところ,4例(3.7%)の患者において,保護者から貼付部位の発赤,発疹など皮膚症状の訴えがみられた.使用群の1例(症例1)では使用直後に貼付部位の発赤,3例(症例2,症例3,症例4)で帰宅後から1週間後の再診までの間に貼付部位の発疹の訴えがあった(Table 4).症例4においては照射から3日後には発疹が消失していたが,照射後7日で再度同様の発疹が出現したと保護者から訴えがあった.照射後7日目の当科外来再診時には,眼窩周囲および口唇周囲に径1 mmの淡紅色丘疹を認めた(Fig.2).問診より,症例4の患児は他のサージカルテープ等でも皮膚炎を生じやすいとのことであった.明らかな接触皮膚炎を疑う所見には乏しく,口唇周囲にも同様の発疹を生じていることより,貼付型眼球保護具使用のみが原因であるとは断定できなかった.いずれの患者も,外用薬等の治療を要さず自然軽快した.対照群の患者に特記すべき訴えは認めなかった.皮膚症状の発生率について,使用群と対照群の間に統計学的有意差は認めなかった.(Fisherの正確確率検定,p = 0.299)また,皮膚症状が発生した患者と発生していない患者の年齢,貼付型眼球保護具の貼付時間について検討したところ,有意差は認めなかった.(Wilcoxon順位和検定,p = 0.738,p = 0.363)

Table 4  List of patients with skin troubles.
年齢
性別
部位 貼付時間 症状(※) 発現時期 継続期間 経過
1 3か月
男児
下肢 7分 発赤 貼付直後 半日間 自然軽快
2 1歳7か月
男児
顔面 0.5分 発赤 帰宅後 3日間 自然軽快
3 1歳7か月
女児
背部 10分 発疹 貼付後5日 3日間 自然軽快
4 5か月
女児
上肢 2分 発疹 帰宅後 3日間
1週後再発
自然軽快

※Symptoms complained by patient’s guardian.

Fig.2 

Clinical presentation of Case 4.

Case 4, 5-month-old girl. Small eczematous eruption occurred on her periorbital area (inside the dotted line).

5.  考察

医療用レーザーはクラス3Bまたはクラス4の高出力レーザー装置がほとんどであり,治療にあたって安全基準に準拠した万全の安全対策が必要である2).レーザー照射による人体への悪影響としては皮膚熱傷や,眼球に誤照射された場合の角膜・網膜障害が代表的であり,時には失明に至ることもある.400 nmから1,400 nmまでの波長の近赤外光域から可視光域の光線は角膜,水晶体を透過し網膜に集光されるため網膜損傷を引き起こすことが知られており,小児の色素性疾患治療に一般的に使用されるレーザーはこの波長域の光を用いている.小児のレーザー治療では,本研究の結果でも示されるように露出部,特に顔面の治療は多く,事故による網膜損傷を起こさないよう適切な眼球保護具の使用が求められる.

患者用の眼球保護具は,角膜保護具と外眼部に装着する保護具に大別される.前者の代表的なものにコンタクトシェルがある.Sturge-Weber症候群の乳児に対して,局所麻酔下にコンタクトシェルを用いて顔面の毛細血管奇形の治療を行った報告3,4)もあり,低月齢児や指示が理解可能な学童期の児であれば,点眼麻酔下に挿入して治療を行うことが可能であるが,幼児では協力が得られず強く閉瞼してしまうため,覚醒下での挿入は極めて困難である.

外眼部に装着する眼球保護具にはゴーグルやアイプロテクタ,シリコンバンド,そして今回用いた貼付型眼球保護具などがある.これらの保護具は確実な遮蔽が得られることが重要であり,患者に適合したサイズを用いて適切な固定を行う必要がある.小児患者においては,体動により保護が不十分となる可能性からいずれも介助者による固定,観察を必要とする.シリコンバンドは小児の顔面へのレーザー照射において,眼部保護と併せて頭部を保持しやすくなる点で有用とされる5).貼付型眼球保護具は眼周囲にゲル面で密着するため,貼付が簡便であることと,サイズ選定が不要であること,体動によるずれが生じづらい点が利点であると考える.

