昭和医学会雑誌
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ムラミルジペプド及びその誘導体の感染防御作用
有泉 雅博南雲 昇木村 賀津子大久保 幸枝小松 信彦
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1986 年 46 巻 3 号 p. 383-389

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抄録

細菌細胞壁成分のアジュバント活性を示す最小構造単位であるmuramyl dipeptide (MDP) 及びその誘導体muramyl dipeptide-stearoyllysine〔MDP-Lys (L18) 〕を用いて, マウスの実験的感染症に対する感染防御効果及びマクロファージ活性化作用について実験を行なった.人型結核菌の0.5~1mg/mouse量を静注し, その翌日からMDP及びMDP-Lys (L18) の0.4mg/kgを隔日10回皮下注射することにより, ある程度の延命効果が認められたが, その効果はMDP-Lys (L18) のほうがすぐれていた.その際肺内生菌数の推移を算定すると, MDP投与群においては対照群との差が見られなかったが, MDP-Lys (L18) 投与群では肺1g当たりの生菌数が著明に抑制されていた.病理組織学的所見では, 対照群とMDP群では滲出壊死型の肺病変を示すマウスが多かったが, MDP-Lys (L18) 群では増殖肉芽腫型組織反応の傾向を示すマウスが多かった.また結核菌感染後21日目にPPDを用いてfootpad法で遅延型過敏症反応の強弱を比較したところ, MDP群, MDP-Lys (L18) 群ともに対照群よりも反応が増強していたが, MDP-Lys (L18) 群の増強が最も顕著であった.結核菌以外の諸種細菌に対する感染防御効果は, ブドウ球菌と大腸菌の場合に最も著明で, その他の細菌に対する効果は弱いか, または認められなかった.次に, 薬剤を投与してから24時間後に採取した腹腔マクロファージについて, Candida parapsilosisに対する増殖阻止活性を調べたところ, MDP4mg/kg投与の場合は対照マクロファージの約8倍, MDP-Lys (L18) 投与では約20倍の活性上昇が見られた.一方, 正常マウスから採取したマクロファージまたはマクロファージ系細胞株 (J774.1株) にin vitroでMDPまたはMDP-Lys (L18) を直接作用させた場合は, 増殖阻止活性の上昇が見られなかった.また, MDP及びMDP-Lys (L18) をBALB/c系マウスの腹腔に投与したのち, 経時的にマクロファージを採取してそれらの活性酸素放出能を化学発光 (CL) 法で測定した.その結果, MDP投与群では注射2日後に採取したマクロファージにCL値の増大が認められ, MDP-Lys (L18) 投与群では3日後のCL値が最高であった.この場合も, MDP-Lys (L18) を投与したほうがMDPよりも強いマクロファージ活性化作用を示した.以上の結果から, MDP及びMDP-Lys (L18) は多形核白血球の機能を促進するだけではなく, マクロファージの機能をも増強することによって感染防御作用を発揮するものと思われる.

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