昭和医学会雑誌
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両側唇裂に対する一条痕化手術後の肥厚性瘢痕の発生について一条痕化手術後の肥厚性瘢痕の臨床的観察
野崎 忍
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1993 年 53 巻 1 号 p. 47-56

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抄録

両側唇裂に対する2次修正として開発された鬼塚の一条痕化手術は, 両側唇裂患者の白唇部の創痕を1本にすると同時に, 鼻柱延長が行える画期的な手術法である.しかし上口唇の組織量が健常者より少ない両側唇裂患者で, 上口唇組織の一部を鼻柱の延長に用いることにより, 上口唇が緊張を持って縫合されるために肥厚性瘢痕の発生が懸念される.今回, 一条痕化手術後の瘢痕の病態を明らかにするために臨床的観察を行った結果, 口唇の裂型では完全唇裂が不完全唇裂より, 口蓋裂非合併例が口蓋裂合併例より肥厚性瘢痕の発生が多かった.初回一条痕化手術を施行した10例中6例に肥厚性瘢痕を認めた.また手術時年齢の高いほど, 肥厚性瘢痕の発生率は低くかった.以上のことより上口唇組織に余裕がある症例ほど一条痕化手術後に肥厚性瘢痕を生じにくいと結論できる.両側唇裂の2次修正としての一条痕化手術後の肥厚性瘢痕発生率は全体では27.8%であった.部位としては鼻孔底 (横) に多かった (25.7%) .しかし1986年以後年々発生率が低下し, 1990年には19.0%と著明に改善していた.その原因としては, 鼻翼基部の皮弁を鼻孔底に挿入するという術式の改良が最も考えられた.また小三角弁を右に作成した症例が左に作成した症例より肥厚性瘢痕の発生が少なかった.表在X線照射, トラニラスト投与による肥厚性瘢痕発生率に有意差は認められず, 症例の選択にも問題はあろうが, 一条痕化手術後の肥厚性瘢痕予防には否定的であった.性別, 手術既往は肥厚性瘢痕の発生に影響を与えなかった.

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