抄録
Indocyanine green(ICG)は血漿蛋白と結合し,Light emitting diode(LED),キセノン光で励起すると白色調の蛍光像として可視化される.この特性を用いて眼底血管造影検査,乳癌センチネルリンパ節(SLN)同定,血管バイパス術におけるグラフトの評価等で臨床応用されてきた.教室ではこの方法をはじめて胃癌,大腸癌のSLN同定に応用し,また,肝切除時における肝区域同定においても有用であることを報告した.今回,胆汁中にICGを注入し混和すると強い蛍光を発することを見出し,ICG蛍光法が術中胆道造影に臨床応用可能か否かについて,LED蛍光CCD内蔵カメラ(Photodynamic Eye; PDE)による開腹下での胆道造影と鏡視下で観察可能なICG蛍光硬性鏡を用いてICG蛍光画像による胆管造影法の有用性を検討した.1.基礎的検討:10mlの胆汁にICG 1mlを注入し,PDEを用いて観察すると,直後より輝度の高い白色調の蛍光が観察された.2.大動物実験:ビーグル犬を用い,全身麻酔下に開腹,胆嚢頚部を直接穿刺しICG 3mlを注入し,PDE,ICG蛍光硬性鏡にて観察した.両者とも輝度の高い白色調の蛍光画像として胆嚢管,総胆管が明瞭に可視化され,この像は注入後すぐに消失せず長時間持続した.しかし,蛍光輝度はPDEの方が強かった.3.臨床例:ICGは全身投与と胆嚢内を直接穿刺して注入する二つの方法で行った.胆嚢摘出術2例,肝腫瘍5症例に対して開腹手術下にPDEによる観察を行い,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した胆石症14例ではICG蛍光硬性鏡による観察を行った.開腹下における観察症例では,ICGは術前肝機能検査,または術中肝区域同定のために投与された.全症例で胆嚢管,総胆管(肝管)が明瞭に長時間にわたり描出された.腹腔鏡下胆嚢摘出術症例では,術中,ICG(2.5mg/ml)を3ml胆嚢に穿刺注入,または術前にICGを静注した.14例中10例(同定率71%)に胆嚢管,総胆管(肝管)が描出された.ICGによる副作用等は認められなかった.同定困難であった4例中,3例は炎症が強く,胆嚢管の合流形態を確認することが困難であり開腹手術に移行した.1例は胆嚢穿刺が上手く施行されなかった.ICG蛍光特性を用いた本方法は,新たな術中胆道造影法の一つとなり得ることが示唆された.