昭和医学会雑誌
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単純ヘルペスウイルスのマウス経鼻感染による脳炎の発症機序
滝本 雅文
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1985 年 45 巻 2 号 p. 287-299

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抄録
単純ヘルペスウイルス1型 (HSV-1) を経鼻的にマウスに感染させ, 主として嗅覚経路からのヘルペス脳炎の発症機序を, ウイルス抗原の検索を行い病理組織学的およびウイルス学的に検討した.4週齢および12週齢の雄のDDDマウスの鼻腔内に, 無麻酔下でHSV-1型をそれぞれ高濃度 (2×104pfu/mouse) および低濃度 (2×103pfu/mouse) のウイルス量を滴下して接種し4群に分けた.4週齢高濃度群では7日間にわたり鼻腔組織, 脳, 三叉神経節を採取し, 10%緩衝ホルマリンで固定し免疫螢光法 (IF) 間接法で抗原を検索し, 同一切片をさらに酢酸処理後, HE染色をして対比した.肺, 心臓は採取後, 凍結切片を作製しIF直接法を行った.残りの3群では, 経時的に90日目まで同様の方法で検索した.また, ウイルス分離を各群で経時的に行った.嗅球, 大脳, 脳幹部, 三叉神経節を取り出しそれぞれ10%乳剤を作製し, ヒトの胎児肺線芽細胞を用いて細胞変性効果を観察し陽性のものは塗抹標本を作製しIF直接法で抗原を検出し同定した.臨床的には, 4週齢高濃度群では接種4日で立毛やうずくまりがみられ6日目で大部分が死亡した.ウイルスの分離は接種3日で嗅球と三叉神経節および脳幹部にみられ4日目以降では大脳からも分離された.ウイルス抗原は接種4日で嗅上皮, 嗅球, 三叉神経節, 延髄, 橋に検出され, 病理組織学的には嗅上皮にびらんの形成, 嗅球, 三叉神経節では炎症像と共に神経細胞の変性と核内封入体がみられた.5日目以降では病変は中枢に向かい広汎に進展した.また, 接種5日で, 心, 肺の神経組織に限局してウイルス抗原が検出された.他の各群では経時的な差はみられるがほぼ同様の所見が得られた.しかし, 12週齢低濃度群ではウイルス分離もウイルス抗原の検出もされなかった.以上の結果から, 初感染での脳炎の急性発症の経路として嗅覚系と三叉神経節などの末梢神経からの神経経路が考えられるが, 延髄, 橋での病変の方が著明で嗅覚系以外の末梢神経を介して直接中枢に達する経路が主要なルートではないかと示唆された.また, ウイルス接種後3週目に分離されたウイルスのDNAを制限酵素により切断し分子生物学的に検討したところ, 接種ウイルスと分離されたウイルスのDNAの泳動パターンは数ヵ所で異なっていた.この新しい知見は, in vivoにおける感染様式の解析には病理形態学的な解析だけでなくウイルス側からの解析も必要であることを示唆している.
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