抄録
Stem cellは,自己複製能力やホルモン産生細胞へ分化する能力を有し,下垂体腺腫形成に関わる可能性が示唆されている.近年,Stem cellの能力を用いて新しい臨床応用の可能性が検討されはじめ,基礎研究としてStem cellの性質分析と細胞分化系譜を明確にすることが急務とされている.本研究は,各下垂体腺腫に含まれるStem cellのspecific markers発現を解析し,Stem cellの臨床応用への基礎研究として下垂体腺腫Stem cellの性状分析を行った.手術で摘出された下垂体腺腫から凍結切片を作成後,Laser Microdissectionを用いて腺腫細胞だけを回収した.Total RNA抽出後,RT2Profiler PCR Array Systemを用いてcDNAを合成し,ABI PRISM®7000 Sequence SystemでPCRを行った.PAHS-405A Arrayプレートに準じてspecific markersを検索し,正常下垂体組織RNAデータで補正後,ΔCT法にて解析した.神経形成に関わるNEUROG2は,機能性下垂体腺腫よりも,下垂体ホルモンを分泌しない非機能性下垂体腺腫で低値を表し,ホルモン分泌機能の働きが弱いことを明示した.下垂体特有のProp1,pit1の補助因子SOX2は,機能性下垂体腺腫で認めたが,非機能性下垂体腺腫では検出されなかった.非機能性下垂体腺腫では検出されなかったことから,非機能性腺腫はSox2の影響を受けずにホルモンを分泌しない細胞となることが明らかとなった.胚細胞の分化に関与する遺伝子ISL1は,機能性下垂体腺腫で検出されず,非機能性下垂体腺腫で検出されたことから,非機能性下垂体腺腫は,ラトケ嚢原基細胞Stem cellを有していることが明らかとなり,非機能性下垂体腺腫細胞のなかに未分化な細胞を有することが示唆された.下垂体腺腫細胞に含まれる下垂体Stem cell specific markers発現の検索を行った.機能性下垂体腺腫よりも非機能性下垂体腺腫で多くの未分化細胞の存在を認め,ホルモンを分泌しない非機能性下垂体腺腫にstem cell細胞が多いことが示唆された.Stem cell発現を調整する遺伝子をしらべることで,各下垂体腺腫に含まれるStem cellの存在を明らかとし,将来の下垂体腺腫遺伝子治療への臨床応用の可能性を提示した.