昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
Print ISSN : 0037-4342
ISSN-L : 0037-4342
下肢アライメント異常を伴う変形性膝関節症における脛骨面の傾斜の意義について
―矯正骨切り術による臨床的効果とX線学的変化について―
中根 惟武
著者情報
ジャーナル フリー

1984 年 44 巻 5 号 p. 587-596

詳細
抄録

膝関節に変化をきたし, それを進行させる大きな要因の一つに, 下肢アライメントの異常がある.このアライメントの異常を伴う, 変形性膝関節症において, 高位脛骨骨切り術 (以下H.T.Oと略す) によって, アライメントを矯正しようとする試みが, 多くの諸家によって行われている.著者も, 1975年以降, 内側型変形性膝関節症に対し, 積極的にH.T.Oを行っている.これらの自験例について, 術後の新らたなアライメントが, 膝関節に与える臨床的効果と, X線学的変化を研究すると共に, 脛骨面傾斜の変化との関連を検索, 研究した.下腿軸に対する脛骨面の傾き角度Tibial Plateau Angleto Tibial Axis (T.P.A-Aと略す) と片脚起立時の床と脛骨面との傾き角度Tibial Plateau Angleto Floor (T.P.A-Fと略す) をH.T.O症例における, 術前 (117膝) 術後 (83膝) X線写真より計測した.そして, F.T.A並びに, 臨床成績との関連を検索した.T.P.A-Aは, 術前, 術後共に, F.T.Aと負の相関関係にあった.又, 大腿骨軸傾斜角度は, F.T.Aにかかわらず, ほぼ81度に一定していた.この事より内側型変形性膝関節症における, 下肢アライメントの異常は, 脛骨面の傾斜異常に由来していることが多いことを意味している.T.P.A-Fは, 術前, 術後共に, F.T.Aと関係なく, ほぼ+3~+5度に一定していた.H.T.O手術症例中86%に, 臨床的有効性が認められたが, 臨床評価優群におけるT.P.A-Aは, +3.5±0.95であり, 可, 不可群とは, 明らかに有意の差 (P<0.01) が認められた.そして, 臨床評価優群における, T.P.A-AとT.P.A-Fの関係は, 0~+10の範囲において, 正の相関関係があった.この事は, T.P.A-AとT.P.A-Fの値の差が小さい程, 歩行に際し重心側方移動も少なく膝関節において, 安定性を獲得しうる事を意味すると考えた.F.T.Aによる矯正角度 (y) とT.P.A-Aによる矯正角度 (X) は, よく相関関係にあり, y=0.69+1.00x±2.089であった.この事は, 内側型変形性膝関節症においては, T.P.A-Aのみの計測にても, 矯正角度の決定は, 可能と考えられた.しかしながら膝関節脛骨亜脱臼症例, 膝関節屈曲拘縮などのための不正確なF.T.A計測症例, 脛骨面の前額面以外での変形症例においては, 矯正不足となり注意を要すると考えられた.以上の研究の結果, 内側型変形性膝関節症においては, 脛骨面の傾斜異常が下肢アライメント異常の最も大きな要因となっており、, 脛骨面の前額面での矯正により, 臨床的効果並びにX線学的効果を十分に期待できることがわかった.

著者関連情報
© 昭和医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top