昭和医学会雑誌
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脳神経外科手術におけるフィブリン糊―TISSEEL―の応用
第一報基礎
藤本 司福島 義治三上 博輝桜井 昭
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1984 年 44 巻 1 号 p. 83-89

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抄録

フィブリン糊, TISSEELはヒトフィブリノーゲンを主成分とした生体組織接着剤である.フィブリノーゲンを線溶阻害作用をもつアプロチニン液で溶解し, トロンビン・カルシウム液と混合して用いるため, 止血作用もあわせもっている.脳神経外科手術への接着剤の応用は早くから試みられていたが, シアノアクリレートを中心とする今までの接着剤には種々の問題があり, 限られた範囲内においてのみ使用されていたにすぎない.TISSEELの臨床応用に先立ちin vivoでの基礎研究を行った.研究I: まず白色家兎の脳硬膜と大腿筋膜とをTISSEELで接着させ, その接着力の経時的変化をみたところ, 1分後で髄液圧に, 5分後では動脈圧にも十分耐えうることが明らかとなった.この結果をふまえ, 白色家兎20羽の頭の両側に骨窓を設け, 一側では硬膜に硬膜片をのせ, 他側では硬膜切除後露出したクモ膜上に各々TISSEELを塗布し, 一カ月後まで経時的に組織変化を観察した.一週間後にも尚, TISSEELは残存しており, 接した硬膜間には新生血管も出現しており組織性の癒合がみられた.一カ月後には両者の間は境界が明らかではなくなってきており, 髄液漏はみられなかった.クモ膜上に塗布した例ではTISSEELによる脳組織の障害作用は認められなかった.研究2: ラット35匹を用い頸動脈 (直径0.8~1.0mm) および大腿静脈 (直径1.0~1.2mm) を切断した後, TISSEELを用いて吻合術を行い, ニケ月後まで経時的に組織変化を観察した.血管を切断した後相対する二ヵ所を縫合し, 縫合糸を牽引して断端を合わせた後, TISSEELを塗布し, 動脈では5分, 静脈では3分後に血行を再開させた.動脈では全例開存, 静脈では3例で閉塞していた.2週間から1カ月後に治癒像がみられた.動脈では弾性線維が密な網状構造をなし, 両断端間にしっかりした肉芽形成がみられた.血管内腔への突出はなく血栓形成もみられず, 肉芽組織もほとんど断端間をうめる範囲にとどまっていた.静脈の場合には肉芽組織は極めて少く, 接着部も平滑で血栓形成はみられず, 吻合部を識別出来ぬほどの治癒像を呈していた.TISSEELは水分を軽く拭った程度で十分接着し, 凝固後も弾性があり, 組織反応も少く毒性も認められずに, 脳膜や, 血管の再建や修復に十分使用しうることが明らかとなった.

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