昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
Print ISSN : 0037-4342
ISSN-L : 0037-4342
動脈管開存症における心房性Na利尿ペプタイド分泌に関する研究
―動脈管結紮術前後の変動ならびに重症度との関係について―
野嵜 善郎稲葉 美徳
著者情報
ジャーナル フリー

1989 年 49 巻 3 号 p. 269-276

詳細
抄録
左心系の容量負荷疾患である動脈管開存症 (PDA) において, 結紮術前後での血行動態の変化に伴う心房性Na利尿ペプタイド (ANP) の変動を検討した.対象は小児8例 (年齢11カ月~15歳) と, 37歳の成人1例の計9例である.9例の術前血漿ANPは157.8±118.6 (Mean±SD) pg/mlと高値を示していた.ANPは麻酔導入により上昇したが, PDA結紮後は速やかに低下し, 術後3日には56.3±39.2 (Mean±SD) pg/mlとなり術前に比べて明らかな低値を示していた.脈拍数には結紮前後を通して有意の変動は認められなかった.また, 血圧は麻酔導入前後で有意の変動がなく, 結紮により収縮期圧, 拡張期圧はともに上昇していた.これらのことより, PDA結紮前後でのANPの変動に対する脈拍数や血圧の影響は少ないものと思われた.4症例については術中にSwan-Ganzカテーテルを留置し, 平均中心静脈圧 (CVP) および平均肺毛細管楔入圧 (PCWP) を経時的に測定し, 左右心房負荷の血漿ANP分泌に対する影響を検討した.結紮により左房圧を反映するPCWPの低下とともにANPも低下し, ANPには結紮前および結紮後を通してPCWPと有意の相関が認められた.結紮の前後を比較すると, 結紮前の方がより強い相関を示していた.しかしながら, ANPとCVPとの問には相関がなかった.PDAにおいては, 左心房における圧負荷は主として左心系の容量負荷によりもたらされるが, 圧負荷だけの場合よりも, 容量負荷による左房壁の伸展を伴う場合に, ANP分泌がより亢進するものと思われた.PDAの重症度を示すとされる他の指標と比較すると, ANPはQp/Qs (肺体血流比) やPp/Ps (肺体動脈収縮期血圧比) および肺動脈平均圧とは有意の相関を示し, 心胸郭比>55%の症例では有意に高く, PDA重症度評価に有用であると思われた.さらに, 血行動態の指標のひとつとして, 心エコー法による心時相 (STI) を経時的に記録し, ANPと比較した.術前にはANPはLVSTI (左室心時相) との問には相関関係を示さなかったが, RVSTI (右室心時相) とは有意の相関を示していた.RVSTIは, Qs/QsやPp/Psおよび肺動脈圧との間に有意の相関関係を示していたが, このことからもANPはPDA重症度の指標のひとつとなり得ると考えられた.
著者関連情報
© 昭和医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top