日本レーザー医学会誌
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総説
レーザースペックル法による網脈絡膜・視神経乳頭血流測定
喜田 照代
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2025 年 45 巻 4 号 p. 417-424

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Abstract

レーザースペックル法は,本邦発の眼底循環測定法で,視神経乳頭や網脈絡膜の血流を非侵襲的に測定でき,レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)として基礎研究・臨床研究ともに用いられてきた.実際に著者が行った糖尿病および網膜静脈閉塞症についての眼循環研究をご紹介したい.LSFG測定により,眼底血流は高血糖により増加し,高血糖に応じて分泌されるインスリンにより誘導される一酸化窒素(NO)による血管拡張により眼底血流は増加することがわかった.また,小動物用のLSFG(LSFG-Micro)を用いて,血管収縮因子のET-1をラットの尾静脈より投与前後の網脈絡膜血流を経時的に測定,同時に動画撮影も行い,静脈血管の変化を記録したところ,LSFGで血管反応がreal timeで観察できることがわかった.

Translated Abstract

Laser speckle method is a non-invasive measurement of ocular tissue circulation such as the optic nerve head, choroid, and retina. Here, I would like to introduce some studies by using laser speckle flowgraphy (LSFG). Through our studies including basic and clinical researches, we indicated that ONH circulation was increased by administration of glucose. A high blood glucose level seems to promote ocular capillary circulation and NO as well as insulin appear to have a role in this process. In addition, we observed the behavior of retinal veins in spontaneous hypertensive rats and showed that an increase of ET-1 in circulating blood leads to the local constriction of retinal veins by the real-time monitoring using LSFG-Micro.

眼血流状態を評価する方法としては,動物を用いた基礎研究および臨床研究の観点からTable 1に代表的なものを挙げる.測定方法は侵襲的なものから非侵襲的に評価できるようになり,眼循環の研究歴史は測定機器の開発や性能の進歩の貢献によるところが大きい.

Table 1 

眼循環測定法

動物に対する測定法 人に対する測定法
1.Microsphere法 1.laser Doppler法
2.水素クリアランス法 2.レーザースペックル法
3.色素希釈法 3.color Doppler imaging
4.白血球造影法(アクリジンオレンジ) 4.ブルーフィールド内視現象
5.血小板造影法 5.拍動量眼血流量(POBF)
6.laser Doppler flowmetry 6.HRF(Heidelberg Retina Flowmeter)
7.血管標本 7.フルオレセイン蛍光眼底造影
8.インドシアニングリーン蛍光眼底造影
9.MRA(magnetic resonance angiography)
10.OCT(Doppler OCT, OCT angiography)

レーザースペックル法は,本邦発の眼底循環測定法で,視神経乳頭や網脈絡膜の血流を非侵襲的に測定でき,レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)として基礎研究・臨床研究ともに用いられてきた.2008年LSFG-NAVITMが医療機器として認証され,2016年米国FDAの承認を取得した.Fig.1にLSFGの原理を示す.レーザーで生体表面を照射すると,散乱光が干渉し,スペックルパターンとよばれるランダムな斑点模様を生じる.このスペックルパターンは被照射物体に連動して変化する.LSFGで生体組織にレーザー光を照射すると組織中の赤血球により反射散乱された光が干渉しあってランダムなスペックルパターンが形成され,このスペックル現象は赤血球の動きに合わせて刻々と変化する.この像面にイメージセンサーを置き,スペックルパターンの時間変化速度を各点で算出しマップ状に表示すると血流の画像化が可能になり,緑内障や網脈絡膜疾患,視神経疾患の病態などの把握に有用である.LSFGのパラメータには,血流指標となる平均ブレ率(mean blur rate: MBR),測定時間内の脈動に合わせたMBRの変動を解析する眼脈波解析(skew,blowout time(BOT),blowout score(BOS)など)などがある.MBR値は,血流速度が速いほど高値になる.MBRが基本であるが,眼脈波解析は,動脈硬化を含む全身の循環動態や眼科疾患の病態把に有用である.また,最近では,LSFGの機能を拡張して,網膜に光刺激を与える機能(フリッカープラグイン)も有し,フリッカー光刺激に対する血流応答も評価することが可能になっている(Fig.2).本稿では,今まで実際にレーザースペックル法を用いて著者が行った糖尿病および網膜静脈閉塞症についての眼循環研究をご紹介し,考案したいと思う.

