昭和医学会雑誌
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Epidermophyton floccosumの動物に対する病原性について
村田 譲治
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1982 年 42 巻 2 号 p. 193-206

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抄録
人寄生性菌 (anthropophilic dermatophyte) であるEpidermophyton floccosumを用いて, 各種の動物接種実験を行い, 次の結果を得た.1) Hair baiting法によると, 人毛のみならず, 馬毛, モルモットの被毛にもよく発育したが, 毛幹には絡みつくだけで, 毛幹内に侵入する像はなかった.Nail baiting法でも人の爪によく発育した.このことはin vitroでは硬ケラチンにも腐生的に寄生することを示すものである.2) 接種した菌株については, 人から分離後日の浅い菌を液体振盪培養した菌株の方が寒天培地上に静置培養しておいた菌株より好結果が得られた.振盪培養では静置培養よりも総脂質の増加が少なく, また, 菌糸のみが集塊を形成し, 分生子を生じないことが好結果の原因と考えた.3) 幼若と成熟モルモットの接種実験では, 病勢の極期は成熟モルモットでは接種後12日目, 幼若モルモットでは接種後10日目であり, 接種後21日目では成熟モルモットの方が幼若モルモットより自然治癒しているものが多く, 成熟モルモットは感染し難く, 且つ感染するが早く治癒することが認められた.対照として行ったzoophilic dermatophyteであるArthoderma vanbreuseghemiiはanthropophilic dermatophyteであるEpidermophyton floccosumより感染力は強く, また被毛を侵すが, geophilic dermatophyteであるArthroderma uncinatumは感染性はなかった.4) 菌数では106コ/ml以上で感染が成立したが, 104コ/ml以下では感染が成立せず, 境界値は105コ/mlであると考えた.5) 犬に対する接種実験では, 犬はモルモットより病原性が強かった.Epidermophyton floccosumが犬より分離同定された報告があり, 犬に対する病原性の程度はより強いと考えた.以上, Epidermophyton floccosumはanthropophilicであるが動物にも条件によって寄生し得ることを確かめた.その際の条件として, 菌株は人から分離後日の浅い新鮮株が好ましく, 菌の調整は液体振盪培養菌の方が寒天培地上の静置培養菌より優れ, 菌数は105コ/mlの菌糸懸濁液より以上の濃度のものが必要であり, 動物はモルモットより犬によく接種せしめ得る.
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