昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
Print ISSN : 0037-4342
ISSN-L : 0037-4342
大動脈硬化の計測的研究
―癌と動脈硬化の関係―
牧角 裕
著者情報
ジャーナル フリー

1984 年 44 巻 5 号 p. 637-648

詳細
抄録

大動脈領域における動脈硬化の程度を調べるために, 大動脈を起始部から総腸骨動脈分岐部迄を取り出し, ムシピンを用い伸展固定した.次にそれをモノクローム写真および, 超軟レントゲンを用いて粥腫領域, 石灰化領域, 潰瘍領域を明確にし, それをトレースした.トレースしたものを, 画像解析システム (MOP) にかけ, 各々の面積を測定した.大動脈内腔の面積は年齢, 性別また体格によりかなりの面積の差があるために, 大動脈内腔面積における粥腫領域, 石灰化領域, 潰瘍領域の大動脈の総面積に対する占有率をパーセントで表わした.全症例174例について癌症例群と非癌症例群にわけ, 両群の動脈硬化の程度の比較を行った.更に動脈硬化促進因子といわれている高血圧症, 糖尿病, 高脂血症の既往の有無を調査し, それが動脈硬化の程度に影響を示しているか否かも検索した. (1) 男女の大動脈内腔総面積は平均値170.73cm2であった.男性の平均は187.56cm2, 女性の平均は166.56cm2であった.最大値は73歳男性の268.16cm2で, 最小値は68歳女性の106.07cm2であった. (2) 相対的に癌群と非癌群の動脈硬化の程度を比較すると, 全体としてみれば非癌群の方が明らかに動脈硬化の程度が強かった. (3) 加齢による動脈硬化の進展の程度を男女で比較した場合, 非癌両群とも, 60歳以上の高齢者では男性の方が重症例が多かった.また非癌症例群では男女共に非常に個人差が強く特に粥腫に関しては明確な傾向がっかめなかった. (4) 促進因子 (高血圧, 糖尿病, 高脂血症) の有無で比較した場合, 癌, 非癌群の男女共に促進因子の既往を有した群が, 持たなかった群より明らかに動脈硬化の程度が強かった. (5) 癌群, 非癌群を原発巣あるいは主病巣で分類し, 疾患別で比較してみると, 癌群の中では, 肺癌例の動脈硬化が特に強くみられた.著者の研究では胃癌例でも動脈硬化が強かった.Elkeles (1959) , 塩沢 (1959) らと同じ結果は得られなかったが, この胃癌例21名の平均年齢が70.95歳と他の疾患群の平均年齢よりかなり高かったため, 加齢の要素が加わったことが考えられる.肺癌例, 胃癌例に比較すると乳癌, 大腸癌, 骨髄及びリンパ節の悪性腫瘍, 肝癌では, 平均すれば動脈硬化の程度は軽度であった.非癌群の中で疾患別比較をすると, 心疾患, 腎疾患に特に強い動脈硬化がみられた.心疾患, 腎疾患共に脈管系の障害 (動脈硬化も含む) が全身的な影響として大動脈にも反映しているものと思われる.

著者関連情報
© 昭和医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top