昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
Print ISSN : 0037-4342
ISSN-L : 0037-4342
慢性アルコール性肝傷害における腎糸球体病変の病理組織学的ならびに免疫組織化学的検討
渡辺 秀義
著者情報
ジャーナル フリー

1988 年 48 巻 3 号 p. 393-399

詳細
抄録

慢性アルコール性肝傷害における腎糸球体病変について剖検例69例 (脂肪肝41例, 脂肪性肝硬変28例) を, 正常例および非アルコール性肝硬変例を対照に用いて, 比較検討した.慢性アルコール性肝硬変例の腎糸球体変化の主体はメサンギウム基質の増加であり, 脂肪肝例65.8%, 脂肪性肝硬変例96.4%にびまん性のメサンギウム基質の増加をみた.中等度以上の変化がみられたものに限ってみれば, それぞれ14.6%, 50%の頻度で変化がみられ, 対照の正常例 (9.1%, 中等度以上0%) とは明らかな差を認めた.免疫組織化学的な検索では, IgA免疫グロブリンのメサンギウム基質への沈着が高率にみられた.IgA免疫グロブリン陽性率は, 脂肪肝例21.1%, 脂肪性肝硬変例55.6%であり, メサンギウム基質の増加には, IgA免疫グロブリンの関与が考えられた (対照例では7.7%にIgA陽性) .また, さらにアルコールによる変化を精査する目的で糸球体瘢痕化率および小動脈を検索したが, 特に糸球体瘢痕化率において, 対照例では, 30歳代で平均1.07%, 40歳代では2.36%, 50歳代では3.33%, 60歳代では10.27%の値を示すのに対して, 慢性アルコール性肝硬変例では30歳代の低年齢層から平均値で7.37%と高い率を示しており, 非アルコール性肝硬変例が対照例と同程度の瘢痕化率に留まっているのとは対照的な結果を得た.今回の検索では, 従来言われているように, 慢性肝疾患例における腎糸球体病変と同様に脂肪肝, 脂肪性肝硬変に代表される慢性アルコール性肝傷害例においてもメサンギウム基質の増加が確認され, IgAとの関連も示唆された.これはアルコールによる肝傷害の影響と考えられるが, これとは別に肝傷害に関係なく, アルコールによる二次的な変化と考えられる糸球体瘢痕化が高度に認められた.これはその瘢痕化の分布状況等から考えて細動脈レベルの障害による虚血性変化と考えるのが妥当と思われた.以上のように, 慢性アルコール性肝疾患における腎糸球体病変は, 他の慢性肝疾患における変化と同様に, 肝疾患に伴うIgA腎症と考えられる変化が高率に認められたが, その他にアルコールによる二次的な変化が加わり腎糸球体変化を複雑にしているものと考えられ, 特に高血圧性変化の関与が示唆された.

著者関連情報
© 昭和医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top