昭和医学会雑誌
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肝性昏睡に対する活性炭血液灌流と血漿交換の臨床効果について
中嶋 真太田 秀男
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1988 年 48 巻 3 号 p. 335-341

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抄録

肝性昏睡の発生機序については未だ解明されていない.一般には肝臓の代謝障害により脳への中毒物質の増加と必須物質の欠如とによるとされている.肝性昏睡を伴う肝硬変患者では, 血中遊離アミノ酸のうちフェニールアラニン, チロシンなど芳香族アミノ酸 (AAA) が正常の2~3倍に増加している.一方分枝アミノ酸 (BCAA) であるバリン, ロイシン, イソロイシンは正常の1/2に低下している.指標としてはMolar-ratio (MR, BCAA/AAA) を用い, 1.0以下になると肝性昏睡が出現するとしている.劇症肝炎ではBCAAは正常でAAAが5~7倍と著しく増加するため, MRは低下し肝性昏睡が出現するとしている.今回われわれは肝性昏睡26例に活性炭血液灌流 (CHP) と血漿交換 (PE) を施行し, 両者の治療による臨床効果について比較検討した.アンモニアは2倍程度の高値を示していたが正常範囲の症例もあり, またNEFAも一定の傾向はなく, 肝性昏睡の原因とは考えにくかった.CHP施行前後では総ビリルビン, アンモニアは減少する傾向にあったが有意差は認められなかった.一方PE施行前後では総ビリルビン, アンモニアはともに有意に減少した.AAAはCHP, PEでも変化せず, BCAAはPEでのみ有意に増加を認めた.意識の改善をみた症例ではCHP, PEによってAAAは減少しBCAAは正常化し, MRの改善を認め, EEGも改善した.明らかにMRとcomagrade, comagradeとEEGとの間には相関が認められた.CHP, PEは肝性昏睡に対しては両者とも有利と考えられたが, 肝硬変症では肝細胞の再生は期待できず, 劇症肝炎においても, 再生については効果はないと考えられた.肝硬変合併切除では残存する肝細胞機能を考えた手術適応が大切であり, 長期的には残存する肝細胞の賦活と再生を促す治療法との併用が必要と考えられた.

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