Fig.1 

Principle of LSFG

Fig.2 

A new function of LSFG : Flicker plug-in

1.  糖尿病と眼循環

糖尿病網膜症は,健診や内科をはじめとした他科との医療連携により早期発見やレーザー光凝固などの眼科的治療の介入が可能となり,また硝子体手術などの外科的治療も進歩したにもかかわらず,現在もなお失明原因の上位を占めている.さらに,糖尿病黄斑症は糖尿病網膜症患者の視力障害の原因として重要であり,糖尿病網膜症のすべての病期において発症しうる.すなわち,糖尿病網膜症の病期としては単純型であっても黄斑浮腫が著明で視力が不良である症例はめずらしくない.糖尿病網膜症は眼科医による治療だけで視力低下や失明を減らすことは不可能であり,内科医による定期的な治療介入と適切な医療連携が必要不可欠であることは言うまでもない.ここでは1)糖尿病と眼循環研究,2)糖尿病黄斑浮腫治療に関連した眼循環研究,の双方から得られた知見について述べたいと思う.

1.1  糖尿病と眼循環研究

既に,欧米や本邦において,さまざまな機器で糖尿病における眼循環の変化について検討した報告が多くみられる.

高血糖により眼底の血流動態は変化していく.高血糖が網膜や視神経乳頭に与える影響については種々の測定法により報告されている.ここでは,急性および慢性的な高血糖状態に分けて眼底血流の変化について述べたいと思う.

急激な高血糖状態への変化により眼底血流は増加する.われわれは白色家兎を用いて耳静脈よりグルコースを注入し2時間後まで血糖値および視神経乳頭の組織血流をレーザースペックル法で測定し,高血糖やインスリン,血管内皮由来調節因子の一酸化窒素(NO)が眼底血流に与える影響について検討した1).その結果,グルコース静注15分後より視神経乳頭組織血流は増加し,血糖値が投与前値まで戻った2時間後もその増加は維持された.また,NO合成酵素阻害薬であるL-NAMEの前投与によって高血糖による視神経乳頭血流の増加は抑制された(Fig.3).一方,グルコースでなくインスリンを腹腔内投与しても,視神経乳頭の組織血流は増加するがその増加は一過性で,高血糖状態のときのパターンと違った.しかし,これもまた,L-NAMEの前投与によってインスリンによる視神経乳頭血流の増加は抑制された(Fig.4).以上より,眼底血流は高血糖により増加し,高血糖に応じて分泌されるインスリンにより誘導されるNOによる血管拡張により眼底血流は増加することがわかった.また,のちに,ラット網膜の摘出血管および培養網膜血管内皮細胞を用いてもインスリンに関する動物実験を行った.インスリンはNOを合成し,血流を増加させることが知られている一方で,インスリンとNOはともに,糖尿病網膜症の病態に関与しており,また,インスリンやNOの黄斑浮腫への関与についても報告されている.そこで下記の実験を行った2).1)インスリンによる内皮細胞およびペリサイトにおけるNO合成(摘出網膜血管および培養細胞),2)NO合成酵素(NOS)のwestern blot 解析,3)活性酸素の関与(FACS 解析とNADPH oxidaseの発現変化).その結果,インスリンは網膜血管のNOレベルを増加させる(Fig.5)が,高グルコース培地では,活性酸素の増加にともない,インスリンはむしろNOレベルを減少させた(Fig.6).高グルコース状態はiNOS・eNOSを活性化させるが,活性酸素によるNOの不活化による循環障害が,インスリンによる黄斑浮腫発症やインスリン治療導入直後の糖尿病網膜症の一時的な悪化の一因となる可能性が考えられた.

Fig.3 

Changes in ONH blood flow in ONH after intravenous injection of glucose, saline, and L-NAME + glucose.

ONH blood flow increased to 160% of the initial value at 15 minutes after glucose loading and remained nearly constant throughout the observation period of 120 minutes. The increase in ONH blood flow after glucose loading was completely inhibited by L-NAME at a dose of 1 mg/kg.

Fig.4 

Changes in ONH blood flow after administration of insulin, saline, and L-NAME + insulin.

ONH blood flow showed a significantly greater increase in the insulin group than in the control group at 30-45 minutes (*p < 0.05, **p < 0.01, t-test with Bonferroni’s correction). The increase in ONH blood flow after insulin loading was completely inhibited by L-NAME at a dose of 1 mg/kg.

Fig.5 

Effect of insulin on the formation of NO in retinal microvessels as determined by DAF-2T fluorescence. Representative time-lapse fluorescence photomicrographs of retinal microvessels before and after 30 minutes exposure to insulin.

