日本レーザー医学会誌
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総説
メラニン色素性病変に対するピコ秒レーザーの活用方法
宮田 成章
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2024 年 45 巻 1 号 p. 39-45

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Abstract

発振時間の非常に短いピコ秒レーザーはメラニン色素性疾患の治療に有効である.老人性色素斑では薄い色調に有効で,かつ炎症後色素沈着の発生率が低い.また肝斑に対する治療にも補助的に用いる.さらには顔全体に対して複数の波長を組み合わせた手法も可能である.しかしながら全てにおいて従来のナノ秒発振Qスイッチレーザーより優れているわけではない.

Translated Abstract

Short-pulse picosecond laser is useful for treating various kinds of pigmentation disorder. About removing solar lentigines, picosecond laser is effective to bright colored one, and the rate of post inflammatory hyperpigmentation is low. It’s also effective to melasma as an adjunctive treatment. In addition, full face treatment combined with multiple wavelengths is available. However, we should adequately understand the advantage of conventional nanosecond laser.

1.  はじめに

近年,数百ピコ秒をパルス幅とするピコ秒レーザーが登場し,当初は刺青の治療に有効であることが報告されてきた1).ナノ秒発振レーザーと比較して少ない回数で,多彩な色調に対して,瘢痕を生じにくい治療が可能で2),短いパルス幅と高いピークパワーという特性によって刺青の治療は大きく発展した.

しかし本邦を始めアジアにおいては刺青よりも老人性色素斑をはじめとするメラニン色素性疾患において強い関心が持たれ,現在治療が盛んにおこなわれているが,その優位性に関してはいまだに確立されたものではない.

世界の趨勢としてはピコ秒レーザーでメラニン色素性疾患治療をすることがスタンダードとなってきた.選択的光熱融解理論に基づいた従来のQスイッチレーザーと治療理論には共通点があるが,非常に短いパルス幅による光機械的作用のより大きな関与など相違点もある.本稿ではメラニン色素性疾患に対してピコ秒レーザーをどのように活用しているかその実際の臨床を中心に解説したい.

2.  使用機器

使用している機器はPicowayTM(米国Candela社製)である.基本波長は1,064 nmと非線形光学結晶KTPを用いた第2高調波532 nmで,パルス幅はそれぞれ339ピコ秒,294ピコ秒で,ピークパワーは1.19 GW,0.69 GWである.

またチタンサファイアのレーザーロッドを内蔵し730 nmを発振するハンドピースを装着可能である.この場合パルス幅は246ピコ秒,ピークパワーは0.41 GWとなっている.

さらにフラクショナルハンドピースとしては532 nm Resolve Fusionが国内承認されている.スポットサイズは6 × 6 mmで100個のマイクロビームに分散されて照射される.各ビームは中央に高いエネルギーを有し周囲はエネルギーが低くなるような設定となっている.そのほか未承認のハンドピースもいくつか装着可能である.全てのハンドピースで最大10 Hzでの繰り返し照射ができる.

診療報酬はQスイッチ付きヤグレーザーとして,太田母斑,異所性蒙古斑,外傷性色素沈着症が保険適応疾患として算定可能となっている.単なる美容目的とした算定は出来ない.つまり老人性色素斑は適応外となる.

3.  実際の治療

3.1  老人性色素斑

3.1.1  治療原理

ピコ秒レーザーの作用原理は概ねナノ秒レーザーと同じだが異なる部分もある.老人性色素斑の場合,加齢や紫外線等の影響でケラチノサイトに異常が生じ,メラノサイトから供給されたメラノソームが多数貯留している.ナノ秒及びピコ秒レーザーにおいてはメラノソームの熱緩和時間(おおよそ50ナノ秒)内,かつメラニンに対して高い吸収率をもつ波長を用い,破壊に十分なエネルギーを与えることで,異常ケラチノサイトを破壊しつつ,正常な組織にはダメージを与えないというのが基本的な考えである.

ただしピコ秒レーザーにおいてはナノ秒レーザーの1/10~100程度のパルス幅で,かつピークパワーは10~100倍程度となる(Fig.1).老人性色素斑においてはメラノソームを含むケラチノサイトが標的となるが,光熱作用よりも,短いパルス幅ゆえの光機械的作用が主役となり,限局されたより強いエネルギーで破壊する.そのため,ピコ秒レーザーでは炎症後色素沈着(Post Inflammatory Hyperpigmentation: PIH)の発生率が低い3)もしくは程度が軽いことが特徴である4).また高いピークパワーによって薄い色調の老人性色素斑にも効果がある.

