臨床で常用されている胆汁酸塩と三環系抗うつ薬の膜作用を単離肝細胞と赤血球とを用い, 生化学的な面と電顕を用いた形態学的な面から検索し, それらの関連性を検討した.動物は, 体重150g雄性SD系ラットを用い, ラット単離肝細胞はCollagenaseによる再灌流法により作成した.薬物の肝細胞障害作用は単離肝細胞からの酵素の逸脱 (glutamic oxaloacetic transaminase: GOT, lactate dehydrogenase: LDH) 活性を赤血球膜作用は, 低張性溶血 (50%溶血) を指標とした.薬物は, 胆汁酸塩 (chenodeoxycholic acid: CDCA, ursodeoxycholic acid: UDCA) , 三環系抗うつ薬 (chlorimipramine: CIM, imipramine: IM) の4種を用い, 薬物濃度は, 1×10
-5Mから10
-3Mとした.電顕は, 走査型電子顕微鏡 (scanning electron microscopy: SEM) と透過型電子顕微鏡 (transmission electron microscopy: TEM) とを使用し, 電顕試料は, 常法に従い作成して, 赤血球はSEMで, 単離肝細胞はSEMとTEMで観察した.CDCA, CIM, IMに於ては, 赤血球低張性溶血試験で, 低濃度側では溶血阻止, 高濃度側では溶血促進がみられたが, UDCAに於ては, あまり変化はなかった.一方, 肝細胞障害では, CIMの2×10
-4Mから, IMでは4×10
-4Mから酵素逸脱がみられ, 1×10
-3Mで最大逸脱となり, CDCAでは4×10
-4Mから酵素逸脱がみられ, 1×10
-3Mで最大となり, UDCAでは, 高濃度に於ても酵素逸脱は認められなかった.CDCA, CIM, IMでは溶血を起し始める濃度と肝細胞からの酵素逸脱を起し始める濃度とは, ほとんど一致していた.形態学的変化に関して, 赤血球溶血に於けるSEM像では, CDCAとUDCAの低濃度でechinocyteの混在が, CIMとIMでは, stomatocyteが, 高濃度に於ては, UDCA以外でghostがみられ, 溶血阻止最大濃度では, 直径の減少と形態変化の軽度化がみられた.単離肝細胞に対しては, 細胞表面のmicrovilliの消失, 突出像, 細胞崩壊像などの変化が薬物濃度依存的にCIM>IM, CDCA≫UDCAの強さの順としてみられた.TEMでは, 細胞膜の膨化, 断裂, 細胞内小器官の変性崩壊, 特にmitochondriaの膨化, 変性とcristaeの消失, cytoplasmの流出, 大小種々の空胞化等の変化が, CIMでは2×10
-4Mから, IMとCDCAでは4×10
-4Mからみられ, UDCAではこれらの変化は弱かった.以上の結果より, これら薬物の赤血球に及ぼす影響と単離肝細胞に対する直接的な障害作用は, 濃度に関連して増加し, 両者の膜作用の相関性は, 生化学的変化と同様に形態学的な面からも裏付けられた.
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