抄録
教室では開心術における心筋保護法の向上を目的として実験研究を続けており, そのなかから有効性が示唆され安全性が確認された方法を実際に臨床応用している.心筋保護法としてcardioplegia法は広く利用されている.本研究では術前左心機能が比較的均一な増帽弁置換術10症例を選んでcardioplegia液を臨床的に検討した.実験で有効性が認められた酸素化crystalloid cardioplegic solutionを使用した5例と非酸素化crystalloid cardioplegic solutionを使用した5例について, 再灌流後早期および術後48時間までの心機能の回復について比較検討した.大動脈遮断を解除し冠灌流が再開され心拍動を得るまでの時間, DC電気除細動を行った回数, ペースメーカーの使用例数などから再灌流開始後早期の心機能の回復についてはOCP群が優れている傾向が示唆された.術後ICUでのCardiac Indexの経過ではOCP群は6時間後から術前値へ回復したが, NOCP群はLOSに陥った例などがあり回復が良好とはいえなかった.臨床的には多くの要因が複雑に関係し合うことを考慮しなくてはならないが酸素化crystalloid cardioplegic solutionは非酸素化crystalloid cardioplegic solutionより心筋保護上有用であることが示唆された.