Fig.1 

Pulse duration and peak power.

Compared with picosecond laser and l nanosecond laser. When the same energy (Joule) is emitted, the area of the diagonal part is same. If each pulse duration is 450 picosecond and 20 nano second, the peak power is about 44 times.

3.1.2  照射方法

広範囲の照射を希望される場合には塗布麻酔を要するが,小範囲の場合には無麻酔での照射をおこなっている.疼痛回避のためには照射部をアイスパックや冷風にて数秒冷却した直後に照射する.

使用する波長は主として532 nm,照射径は3ないし4 mmを用いている.エネルギー密度(フルエンス)は0.5~0.7 J/cm2で,エンドポイントとして照射直後の白色変化(immediate white phenomenon: IWP)を目安にするが,薄い色調ではナノ秒レーザーのようにはっきりと見えないこともある.過剰な照射は発赤の遷延を招くこともあるので,IWPが明確に分かるようにやみくもにフルエンスを上げることはしない.

照射後は痂皮が生じるので抗生物質含副腎皮質ホルモン剤の軟膏を塗布し,ドレッシング剤にて1週間程度被覆するが,ナノ秒レーザー照射時に見られるような軽い刺激で剥離する脆弱な痂皮が形成されることは少ない.広範囲な照射をおこなった場合には消炎剤配合のファンデーション(グアイアズレンスルホン酸Na配合,サンソリット社製RSファンデーション)塗布にて愛護的に扱う.PIHが生じた場合はハイドロキノン,トレチノイン外用にて概ね半年経過を見れば消褪することが殆どである.

また最近では730 nm波長も多用している.3 mm照射径でフルエンスは1.7~1.8 J/cm2,反応が悪い場合には2 mmの照射径で2.5~3.0 J/cm2を用いる.3 mm照射径のフルエンス1.7~1.8 J/cm2ではIWPがしっかり認められても発赤は遷延化しないことが殆どなので,PIHなどのリスクが高いと予想される症例(肝斑併発など)では使いやすい.

治療後のケアは532 nmによる治療に準じるが,730 nm波長での照射後は痂皮が多少の摩擦では剥離しない強固でなものあるため,あまり神経質になる必要はなく,軟膏塗布のみのことも多い.患者にとっては負担が少ない.施術後のPIHに対する対応も532 nmと同様である.

3.1.3  結果

症例1:老人性色素斑.PicowayTM 532 nmズームハンドピース3 mm照射径0.6 J/cm2にて照射した.僅かに白色変化する状態をエンドポイントとした.

1週間後痂皮は剥がれ,PIHなく,1ヶ月後の経過でも老人性色素斑は消失している(Fig.2).

Fig.2 

Solar lentigo treated with picosecond KTP laser 3 mm φ 0.6 J/cm2.

(a) Before treatment (b) One month after treatment

症例2:かなり薄い色調の老人性色素斑.PicowayTM 532 nmズームハンドピース3 mm照射径0.6 J/cm2にて照射した.PIHなく,1ヶ月後の経過でも老人性色素斑は消失している(Fig.3).

Fig.3 

Light colored solar lentigo treated with picosecond KTP laser 3 mm φ 0.6 J/cm2.

(a) Before treatment (b) One month after treatment

症例3:老人性色素斑

730 nm波長2 mm径で3.0 J/cm2照射.PIHを生じることなく,老人性色素斑は消失(Fig.4).

Fig.4 

Solar lentigo treated with picosecond 730 nm titan-sapphire laser 2 mm φ 3.0 J/cm2.

(a) Before treatment (b) Two months after treatment

3.2  雀卵斑

3.2.1  治療原理

老人性色素斑と同じであるが,多発することから広範囲の治療が基本となる.そのため従来からQスイッチレーザー以外にもフラッシュランプ(IPL)やロングパルスレーザーによる全体への照射が行われている.いずれの方法でも良好な結果が得られる.その中でピコ秒レーザーを使用する利点を考え,高い繰り返しパルスで一つ一つを狙い打ち,また治療後の痂皮が強固で刺激に強い730 nm波長を用いている.これによって1回の治療で多発する雀卵斑を全体的に除去し,かつアフターケアを要しない.

