昭和医学会雑誌
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身体トレーニングが肺ガス交換に及ぼす影響
野村 武男
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1986 年 46 巻 3 号 p. 365-376

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抄録

身体トレーニングが肺ガス交換, 特に肺拡散能力 (DLCO) にどのような影響を及ぼすかを明らかにし, さらに最大運動時におけるDLCOが運動制限因子になり得るかについて検討した.15~16歳の男子被験者5名に12週間 (6日/週) の持久持性トレーニングを課し, 体組成 (脂肪量, 除脂肪体重) , 心容積, 肺機能 (肺活量, 一秒量, 一秒率, 最大中間呼気流量, 最大換気量, DLCO) そして運動時における生理的反応とVO2maxを測定した.さらに運動時のガス交換 (A-aDO2) を男子陸上選手5名 (18~21歳) と比較した.皮脂厚値から計算された体脂肪率, 心容積についてはトレーニング前, 後で有意な変化はみられなかった.肺機能では安静時最大換気量を除きトレーニングによる影響はなかった.運動時におけるDLCOはVO2の増大に伴い直線的に増大した.最大DLCOは35.1から39.2ml/mmHg/minと増大したが有意ではなかった.VO2maxは0.671/min (29%) 増大した.最大下運動時におけるA-aDO2の動態を運動群と比較してみると, 肺胞気02分圧 (PAO2) は安静時を除き両群とも同様の傾向を示した.動脈血02分圧 (PaO2) は両群とも有意な差はみられなかったが, VO231/min付近では運動群の81.7±3.2mmHgに対して非運動群は77.1±4mmHgと有意に低値を示した.A-aDO2はVO211/min付近で両群とも安静時と比較して下がり, VA/Qcの改善が示唆された.その後VO2の増大に伴い増大し, 最大値で運動群平均22.3, 非運動群29.6mmHgと両群とも有意に拡大しPaO2の低下と相まり, 換気系には大きな負担となっていることが示された.運動によるPAO2上昇, PaO2低下によるA-aDO2拡大には換気血流比の不均等分布, Shunt (QS/QT) , 拡散障害が考えられる.運動による換気血流比はより改善され, Shunt率も低下することから残りの因子としての拡散障害の関与が示唆された.以上の結果より, 12週間にわたる身体トレーニングが有酸素的作業能の決定因子である除脂肪体重, 心容積には影響を及ぼさなかった.肺機能では安静時最大換気量が増大したがDLCOにおいては安静時, 運動時とも有意な変化はみられなかった.このことはDLCOが発育に伴い増大するがトレーニングの影響はみられないことを示唆するものである.非運動群の最大運動時における, A-aDO2はPaO2の低下 (平均14.3mmHg) と相まり拡散制限の関与が示唆された.

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