抄録
〔目的〕膝蓋骨の軟骨変性の要因を考察すべく本研究を行った.〔方法〕検体はホルマリン固定した膝蓋骨, 男67個, 女48個, 計115個, 年齢は39歳から93歳, 平均65歳, 左右別は右56個, 左59個であった.軟骨変性の分類は粗〓面, ビロード状化, 軟骨欠損, 辺縁隆起とし, 膝蓋骨軟骨面は解剖学的に認められるものを基準に7区画に分割し, 膝蓋骨形態より内側関節面 (medial facet) と外側関節面 (lateral facet) がほぼ同じ大きさのA群, 内側関節面が外側関節面より小さいB群, 第三関節が明確なC群と3つの型に分類し, 区分別に軟骨変性を観察した.軟骨の厚さの計測は軟骨変性の少ない膝蓋骨を20個選び, ポリエステル系樹脂で加温固化後スライスし, 内側関節面と外側関節面の軟骨最大厚を計測し, 軟骨の厚さを等高線図で表わした.また軟骨の厚さと軟骨下骨の形態との関係を調べ, 軟骨下骨の形態分類から区分別の軟骨変性を観察した.〔結果〕1) 軟骨変性の肉眼的観察結果は粗槌面が97%, ビロード状化が27%, 軟骨欠損が32%, 辺縁隆起が26%みられ, 性, 左右別との相関はなく経年的に増加する傾向がみられた.区分別にはA群B群C群ともに軟骨欠損は内側関節面基部に多く, 辺縁隆起は内側関節面尖部とC群の内側稜に多く, A群はB群C群に比べ軟骨変性は少なかった.2) 軟骨の厚さの計測結果は内側関節面最大厚平均3.24±0.67mm, 外側関節面最大厚平均3.68±0.38mmと外側関節面が厚かった.軟骨の厚さと軟骨下骨形態との関係から中央型: 外側関節面中央部から正中稜にかけて軟骨が厚く, 外側関節面の軟骨下骨が緩やかに陥凹しているもの, 外側型: 外側関節面の外側の軟骨が厚く, 外側関節面の軟骨下骨が外側中心に急峻に陥凹しているもの, 辺縁型: 外側関節面の外側辺縁の軟骨が厚く, 外側関節面の軟骨下骨が直線的なものという形態上の特徴がみられた.3) 軟骨の厚さ及び軟骨下骨の形態分類と軟骨変性との関係は中央型は軟骨変性が少なく, 外側型はビロード状化が48%, 軟骨欠損が48%と多く, 辺縁型は辺縁隆起が41%と多くみられた.膝蓋骨の軟骨変性は様々の因子が重なり形成されると考えられるが, 加齢, 膝蓋骨形態, 軟骨の厚さ及び軟骨下骨の形態等は変性の要因の一つであると考えられた.