3.2.2  照射方法

原則として塗布麻酔をおこなったのち,730 nm波長にて2ないし3 mm照射径でフルエンスは1.7~3.0 J/cm2を用いる.繰り返しパルスは3 Hzを主に用いるが,ハンドピースを素早く動かしても誤照射しないなら4 Hzまでは経験的には用いることができる.治療後は5分程度冷却し,副腎皮質ホルモン含有軟膏を塗布したのちは,愛護的にスキンケアを行うなら自宅での処置は不要とする.

3.2.3  結果

PicowayTMチタンサファイア730 nmハンドピースにて3 mm 3.0 J/cm2にて個々に狙って照射.1回の治療1ヶ月後,ほとんどの雀卵斑は除去できている(Fig.5).

Fig.5 

Freckles treated with picosecond 730 nm titan-sapphire laser 2 mm φ 3.0 J/cm2

(a) Before treatment (b) One month after treatment

3.3  肝斑

3.3.1  治療原理

肝斑の治療の基本は摩擦や紫外線など皮膚への刺激を避けて,そのうえでトラネキサム酸内服,トリプルコンビネーションクリーム(ハイドロキノン,トレチノイン,ステロイドの混合剤)外用であるが,長期これらを実施しても改善が見られない場合や副作用の問題で内服外用が不可能な場合に限って補助療法としてピコ秒レーザーを用いた治療をおこなっている5).ナノ秒レーザーによるレーザートーニングとして2008年に報告された手法6)で,ピコ秒レーザーにおいて同じ要領で実施されている.基本的な考えとしてはメラノサイトの機能異常である肝斑に対して,メラノサイトを破壊しないレベルのエネルギーでその活性を抑えることにある.低フルエンスの照射によってメラノサイトを破壊することなく樹状突起の伸張が抑制されることなどが報告されている7)

3.3.2  照射方法

1,064 nm波長,6~8 mm照射径にて0.5~0.6 J/cm2を基本とした低フルエンス(J/cm2)照射をおこなう.照射の手技としてハンドピースを動かしながら8~10 Hzの繰り返しパルスで3パス程度,肝斑部全体に照射をおこなう.決して痂皮を作ることはなく,エンドポイントは軽度発赤程度とする.ただし,実際にハンドピースを動かすスピードは医師個々に差があり,技量の差が出やすい.通常1ヶ月に1回程度,5~8回の治療で効果は発現する.

ただし,肝斑におけるレーザー治療の役割は治癒や完治を目指すのではなく,色調が薄い状態を保つことにある.効果は永久ではない.メラノサイトの機能亢進を主因とする肝斑においては,引き続き摩擦予防や紫外線曝露を避けるなど日常のケアを継続することを患者には念押しする.またナノ秒レーザーにおいては白斑などの合併症も報告されている8,9).生じた場合には難治性であるため,同様な合併症が生じないよう照射間隔を1ヶ月以上と設定する,つまりメラノサイトにダメージを与える頻度を下げ,白斑の発症を避けることを心がける.賛否の分かれる,未だ結論の出ていない治療法であり,安易に実施することは勧められないが,実臨床では良好な結果が得られることが多い.

3.3.3  結果

1,064 nm波長 6ミリ照射径 0.6 J/cm2にて1ヶ月の治療間隔で5回照射をおこなった.肝斑は著明に改善した(Fig.6).

Fig.6 

Melasma treated with picosecond 1,064 nm laser 6 mm φ 0.6 J/cm2.

(a) Before treatment (b) One month after 5th treatment

3.4  扁平母斑

532 nm波長にて4mm照射径,0.6~0.8 J/cm2とやや高いフルエンスにて照射をおこなっている.再発に関しては長期的な観察が必要であるため有効性についてはまだ言及できない.

3.5  真皮メラノサイトーシス

ADMや異所性蒙古斑などの病変に対してもQスイッチレーザーと同様に有効であるが,現状ではナノ秒レーザーを用いているので割愛する.

3.6  顔面全体の治療(美容皮膚治療)

3.6.1  治療原理

加齢によって老人性色素斑や肝斑など多様なメラニン色素性疾患が混在する.またそれ以外にも肌理の悪化や毛穴開大などの主訴も伴うこともある.従来フラッシュランプ(IPL)治療などで対応していた様々な症状をピコ秒レーザー照射によって改善することも近年盛んにおこなわれている.波長や照射形状などを適宜組み合わせて顔全体への照射をおこない,複数回の治療で効果を得る.

