昭和医学会雑誌
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剖検糖尿病例における顎下腺の組織学的検討
増野 純浅沼 勝美高島 功
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1984 年 44 巻 5 号 p. 627-635

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抄録

膵臓と唾液腺は特にその機能において類似性があるが, 糖尿病における唾液腺の研究は少ない.ある疾患についての臓器相関という立場から, 糖尿病剖検例を用いてその唾液腺, この度は顎下腺の病理組織学的検索を行なった.
当教室において1972年から1981年の10年間に病理解剖された症例を用い, その内臨床診断に糖尿病と記されてあるもの, さらに剖検による膵臓および腎臓などの病変から糖尿病と診断された計69例について, まず病理解剖からみた糖尿病の死因を含めた一般状況, 膵臓, 腎臓, 心臓の病理学的所見, 次いで顎下腺の病理組織学的変化, さらに顎下腺と他臓器との病変の関係などについて検討を行なった.
糖尿病の一般的状況および他臓器と顎下腺病変との相関は認められない.次に非糖尿病解剖例を対照として, 臨床的または剖検後病理形態学的に糖尿病と診断された症例の顎下腺の組織学的所見を要約すると, 腺房の萎縮と腺房上皮細胞の変性は恒常的にみられ, 導管も拡張しているものが多くエオジンに染る物質, さらに石灰物質を大多数に認める.また間質には円形細胞浸潤と導管および血管周囲の線維増殖がみられ, この線維増殖は巣状, 限局性に腺房をまきこみ実質構造の破壊が認められている.さらに太い動脈の硬化性変化の他に小または細動脈は硬化性変化のために目立って数が多くみられ, 一部は糖尿病性血管障害様病変も認められる.顎下腺における病理組織学的所見の非糖尿病例と糖尿病例との比較検討では, 糖尿病症例は顎下腺実質の障害による結果として, 線維化と唾液流通異常がみられ, 他方これに加えて細小動脈の硝子様硬化性病変が認められる.
すなわち, 剖検糖尿病症例における顎下腺の形態学的検討から, 糖尿病という病態であるインシュリン欠乏ならびに高血糖状態によって顎下腺に病変, すなわちそれらの進展如何では慢性炎症性病変または線維化による慢性硬化性病変が認められるものと推論する.

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