抄録
一期的切除不可能な肝芽腫に対し, 短期間の強力な化学療法により腫瘍の縮少をみた後に, 切除を施行するdelayed primary operationが試みられている.その化学療法として, 教室では以前よりAdriamycin (ADM) の肝動注療法および門脈注入療法に注目し, 臨床例に施行すると共に, 実験的にその有用性および副作用の心毒性について検討してきた.今回著者は一回大量ADM肝動注および門脈注入法を実験的に試みた.実験は雑種成犬を用いて, 肝動注群 (5頭) , 門脈注入群 (5頭) , 末梢投与群 (5頭) の3群を作成し, それぞれにADM一回大量投与 (1.5mg/kg) を施行し, 右心房血, 末梢血ADM濃度 (注入直後, 5分, 10分, 15分, 30分, 60分, 120分) , 剖検にて心筋内ADM濃度, 肝 (左下葉) および骨髄 (脊椎骨) 内ADM濃度を測定し比較検討し以下の結果を得た.1) 末梢投与群の末梢血および右心房血のADM最高血中濃度は他の2群に較べ高かった.2) 右心系 (右心房+右心室) 心筋内ADM濃度は, 末梢投与群が他の2群より高かった.3) 肝組織へのADMの移行は, 動注群と門脈注入群において極めて高値であった.4) 骨髄内のADM濃度は末梢投与群に有意に高かった.5) 末梢血および右心房血のADM最高血中濃度, 心筋内ADM濃度, 肝組織および骨髄内ADM濃度のいずれに関しても, 肝動注群と門脈注入群との間に有意差はなかった.以上の結果よりADM大量一回肝動注療法および門脈注入療法は肝組織内へのADM集積が高く, かつ末稍投与法に較べて心毒性が少なく, また骨髄内ADM移行は殆ど認められなかったことから, delayed primary operationを目指した術前短期化学療法として有効な投与法と考えられた.