最近, 固定組織標本について, 組織内浸潤リンパ球のT・B subpopulation分類が可能な染色法 (α-naphtyl acetate esterase: ANAE染色法) が開発された.筆者はSchlakeらの方法によりパラフィン包埋し, Horwitzらの方法により染色し, 皮膚組織内浸潤リンパ球の解析を試みた.この方法は反応時間が短かくてすみ, 鮮明な染色標本が得られる, という利点をもっている.対象疾患として, 老人性疣贅30例・30個, その他良性疾患22例, 悪性疾患20例, の皮膚組織片についてANAE染色を施行した. (1) 予備実験として, 末梢血標本について同染色法を施行し, 染色所見からT・T′・B・M patternが認められることを確認した. (2) 次いで, E-Rosette形成リンパ球はTpatternを示し, EAC-Rosette形成リンパ球はBpatternを示すことを確認した. (3) 老人性疣贅33個中, hyperkeratotictype12個とirritated seborrheic keratosis3個では, T patternを示すリンパ球が過半数を占め, acanthotic type 16個とadenoid type2個はB patternを示すリンパ球が過半数を占めていた.Tpatternを示すリンパ球については4型ともに近似した値を示した. (4) 悪性疾患ではほとんどの例がTpattern優位を示し, 特に治療前のcutaneous T cell lymphomaでは, 浸潤リンパ球の75%がTpatternであった.さらに, 表皮内浸潤リンパ球ならびに表皮に近いリンパ球ほどT patternが多い, という所見が得られた.治療後の同症では, リンパ球自体がほとんど消失し, 残存するリンパ球はBpattern優位を呈していた. (5) 良性疾患22例の平均では, 浸潤リンパ球の過半数がBpatternを示し, 良性皮膚腫瘍である老人性疣贅30例・33個の平均と近似していた.しかし, 良性疾患のなかでも, 顔面播種状粟粒性狼瘡はTpattern優位であり, それに反して環状肉芽腫では極端なB pattern優位を示した. (6) ANAE染色法では, すべてのTcellがTpatternを示すのではなく, helperTcellのみがTpatternを示す, との報告があり, また, false negativeの存在のため, 実際のTcellと思われるリンパ球の%は, すべての疾患において低値に表現されていると思われる.また, 各patternについての判断は難かしい場合があり, 各疾患の浸潤リンパ球の割合を%で表現することは, なお多少の難点があると思われる.皮膚疾患を良性疾患と悪性疾患に大別すると, 一般に良性疾患ではBpattern優位, 悪性疾患ではTpattern優位, との結論が導かれたが, これは先人たちの報告と一致している.ANAE染色法は, まだ本邦では一般化されておらず, 今後検索すべき問題点を残してはいるが, 皮膚組織切片において, 浸潤リンパ球のT・B cellの分布, 局在を知るうえで有用な手段であると考える.
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