抄録
従来, 若年者胃癌は進行が速く, 予後不良とされており, その臨床病理学的特徴については過去に多数の報告がみられる.しかしながら, 諸家の意見が一致しない点もみられ, 統一的見解に至っていないのが現状である.そこで今回, 若年者胃癌の臨床病理学的特徴および遠隔成績を知るに当り, 高齢者胃癌とを比較検討した.著者らが過去20年間 (1961~1980) に取り扱った入院初発胃癌患者総数1, 335例のうち, 29歳以下の若年者胃癌50例 (3.7%) および70歳以上の高齢者胃癌224例 (16.8%) を検討の対象とし, 以下の結果を得た.男女比は若年者胃癌1: 1.5, 高齢者胃癌2.6: 1と若年者胃癌には女性が多く, 19歳以下の4例は全例女性であった.女性若年者胃癌の26.7%に妊娠との関連がみられ, 遺伝的背景に関しては若年者胃癌と高齢者胃癌の問に差を認めなかった.若年者胃癌の臨床的特徴としては, 初発症状, 主訴ともに比較的急激な症状を呈する症例が多く, 心窩部痛が最も多く, 次いで悪心・嘔吐, 貧血, 吐血などであった.病悩期間の平均は11.8か月で高齢者胃癌より長い傾向にあり, 病悩期間3か月以内が30%と, 高齢者胃癌 (48.7%) との間に差がみられ (p<0.02) , 若年者胃癌では受診の遅れがみられた.また, 切除率および治癒切除率はそれぞれ72.3%, 44.7%であり, 高齢者胃癌との間に差はみられなかった.若年者胃癌の切除胃の病理学的特徴としては, 肉眼所見では表在癌は陥凹型が多く, 進行癌ではBorrmann III, IV型が多く (全体の61.8%を占める) , 占居部位はM領域が52.9%と多かった.組織学的所見では高齢者胃癌に比べて, 組織型は低分化型 (76.5%) , 問質量はscirrhous type (35.3%) , INFはγ (70.6%) , 深達度はps (+) (70.6%) , stage III・IV (79.4%) の頻度が高く, 間質量, INF, 深達度で有意差がみられた.これら病理組織学的特徴の背景には, 若年者胃癌と高齢者胃癌の組織発生の場の相違が深く関与していることが示唆された.n (+) は高齢者胃癌との問に差はないが, n3 n4が若干多い傾向にあり, 脈管侵襲には差が認められなかった.若年者胃癌では腹膜播種性転移を起こしやすく, 開腹時にP1以上が47例中19例 (40.4%) にみられ, しかもP2, 3の高度な症例がその89.5%を占めた.これは若年者胃癌には低分化癌, INFγ, ps (+) 症例が多いのに関係が深いことが推測される.遠隔成績を相対生存率でみると, 5年生存率は全切除例で48.9±19.6%, 治癒切除例で75.8士22.2%と比較的良好な成績が得られ, 高齢者胃癌との間に有意差はみられなかった.若年者胃癌では病理組織学的には悪性度, 進行度の高い症例が多くみられるが, 特に治癒切除例では長期生存も可能であるとの結果が得られた.若年者でも胃癌の存在を念頭に置いてapproachし, 早期発見および治癒切除を心掛ければ遠隔成績の向上が十分期待できるものと考える.