昭和医学会雑誌
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Rat脳MAO活性に対する60Coγ線の影響
後閑 武彦
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1986 年 46 巻 2 号 p. 279-283

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抄録

脳内活性アミン類及びMAOに及ぼす放射線の影響を知るため, ratに60Coγ線を照射し, MAOの活性変化を中心にcatecholamine濃度の変化を調べた.雄性ratに60Coγ線を500rad, 1, 000rad及び2, 000rad1回全身照射し, 照射直後, 1時間後, 2時間後, 3時間後に全脳を取り出し材料とした.Ratは, 500rad照射群, 1, 000rad照射群, 2, 000rad照射群とも12匹ずつ用い, 対照群は一群3匹とした.MAOの基質はserotonin, tyramine, β-phenylethylamine (β-PEA) をそれぞれ20μMの濃度で使用した.活性アミンは液体クロマトグラフィーを使用して, dopamine, noradrenalineの濃度を測定した.500rad及び2, 000rad照射群においてはMAO活性の有意な変化はみられなかった.1, 000rad照射群においてはMAO活性は照射直後より3時間にわたって上昇した.Dopamine及びnoradrenalineは1000rad照射群においても有意な濃度の変化は認められなかった.これは1, 000rad照射により脳内MAO活性は上昇し, catecholamineの分解は高まったが, 2次的にcatecholamineの合成も高まったため, みかけ上はcatecholamine濃度が変化しなかったものと推察される.また1, 000rad照射群におけるMAO活性の上昇は, MAO-Bに特異的な基質であるβ-PEAを使用したときでは, MAO-Aに特異的な基質であるserotonin及びMAO-AとMAO-Bの両者の基質であるtyramineを使用したときより著しい活性上昇を示した.これは酵素そのものの感受性の差以外に酵素周囲の環境の違いも考えられる.すなわち, MAO-Bはミトコンドリア外膜の表面に近い親水性の部分に存在しているために, 外膜の中央部に存在していると考えられているMAO-Aに比べて, 放射線の間接的な影響を受けやすいと考えられる.いずれにしても, 60Coγ線1, 000 rad 1回照射によりrat脳中のMAO活性が大きく変化したということは, 放射線感受性が一般的に低いと考えられている中枢神経系においても1, 000rad程度の放射線照射により中枢神経活動に何らかの影響を与える可能性を示唆するものである.

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