Exposure to insulin in control media increased the DAF-2T fluorescence.

Fig.6 

Relative changes of NO production determined by DAF-2T fluorescent intensities.

Exposure of microvessels to insulin in control media caused a significant increase of fluorescent intensities, while the exposure to insulin in high glucose media caused a significant decrease.

さらに,臨床研究として,今度はヒトで糖負荷試験を行い,血糖値の変化とともに眼底血流がどのように変動するかについて検討した3).血糖正常型,境界型,糖尿病型の3群に分け,経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)を施行し,血糖値,視神経乳頭の組織血流(レーザースペックル法),血中インスリン,血中エンドセリン(ET-1)を測定した.通常,75gOGTTは2時間後で測定終了であるが,既述のウサギの実験結果より3時間後まで測定することにした.また,本臨床研究では,血管内皮由来調節因子であるET-1の変化について検討した.ET-1は血管内皮細胞で産生される血管作動性物質で,血管収縮作用を有する4).ET-1は発見当初から肺高血圧症,虚血性循環器系疾患の発症や増悪因子の1つとして注目されており,その後,糖尿病においても関与が報告されている.また,増殖糖尿病網膜症(PDR)の手術時に採取した硝子体中のET-1レベルを測定したところ高値であった(Fig.75).PDRの病態にもET-1の関与が考えられ,ET-1もまた,眼循環に影響を及ぼす因子の1つであるといえる.前述のOGTTの臨床研究の話に戻るが,3時間後まで測定した結果,白色家兎の実験でみられた眼底血流の増加は,血糖正常群で3時間後まで維持されたが,糖尿病型では眼底血流の増加はみられず,むしろ低下した(Fig.8).また,そのときの血中ET-1は,糖尿病型でトレーラン®G飲用1時間後有意に高値を示し(Fig.9),糖尿病では急激な血糖変化においても眼循環が障害されている可能性が示唆され,血管内皮調節因子の関与が考えられる.

Fig.7 

Levels of endothelin-1 in the vitreous of patients with macular hole (controls) and proliferative diabetic retinopathy (PDR).

In patients with PDR, the ET-1 level in the vitreous fluid was significantly higher.

Fig.8 

Changes in ONH circulation during 75 g glucose tolerance test.

In the control group, the ONH blood flow was significantly higher 1 h after glucose intake than the initial value. However, in the abnormal glucose pattern group, no significant change in the ONH blood flow was observed during the GTT, i.e., the circulation was not altered.

Fig.9 

Changes in plasma ET-1.

The ET-1 level at 1 h after glucose intake was significantly higher in the abnormal glucose pattern group than in the normal GTT group.

一方,慢性的な高血糖状態を想定した高血糖動物モデルとしては,膵ランゲルハンス島β細胞を破壊するストレプトゾトシン(STZ)を用いたラットやマウスが昔から使用されており,論文も多くみられる.これはI型糖尿病のモデルであるが,網膜症はまず発症しないため,高血糖が網膜に与える影響についての検討モデルといえる.Pouliotら6)は,STZ誘発糖尿病ラットで定量的autoradiographyにより網膜血流測定を行ったところ,高血糖期間がday 4では正常ラットと有意差はみられなかったが,6週間後,網膜血流は正常に比べ減少していたと報告している.

そして,臨床研究では,Nagaokaら7)が,本邦で多いII型糖尿病患者を対象にしてレーザードップラー速度計(LDV)を用いて網膜動脈血流量を測定した,興味深い報告がある.網膜症がない,あるいは単純網膜症を有する糖尿病患者では正常対照群に比べ網膜動脈血流量は低下しており,網膜症発症前・発症早期から網膜血流が低下していることを示した.糖尿病に血糖コントロールは不可欠であることはもちろん言うまでもないが,血糖コントロールをいかに上手く維持するかが,網膜循環に影響を与え,それが網膜症の発症や進行に関与している可能性があると考えられる.また,血糖コントロールだけでなく,眼灌流圧にも影響を及ぼす血圧のコントロールも重要である8).LDVなどレーザードップラー法を用いた糖尿病網膜症に関する研究はアメリカを初め多くの論文がある9,10)

高血糖により眼底の血流動態は変化する.眼循環の研究は,現在ではTable 1のようにさまざまな測定法が選択できるが,眼循環動態の測定は容易でなく,各機器における特徴(測定範囲や測定深度など)を認識し測定データの再現性を必ず念頭において論文を読む必要がある.

