昭和医学会雑誌
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TISSUE EXPANSIONによる皮膚表面性状の変化
堀 茂
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1987 年 47 巻 6 号 p. 871-881

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抄録
ティシュエキスパンダーの臨床的価値が認められつつある一方, その臨床的研究は未だ報告が少ない.今回著者はシリコンレプリカという生体に侵襲のない方法で, エキスパンダーによる組織伸展のメカニズムを皮膚レリーフの面から観察した.症例は10例で6部位レプリカは25箇所で採取した.10例の内訳は男6例女4例, 年齢4~27歳 (平均17.3歳) であった.埋入するエキスパンダーの形状, 個数および大きさは切除予定部位の大きさによって決定した.埋入部位は切除予定部位の隣接部とし, 頭部では骨膜上, 体幹四肢では筋膜上とした.注入間隔は5日間~7日間で, 1回注入量はおよそ容積の10パーセントとした.埋入期間は1か月半~2か月で週1~2回の注入で目的とする容量に達するようにした.充分に膨らんだところで病変部を切除し, 皮膚が欠損した部分をカバーした.
皮膚表面のレプリカは最も伸展される中央とその周囲をとった.採取時期は, エキスパンダー埋入前 (埋入予定部位) , 埋入直後, その後は週一回ないし二回の注入前と直後, そしてエキスパンダーを除去し病変部を切除し, 被覆した術後6か月のレプリカをとった.それぞれのレプリカを実体顕微鏡下に20倍の写真をとり観察に使用した.その結果, 埋入前の皮溝, 皮野は鮮明で網目状に整っていた.注入を開始すると注入直後では皮野は一時的に拡大するが, 1週間後にはある程度縮小した.この過程をくりかえし皮野は埋入前に比して徐々に拡大していった後, 皮溝, 皮野は一定方向に流れ, 消失した.この時点で病変部を切除し皮膚欠損をカバーした.その6か月後には皮溝皮野は埋入前に復していた.前額部では埋入後, 皮野は早期より拡大した, 腹部では皮野の拡大は緩徐であった.四肢では両者の中間位であった.女子は男子に比べ皮溝皮野は長期に保たれた.以上より, 注入後, 一度浅くなった皮溝がある程度その深さを回復するということは, 真皮がその凹凸を回復したものと考えられる.1週間毎に注入を重ねてゆくと皮溝は浅くなり, やがてその深さを回復することができなくなる.この時期に病変部の切除と被覆がなされる.皮膚を安全に延ばすことができるのはこの時期までであると考えられる.その後6か月を経過すると, 一度完全に凹凸を失った真皮は形態を取り戻すと考えられ, 表面のレリーフは伸展前のものに復する.インフレーションすることにより, エキスパンダー上の組織をより有効に伸展させるためには, 前額部頭部などのように皮下に硬い組織がある部位の方が有利であると考えられる.男女差については妊娠能力との関係, hormonalな反応などが推測された.そして, この研究により, 1) Textureに関する本療法の有効性, 2) 下床の硬さによる部位的違い, 3) 伸展能力の男女差を確認した.
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