抄録
気胸の心電図に及ぼす影響は, 肺結核治療等における人工気胸においては多数例の報告があるが, 自然気胸例についてのまとまった報告は殆んど無い.著者は昭和54年より3年間に当科を受診した自然気胸40例について, 気胸の左右差・虚脱度・虚脱肺と胸郭との関係にて6群に分類し, 初診時全例に, うち24例では気胸寛解後に再度標準12誘導心電図を記録した.各誘導のQ, R, S, Tの波高, QRS電位, および平均心電気軸, 移行帯, RV5/RV6を測定し, 初診時各パラメーターは日本人正常心電図の値と比較し, 経過観察した例では気胸急性期と寛解後の各パラメーターを比較検討し下記所見を得た. (1) 全群共急性期に1誘導でR波, QRS電位の減少傾向を認め, 左右気胸共高度虚脱例ではIII誘導でR波, QRS電位の増大傾向を認めた. (2) 左右気胸共急性期にaVL誘導にて, 高度虚脱例ではQ波, 軽度虚脱例ではq波を認める事が多く, 寛解後に右側気胸では不変, 左側気胸では虚脱肺と胸郭側壁とが分離する例ではqまたはQ波が減高あるいは消失する傾向を認めた.また左側高度気胸で癒着合併例は寛解後にQ波の出現を認めた. (3) 胸部誘導では, 右側気胸で急性期にV5, V6誘導でR波, QRS電位の増大傾向を認め高度虚脱例は更にV1誘導でT波の増大, S波, QRS電位の減少傾向を認めた.左側気胸では急性期にV5, V6誘導でR, T波, QRS電位の減少傾向を認め, 高度虚脱群では更にV1誘導で, R, S, T波, QRS電位の増大傾向を認めた. (4) 平均心電気軸は右側高度虚脱例で急性期に右軸に偏位する傾向を認め, 左側高度虚脱癒着合併例は左軸に偏位した. (5) 左側気胸では急性期にRV5≦RV6となり寛解後正常のRV5>RV6の関係に復する傾向を認めた. (6) 移行帯は左側気胸で急性期に左方に移動する傾向を認めた.以上自然気胸の種々病態において従来注目されていない若干の診療上有用と思われる心電図変化を見出した.