1.2  糖尿病黄斑浮腫治療に関連した眼循環研究

糖尿病網膜症の病期としては単純型であっても黄斑浮腫が著明で視力が不良である症例はめずらしくなく,糖尿病黄斑症が問題となっている.近年では,OCT(光干渉断層計)機器の進歩により黄斑浮腫が非侵襲的に誰でも検出可能になり,また,治療法としては抗VEGF薬硝子体注射やトリアムシノロンのテノン嚢下注射が黄斑浮腫の治療に大きな役割を占めるようになった.

糖尿病黄斑浮腫に対し,実際に抗VEGF療法を行った治療前および治療1か月後の眼底の血流変化を図に示す(Fig.10).抗VEGF薬により黄斑浮腫は減少し,視力も改善したが,LSFGで測定した網脈絡膜の組織血流は減少している.VEGFはNOを誘導し,血管拡張を導くが,そのVEGFをブロックすることにより眼底の組織血流は低下した.黄斑浮腫の改善と相関して網脈絡膜,特に脈絡膜の血流が減少している.過去の報告によると,網膜症のない患者や網膜症早期の患者では正常人より脈絡膜の血流も低下しており11),糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法の登場によりQOVは向上したが,反復投与が多いため,眼循環の観点からも病態解明が急務である.

Fig.10 

Changes in chorioretinal blood flow before and after anti-VEGF therapy for a patient with diabetic macular edema.

Macular edema was decreased by the intravitreal injection of anti-VEGF drug, and the visual acuity was improved; however, the chorioretinal blood flow was decreased one month after the anti-VEGF therapy.

2.  網膜静脈閉塞症と眼循環

網膜静脈が障害されると,血液が灌流できなくなるために,網膜内に大小さまざまな程度の出血が生じる.昔から網膜静脈閉塞症(retinal vein occlusion: RVO)は閉塞部位の違いにより,網膜中心静脈閉塞症(central RVO: CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(branch RVO: BRVO)に分けられる.視神経内で閉塞するとCRVOとなり眼底全体に出血が生じる.また,動脈静脈交叉部で静脈が狭窄するとBRVOとなり,扇形の出血がみられる.さらに,網膜中心静脈は通常1本であるが,2本存在する場合があり,その1本が閉塞した場合,半側網膜中心静脈閉塞症(hemi-CRVO)と呼ぶ.

網膜静脈閉塞症は,高血圧や脂質異常症などの関与が示唆されているが,発症メカニズムはいまだ解明されていない.疾患名は昔から“閉塞”と記載されるが,実際のBRVO眼の動静脈交叉部における静脈は閉塞しておらず,内腔は保たれていることが近年の光干渉断層計(OCT)を用いた臨床研究により証明された12).さらに,基礎研究より,静脈血管自体がvasoactivityを有することがわかった(Fig.1113).RVOは静脈の局所的収縮による部分的狭窄が起きることによって発症すると推測され,BRVOの病態は,網膜静脈の狭窄により静脈内圧が上昇し出血および浮腫,血管内皮障害を引き起こすと考えられる14).視神経内を網膜中心動静脈が走行しているが,視神経乳頭の篩状板部レベルでの動静脈は健常者でも生理的に細くなっており,CRVOはその部位で生じるのだろうと推測されている.小動物用のレーザースペックルフローグラフィ(LSFG-Micro)を用いて,血管収縮因子のET-1を尾静脈より投与前後の網脈絡膜血流を経時的に測定した.同時に動画撮影も行い,静脈血管の変化を記録した.ラットでもLSFGで血管反応がreal timeで観察できる(Fig.12).

Fig.11 

Fundus photos of optic nerve head and LSFG-Micro imaging of chorioretinal blood flow before and after the intravenous injection of ET-1 in SHRs.

One of the retinal veins became exceptionally constricted and nearly occluded.

The color mapping scale of the fundus by LSFG shows the volume of blood flow. Red and blue indicate high and low volumes of blood flow, respectively. The chorioretinal blood flow decreased following the intravenous injection of ET-1

Fig.12 

Measurements of ocular fundus circulation by real-time monitoring using LSFG-Micro under general anesthesia in rats.

以上,眼循環に関する研究を通じて私見を述べさせて頂いた.眼循環疾患はさまざまな因子が複雑に関与しており,クリアカットに病態を説明することは困難である.糖尿病網膜症や黄斑症,網膜静脈閉塞症などの眼循環疾患の病態や治療を考えるうえで,基礎的および臨床的な観点から眼循環について検討することは大切であり,これらの知見が日常診療に少しでもお役に立てれば幸いである.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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