昭和医学会雑誌
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昭和大学における薬物, 毒物中毒の現状と問題点; アンケート調査結果報告
西村 有希小林 真一藏當 辰彦内田 英二安原 一小口 勝司五味 邦英山元 俊憲黒岩 幸雄
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1991 年 51 巻 3 号 p. 310-318

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抄録
現在, 我が国においては中毒情報センターが筑波, 大阪に設立され, 「中毒110番」として業務が開始されている.しかし, これらの「中毒110番」は中毒情報の提供にとどまり, 中毒医療システムとしての原因物質の同定からそれに対する対処 (治療) までが速やかに実施されているとは言い難い.そこで, 昭和大学の特色を生かし, 本学に中毒医療システムを確立するため, 今回, 医学部の第一, 第二薬理学教室, 臨床病理学教室, 薬学部の薬理学教室, 毒物学教室が共同し, 臨床での中毒の現状を把握する目的で本院及び付属病院の臨床各科 (計49科) に対し, アンケート調査を実施した.アンケートを郵送したところ回収率は57.1% (28科) であり, 次のような結果が得られた.薬物による急性中毒, 慢性中毒の経験は各々年間約81件, 9件であり, 患者は「成人」が多く, 中毒の動機・原因は「薬物療法」, 「自殺」が多かった.原因薬物の推定は「問診」や「臨床症状や所見より」が約80%を占め, 「文献検索や専門家に相談」も9.4%あった, また, 原因薬物の確認は「臨床病理」, 「製薬会社等の研究所」, 「薬学部毒物学教室」で行なわれていた.原因薬物を確認しなかった約半数でも, もし中毒医療システムがあり, 生体サンプルを十分採取していれば原因薬物の確認ができたとの回答であった.治療方針の決定は「独自の経験から」が43.5%と多く, 「文献検索」, 「専門家に相談」が約半数を占めていた.一方, 毒物による中毒では, 急性中毒, 慢性中毒の経験は各々年間約20件, 7.5件であり, 対象の患者, 中毒の動機・原因, 原因毒物の推定, 確認及び原因毒物を確認しなかった理由は薬物中毒の場合とほぼ同様であった.治療方針の決定は「文献検索」, 「専門家に相談」が各々36.4%と薬物中毒の場合より多く, 「独自の経験から」は22.7%と, 薬物中毒に比し, 中毒の治療にはより専門的な知識, 情報を医療現場では必要としていることが示された.このような現状において, 中毒医療システムの確立や教育の必要性は全科で「必要である」 (100%) と回答している.即ち, 昭和大学の特徴を生かし, 個々の機能をシステム化し, 中毒医療に貢献するためのシステムを確立し, さらにこの分野の教育を充実する必要性が今同のアンケート調査により示された.
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