昭和医学会雑誌
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熱処理に対するマウス脳切片の反応, 特に形態学的相関について
山口 仁山口 知子
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1973 年 33 巻 6 号 p. 744-752

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抄録

神経細胞は切片の形態において, アミノ酸を含む浮遊液中で, そのアミノ酸を濃縮摂取する.細胞の外から内へのアミノ酸の能動輸送に関しては, 細胞膜における担体の介在が想定されている.そのアミノ酸の担体の特性を知るために, 脳切片を熱処理して, 種類の異るアミノ酸の濃縮摂取量の変化を検討した.すなわち, 47℃, 30分間, マウス脳切片を熱処理すると, 37℃における対照と比して.D-グルタミン酸は10%に, α-アミノ酪酸は30%に, L-リジンは60%に, 濃縮摂取を減少した.この濃縮摂取量の減少は, 熱処理の温度を高めたり, 時間を延長することにより.一層著しく認められた.
このような生化学的変化がみられるような実験条件において, 脳切片内の神経組織がどのような形態学的変化をおこしているか, 特にその相関性について観察した.
ニッスル染色による光学顕微鏡像では, 熱処理された脳切片は, 対照に比して.好塩基性の減少.細胞膜の破裂, 染色質の増強を伴う核の巨大化などの変化がみられたが, 神経組織としての細胞形態はほぼ良好に保たれていた.
電子顕微鏡像では, 星状細胞脚の膨化, リボゾームの数の減少, 膜の破綻などが認められたが.これらの破壊は, 比較的軽度であり神経組織は, 高度の変形を免かれ, 光学顕微鏡の所見とほぼ同意義の結果がえられた.
以上のような組織学的観察から, 47℃, 30分間という熱処理の脳切片に及ぼす影響は, その形態がほぼ保たれることから, 生理的範囲内の実験条件であり, その条件におけるアミノ酸摂取の変化を生理学的基準によって考察することが可能であると考えられる.さらに, 熱処理によるアミノ酸能動輸送の低下は, ニッスル小体の減少もしくはリボゾームの減少という観察との関連をもつことの可能性が示唆された.

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