本研究で使用したメトラスアイパッチは308 nmから1,100 nmの紫外領域,可視領域および2,500 nmから25,000 nmの赤外領域の光について,完全な遮光が得られることが遮光性測定試験にて確認されている製品である.時に,レーザー照射時に眼球保護や眼球保護具による不快感軽減を目的に使用する施設がある6).中~遠赤外光は水によく吸収されるため,その波長域の光を使用するCO2レーザー治療においては,適切な保護具と組み合わせた場合に水分を含ませたガーゼ(以下,濡れガーゼ)は適切な眼球保護を提供し得るとされる.しかし,過去の報告では濡れガーゼはあらゆる波長のレーザー光線に対する十分な遮蔽効果が保証されてはいないため,患者の眼球保護に使用することは推奨しないと述べられている6,7).ガーゼを用いた保護は安価で簡便ではあるが,患者の安全を期すためにも遮蔽性能が担保されている製品を使用するのが望ましいと思われる.

本研究において,レーザー光による眼合併症の発生はなく,保護は適切に実施されていたと考える.しかし,貼付型眼球保護具を使用した際,患者が啼泣し眼瞼周囲が濡れている場合や強く顔をしかめてしまった際にはシートの粘着が甘くなり,辺縁が浮いてしまうためサージカルテープの追加や医療スタッフによる用手固定を必要とすることがあった.小児の照射にあたっては患児が用手的に保護具を外してしまうなど,予期せぬ事故も起こりうる.貼付型眼球保護具は粘着面が皮膚から浮いてしまうと遮光性が保たれないため,照射終了まで適切な眼球保護が行われているか診療スタッフが常時注意を払う必要がある.

また,貼付型眼球保護具は眼窩周囲の皮膚に密着して遮光性が発揮される製品であり,太田母斑,毛細血管奇形などの病変の眼瞼部への治療には適応しない.当院においては上下眼瞼に病変のある幼児は全身麻酔下に,従命のとれる児童においては点眼麻酔下にコンタクトシェルを使用して治療を実施している.

角膜保護具と外眼部に装着する眼球保護具のいずれにおいても,リユースの製品はいずれも使用毎に洗浄や滅菌消毒の作業を要し,1日に複数患者に治療を行う場合は複数用意する必要がある.一方で貼付型眼球保護具はディスポーザブルであるため使用毎の滅菌消毒作業が不要となり,滅菌消毒にかかるスタッフの業務削減の効果が期待できる.また,治療の都度新品を使用できるため感染予防の観点から考えても有用である.今回使用したメトラスアイパッチの価格は100枚50回分5,800円(税込み6,380円)であり,1回の治療毎に127円の費用が発生するためリユースの眼球保護具と比較してコスト面でデメリットがある可能性があるが,複数保護具を用意する費用や使用毎の滅菌消毒,物品管理にかかる診療スタッフの業務軽減という観点から考えると決して貼付型眼球保護具は高価ではないと我々は考えている.

小児への貼付型眼球保護具の使用にあたっては,接触皮膚炎の発生など皮膚刺激性が懸念事項であった.本研究において109例中1例で使用直後の発赤を認め,3例で使用後数日以内に発疹を生じており関連を疑われた.しかし対照群と比較して発生に統計学的有意差はなく,いずれも自然軽快する軽度の症状で,治療介入は不要であった.成人に比較して皮膚のバリア機能が弱いため外的刺激に敏感な小児患者においても,貼付型眼球保護具による皮膚刺激性は低く安全であると考えられた.

6.  結語

貼付型眼球保護具は乳幼児への皮膚刺激性は低く,安全に使用可能である.また貼付は簡便で,ディスポーザブルであることから使用毎の滅菌や物品管理にあたるスタッフの業務軽減や感染対策に寄与することも期待できる.

利益相反

本研究における利益相反はない.

引用文献
 
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