抄録
骨格筋の機能分化に伴う形態進化の状態を探るために, ヒトで直立二足歩行に重要な関わりを持つ下腿三頭筋と足底筋について, ヒトとサルの筋形態および筋線維構成を比較検討した.研究対象ならびに方法: 研究対象は10%ホルマリン注入, 固定の成人10例 (男性6, 女性4) とカニクイザル成獣12例 (雄4, 雌8) から得られた右側の下腿三頭筋と足底筋である.研究対象の下腿三頭筋の各頭ならびに足底筋について, 重量, 長径幅径, 周径等31項目の計測を行い, 相対値によってヒトとサルを比較した。一方, 各頭および足底筋から, 最大筋幅部の筋横断片を採取し, 切片とし, H.E.染色を施して筋線維の観察を行い, ヒトとサルのそれぞれの比較検討を行った.結果: 1) 筋の外形については, 下腿三頭筋はサルではヒトに比べて, 長径では各頭とも筋長は長く1腱長は短く, この傾向は外側頭で著明であった.また, 幅径ではサルは内側頭と外側頭, ヒラメ筋, 足底筋の順に大で, おのおのの間の差は小であったが, ヒトはヒラメ筋が最も大で, 以下同順で, おのおのの問の差は大であった.重量は腓腹筋ではサルの方が, ヒラメ筋ではヒトの方がそれぞれ大であった.足底筋は筋重量を含めた全測定値において, サルのほうが大であった.2) 筋線維構成については, ヒトのヒラメ筋は筋腹横断面積, 筋線維総数, 筋線維の太さにおいて, 他筋より大きな値を示し, 特に筋線維の太さでは外側頭や足底筋の約4倍であった.これらはサルでは外側頭が最も大きな値を示した.1mm2中の筋線維数はサルでは各頭間の差はみられなかったが, ヒトでは足底筋と外側頭, 内側頭, ヒラメ筋の順に多く, 高い有意差が認められた.これは筋線維の太さと関連し, その順に筋線維の退縮が強いことが考えられた.一方, 筋線維の太さの分布型からヒトのヒラメ筋は筋線維の大小の差が著しく, 他に比べて老年に至るまで活動性を保つ筋であると考えられた.