抄録
今回われわれは,アレルギーがなかったにもかかわらず,2回の全身麻酔においてアナフィラキシーショックを発症し,ラテックスアレルギーと診断された11歳女児を報告する.生来より総排泄孔異常,総胆管拡張症,完全内臓逆位,左腎欠損,潜在性二分脊椎があり,総排泄孔根治術や肝管空腸吻合術など,10歳までに計5回の全身麻酔による手術が行われている.既往歴にアレルギーを疑うものはなかった.今回,膀胱尿管逆流に対し,逆行性尿路造影が行われた.尿路造影開始後25分に心拍数が突然増加し,収縮期血圧は著しく低下した.気道内圧が上昇し,SpO2が測定不能となった.覆布をはがして皮膚を観察したところ,下半身を中心に紅斑と膨疹を認めた.アナフィラキシーを疑い,アドレナリンの投与で症状は改善した.造影剤によるアナフィラキシーが強く疑われたため,原因特定のための精査は行わなかった.15か月後,便秘症に対し全身麻酔下での摘便を行ったところ再度アナフィラキシーを呈し,アドレナリンの投与で症状は改善した.術後の採血検査で,非特異的IgE抗体価は1120UA/ml,血清ラテックス特異的IgE抗体価はクラス6の強陽性であり,ラテックスアレルギーと診断した.術中にアナフィラキシーが発症した場合には原因としてラテックスを念頭に置き,精査を行う必要がある.また,発症を予防するため,ラテックスフリー環境を構築すべきである.