手順としては個々の色素斑にポイントで照射をしたのち,これで照射しきれない全体の色素斑や肝斑に対して全体に低フルエンスで照射,さらにくすみや肌の張りの改善目的でフラクショナルハンドピースを用いて全体に照射する.

用いる波長・ビーム形状は,①730 nm波長,②1,064 nm波長,③532 nm波長フラクショナルハンドピースResolve Fusionである.

730 nmを用いるのは波長特性としてメラニン選択性が高いことから,前述のようにメラニンへの吸光度が高い532 nmに比較して切れ味は劣るが他のクロモフォアへの吸収が低いためより安全に照射できることが理由である.1,064 nm低フルエンス照射は肝斑への手法と同じくメラノサイトへの傷害を防ぎながら機能低下を狙うためである.またフラクショナルに関しては光子エネルギーの高い532 nmを用いることで高エネルギー密度のフラクショナルビーム特性を活かして強い光音響効果を生じさせる.これによってLIOB(Laser Induced Optical Breakdown)と称されるプラズマによる微小な空隙が生じ,引き続き生じる電離によって強い電子エネルギーが雪崩式に発生するとされている10,11).その結果,全体的な色調の改善のみならず,真皮上層のリモデリングを引き起こし,毛穴縮小や皮膚の張り感なども生じさせる.

3.6.2  照射方法

730 nm波長では3 mm照射径1.7 J/cm2もしくは2 mm照射径2.5 J/cm2でスポット照射,ついで1,064 nm波長8 mm径0.5 J/cm2で全顔に3 pass照射,その後532 nm波長フResolve Fusionで全顔若しくは頬と鼻部に0.2~0.4 J/cm2,1~3 pass照射をおこなう.

治療後は5分ほど冷却し,副腎皮質ホルモン含有剤を塗布する.ドレッシングなどはおこなわない.2~3回の複数回治療を基本として,1ヶ月以上の間隔を空けて肝斑の増悪,白斑などを生じていないか注意深く観察してから治療をおこなう.その後は希望があれば数ヶ月ごとに治療を継続する.

3.6.3  結果

3波長照射による全顔治療.2回治療にて頬全体に広がる老人性色素斑が改善した(Fig.7).

Fig.7 

Solar lentigines treated with 3 wavelengths irradiation of picosecond laser.

(a) Before t treatment (b) One month after second treatment

4.  考察

メラニン色素性病変へのピコ秒レーザーの有効性が報告されている12,13).しかしナノ秒レーザーとの比較において,その優位性がどれくらいあるのか,臨床における印象や統計学的な有意差のみならず,理論を理解して臨床に生かすことでピコ秒レーザーの活用方法が見出せると考える.

そもそもメラニン色素性病変に対する治療に関しては,RR. Andersonの選択的光熱融解理論14)に則れば,ナノ秒レーザーでも十分にメラノソームの熱緩和時間内での照射は可能であり,ピコ秒レーザーによる利点は多いとは言えない.その利点と欠点を理解して使用する必要がある.

ナノ秒とピコ秒レーザーにおいては,パルス幅とピークパワーの相違が治療結果に影響する.

真皮内病変では熱緩和時間内であればレーザーによる損傷は標的物質にとどまるが,表皮内病変である老人性色素斑においては衝撃波が問題となる.この衝撃波(応力波)は表皮内に空胞化を発生させるが,機械的損傷である衝撃波は熱緩和時間内照射であってもメラノソームに留まらず周囲へ波及し炎症を惹起する.これがPIHの主要因となる.ナノ秒レーザーにおいて衝撃波は周囲へと広がり,ダメージの一因となっている.しかしパルス幅が短くなるほど,この衝撃波は限局される.特にメラノソーム内に応力波が閉じ込められる照射時間,つまり応力波の緩和時間(物理学的な応力波発生の要件である応力緩和時間とは異なる)は諸説あるが370ピコ秒と推測されており15),この近傍のパルス幅であるピコ秒レーザーにおいては理論上あらゆるエネルギーがメラノソーム内に留まり,PIHの発生率が低下すると考えられる.

しかしながらメラノソーム内にエネルギーが限局されても,レーザー照射後に表面が白色変化を起こす設定では非常に短いパルス幅のピコ秒レーザー(35ピコ秒)においてもケラチノサイトの損傷は電子顕微鏡下において確認されている16).損傷の限局によってPIHが生じないのではなく,その確率が下がると考えられる.

