昭和医学会雑誌
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肝硬変における血清胆汁酸の臨床の意義
田中 宣男斎藤 博文八田 善夫
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1983 年 43 巻 3 号 p. 359-365

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抄録
肝硬変の病態はその進行程度によって種々の様相を呈することが知られている.胆汁酸は肝で生成され, 胆汁中に分泌され腸肝循環を介して血中に移行するものと考えられている.今回著者らは, 当教室における肝硬変36例について, 空腹時血清総胆汁酸濃度および負荷後血清総胆汁酸濃度と, 血清総ビリルビン値, プロトロンビン活性, ICG15分停滞率とを比較検討し, さらに肝硬変に伴う, 脾腫, 食道静脈瘤, 腹水との相関性についても検討を加えた.さらにArea Under Curveおよび99mTcO4-による経直腸門脈シンチグラムで得られたshunt率と, 肝硬変の病態について検討した.従来いわれているように, 当教室の肝硬変症例についても, 空腹時血清総胆汁酸濃度は有意に高値を示し, また負荷後血清総胆汁酸濃度はより著明な高値を示した.肝細胞機能を反映すると考えられる血清総ビリルビン値ならびにプロトロンビン活性と, 空腹時血清総胆汁酸および負荷後血清総胆汁酸との相関を検討すると, いずれの場合も有意の相関性を認めた.一方, 肝硬変に伴う血流動態を示すマーカーとしての, ICG 15分停滞率, 脾腫および食道静脈瘤と, 空腹時血清総胆汁酸負荷後血清総胆汁酸の相関を求めると, この場合も極めてよい相関を示した.とくに脾腫の出現率は食道静脈瘤に先行して空腹時血清総胆汁酸濃度, 負荷後血清総胆汁酸濃度のいずれもが低値を示しても高値であった.肝硬変の血流動態を示す99mTcO4-による経直腸門脈シンチグラムによれば, 空腹時血清総胆汁酸, 負荷後血清総胆汁酸が高値を示す症例では肝に先行して心に99mTcO4-のとり込みが認められ, なかでもこのとり込みはArea Under Curve値と極めて高い相関を示すことが明らかになった.以上肝硬変の病態と総胆汁酸濃度を中心として生化学検査, 臨床症状, 血流動態との関連を検討したが, 空腹時血清総胆汁酸, 負荷後血清総胆汁酸のいずれもが肝硬変における肝細胞障害と血流異常を表わすマーカーとして価値あるものと認められた.なかでもArea Under Curveとshunt形成率とが極めて強い相関を示した.つまり胆汁酸の血中動態は肝細胞機能よりもshuntによって影響されることが大きい.さらに空腹時血清総胆汁酸と負荷後血清総胆汁酸は, 必ずしも同じ病態を反映するものとはいえず, 肝硬変の病態の進行とは負荷後血清総胆汁酸濃度がより高い診断的価値があると考えられる.
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