昭和医学会雑誌
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原著
手術とホルモン療法を受けた乳がん患者の心理
―テキストマイニングによる語りの分析から―
大高 庸平城丸 瑞恵いとう たけひこ
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2010 年 70 巻 4 号 p. 302-314

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抄録

現在,日本において乳がん患者は急速に増加している.治療法の1つであるホルモン療法は,副作用が少ないとされているが,一方でホットフラッシュなどの出現があり,これによって患者のQOLの低下が予測される.本研究は乳がん患者のQOL向上に向けて,手術やホルモン療法を受ける患者の具体的な心理を患者の語りからテキストマイニングを用いて探索的に明らかにすることを目的とした.対象は10人の乳がん患者である.半構造化面接によって得られた逐語録を,テキストマイニングソフトウェアにて分析した.全体頻度として用いられた単語は,治療に関連した単語とともに家族や仕事など患者の生活面があらわれ,治療面,生活面,心情・身体症状の3領域が見出された.患者個人が特徴的に用いる単語では,量的に示された結果に対して,それぞれの単語を原文から見ることで多様性が明らかになった.単語間の共起関係について,手術のカテゴリにおいては“頭”と“真っ白”のつながりは告知によるものであり,“手足”と“痺れ”のつながりは症状に関する語りであった.“不安”と“痛い”との間に弱いつながりが見られ,手術後の症状によるものであった.ホルモン療法のカテゴリにおいては“ホルモン療法”と“手術後”と“影響”,“ひどい”と“生理”とのつながりが見られ,“副作用”は“痛い”と“関節”,“抑える”と“体力的”との共起関係があった.ホルモン療法では,手術と違い,患者の心理面に関する単語の共起が少なかった.手術とホルモン療法のカテゴリ内を対象とする対応分析では,家族の支援が豊富に得られた患者と症状に苦しむ患者とが対比された. 乳がんの手術やホルモン療法に関する心情が患者の語りから明らかとなった.手術のカテゴリでは身体症状の緩和が不安の緩和へとつながることや,告知に対する課題が得られた.ホルモン療法のカテゴリでは身体症状に関連した影響は明らかにされなかったが,若年層の患者に対する影響について研究の蓄積が必要である.乳がんという身体的・心理的不安が生じるなかで患者が求めるサポートは多様であり,仮説生成的な気づきが得られる一方,家族の支援が大きいほど乳がんに対して前向きな生き方を可能にすることが示唆された.乳がん患者の支援方法については多様性の理解のもとに,各々のサポート内容のより効果的な構築が今後必要である.

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© 2010 昭和大学学士会
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