一方,この空胞は表皮内の物理的損傷であるので,ある程度生じた方が老人性色素斑の異常ケラチノサイトを完全に破壊できるとも考えられる.その点では長期経過後再発の少なさや1回の治療で完全に色素斑を除去できるという点においてはナノ秒レーザーの方が優位であると考えられ,実際の臨床でもその印象を受ける.

また短いパルス幅であるほどピークパワーは高くなり,適正なエネルギーを与えた場合には大きな出力によって組織への強い損傷が起こり得る.これはメラニン量が少ないつまり薄い色調の老人性色素斑にも有効ということになる.ナノ秒レーザーでは薄い色素斑に対して効果を得ようとすると過剰なフルエンスでの照射となりやすい.その点,ピコ秒レーザーの有効性は高いと考える.

さらに,波長特性の相違によって反応は異なる.メラニンに高い吸収率を有する波長例えば532 nmであればかなり薄い色調の老人性色素斑でも効果を発揮する.反面,ヘモグロビンなどの他のクロモフォアにも反応し,炎症後の紅斑が生じやすい.臨床上は切れ味が良いがやや扱いにくい.一方,メラニンへの吸収率は劣るもののヘモグロビンへの吸収率が低い波長730や755 nmであればより安全な治療が可能となる.切れ味はやや劣るが扱いやすい.

ピコ秒レーザーは波長やハンドピースの選択が多様であるからこそ,メラニン色素性病変の状態によって使い分けができ,かつ細かい対応が可能であると言える.

しかしながら新しい世代であるピコ秒レーザーが全てに優れているわけではない.強い光機械的作用は有効な反面,誰でも安全に用いることができるのではなく,適切なエネルギーを用いないと炎症後の紅斑や色素沈着など様々な合併症を引き起こすことは忘れてはならない.メラニン色素性病変に関してはナノ秒レーザーから完全に置き換わってしまうことはないと考えられる.メラニン色素性病変治療の基本はナノ秒レーザーであり,更なる効果を求める場合にピコ秒レーザーを利用することが良い.光熱作用と光機械的作用のバランスの取れたナノ秒レーザーによって,特に表在性のメラニン色素性病変を完全に除去し,長期的に再発率の少ない治療をおこなうことは最も重視して良い事項である.一方で薄い色調などに切れ味の良い治療をおこなうこと,顔全体の様々な病変を各種波長やハンドピースを組み合わせて良好な結果を得ることはピコ秒レーザー治療の特性である.これらのことを考慮し,実際の臨床においては両者を同日に組み合わせて使用することで,1回の治療で最善の結果を得ることもできる(Fig.8).

Fig.8 

Solar lentigines and freckles treated with both nanosecond and picosecond laser

(a) Before treatment (b) One month after treatment

なお真皮内病変,特にADMに関してはピコ秒レーザーの優位性が報告されている17).しかし私見ではあるが,PIHの発生率を除けば,最終結果に至るまでの回数や結果には現状ではあまり差を感じない.むしろPIHを受け入れるのであれば,表皮内病変と異なり色素量の多い真皮内病変では最初はナノ秒レーザーの高いフルエンスでの照射によってメラノサイトを一塊としてしっかりと破壊した方がより良い結果を得る可能性もある.このあたりは症例数を増やし,長期的な経過を見ていく必要があり,結論には至っていない.

一方で,医学的ではない俗的な問題も孕んでいる.ピコ秒レーザーの登場以来,メラニン色素性疾患の治療がやや商業的になり,その有効性の検討をすることなく,簡便な使用法,反復治療によって患者を長期間通院させ,かつ高額な治療費を得るような医療ビジネスが成立してしまった感がある.ピコ秒レーザーの臨床活用においては漫然と治療を続けるのではなく,理論を理解した上で最適で短期に結果を得る治療をすることが望ましい.

5.  さいごに

メラニン色素性病変の治療においては,ナノ秒レーザーと比較して,ピコ秒レーザーは限局された強力な衝撃波が発生するため,表在性メラニン色素性疾患治療においては照射後のPIHの発生率が低く,また薄い色調にも有効であることが特徴である.波長の選択によってより安全な治療も可能である.さらには様々なハンドピースを組み合わせることによって全顔の色調をはじめとした美容的な治療も可能となってきた.しかしながらナノ秒レーザーが持つ光熱作用と光機械的作用の調和された効果を考えると,既存のレーザー機器が不要になったわけではない.

利益相反

本論文で使用した機器PicowayTMの販売会社であるシネロンキャンデラ社より講演料を得ている.

引用文献
 
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