昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
Print ISSN : 0037-4342
ISSN-L : 0037-4342
原著
中等度低体温循環停止における心房性ナトリウム利尿ペプチドの腎保護作用
大野 正裕尾本 正福隅 正臣大井 正也石川 昇手取屋 岳夫
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 69 巻 3 号 p. 236-244

詳細
抄録
胸部大血管手術において,腹部臓器虚血による合併症,特に周術期の急性腎不全は手術成績に影響を与える独立した危険因子である.今回われわれは中等度低体温循環停止における心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide: ANP)の腎臓への作用を,ブタ実験モデルを用いて検討した.体外循環を用いて直腸温30℃に冷却後,60分間循環停止した.体外循環再開し,37℃に復温後,体外循環より離脱した.体外循環離脱後1時間で実験を終了した.ANP投与群(n = 6)とコントロール群(n = 6)の2群間で比較検討した.ANP投与群では体外循環開始時より0.05μg/kg/minで実験終了時までcarperitide (recombinant ANP)を持続的に投与した.2群間で,(1)体血圧,(2)腎動脈血流量,(3)腎皮質および髄質組織血流量を,(1)実験開始時,(2)体外循環開始後,(3)循環停止開始前,(4)循環停止30分後,(5)体外循環再開後,(6)復温完了時,(7)体外循環離脱時,(8)離脱後30分後および(9)60分後で比較検討した.また(4)尿量,血中・尿中ナトリウム(Na)およびクレアチニン(Cre)を(1),(3),(5),(6)および(9)で測定した.実験終了後腎臓を摘出し,虚血再還流障害の指標である腎組織Myeloperoxidase活性を測定し比較検討した.本研究では,ANPは体血圧および腎動脈血流量に影響を与えることなく,循環停止後の腎髄質組織血流量を有意に増加させた(109.3 ± 35.7% vs. 207.5 ± 113.2%; p = 0.03).また,循環停止後の尿量およびFENaを有意に増加させた(1.6 ± 1.4 vs. 3.4 ± 1.1ml/min; p = 0.03 and 1.7 ± 1.5 vs. 4.9 ± 4.9; p = 0.02).さらに,Myeloperoxidase活性を腎髄質組織で有意に低下させた(0.057 ± 0.035 vs. 0.026 ± 0.019U/mg; p = 0.03).以上により,ANPは中等度低体温循環停止後の腎髄質組織虚血を改善し,さらに虚血再還流後の腎髄質組織障害を抑制した.
著者関連情報
© 2009 昭和大学学士会
前の記事 次の記事
feedback
Top